「住む場所」が変わると、食卓はどう変わるのか
仕事や留学、家族の都合で生活環境がガラリと変わったとき、真っ先に影響を受けるのが毎日の食事です。これは海外移住に限った話ではなく、転勤や引っ越しなど、あらゆる「環境の変化」に当てはまります。2026年に栄養科学の国際誌『Nutrients』に掲載された研究は、ナイジェリアからオーストラリアに移住した人々の食と生活習慣の変化を丁寧に追い、将来の健康リスクとの関連を探りました。
研究の概要──移住前後を比べてみると
この研究は、1992年から2019年の間にナイジェリアからオーストラリアのニューサウスウェールズ州に移住した成人93人を対象に実施されました。平均年齢は37歳、男女はほぼ半々。移住の直前12か月と直後12か月の食事内容・生活習慣・健康状態を、文化的背景に配慮したアンケートで比較しています。
移住後に起きた「5つの食の変化」
- 朝食を抜きがちになった:毎朝きちんと朝食をとる人の割合が約24ポイント減少しました。食事のタイミングが不規則になる傾向も強まり、生活リズムの乱れが食卓に反映されていました。
- 地元の伝統食が遠ざかった:ナイジェリアの伝統的な料理を日常的に食べる人は、移住後に約54ポイントも減少。慣れ親しんだ食文化が手に入りにくい環境では、食の選択肢が大きく変わります。
- 肉・乳製品・脂質の摂取が増えた:肉類の摂取頻度は約19ポイント増、脂質を含む食品も約14ポイント増加。高カロリーな食品へのシフトが見られました。
- ノンアル飲料を含む飲み物の摂取が増えた:アルコールを含まない飲料の摂取が約23ポイント増加しました。清涼飲料水や加工飲料の機会が増えたと考えられます。なお、喫煙率とアルコール摂取量は移住前後でともに低い水準のまま安定していました。
- 野菜の摂取はわずかに改善、果物は低水準:野菜を定期的に食べる人は約5ポイント増えた一方、果物を定期的にとる人は13%にとどまり、課題として残りました。
現在の健康状態は「良好」──でも将来は?
調査時点での慢性疾患の報告は少なく、高血圧が6.5%、肥満が5.4%という結果でした。これだけ見ると「問題なし」と感じるかもしれません。しかし研究チームが強調するのは、食習慣の乱れは今すぐ病気として現れるわけではないという点です。朝食を抜いたり、脂質や加工食品が増えたりという変化は、じわじわと積み重なり、10年後・20年後の心血管疾患や糖尿病リスクを高める可能性があります。「今は元気」だからこそ、食習慣を早めに整えておくことが重要だと、研究は示唆しています。
「環境の変化」は誰にでも起きる
この研究はオーストラリアへの移住者を対象にしていますが、その示唆は私たちの日常生活にも重なります。転勤で一人暮らしを始めた、在宅ワークで生活リズムが変わった、子育てで食事が後回しになってきた──そんな「環境の変化」が重なるとき、食卓は静かに様変わりしていきます。
大切なのは、変化に気づいた時点で「選び直す」こと。特定の食品を「禁止」するのではなく、自分の生活スタイルに合った食の選択肢を少しずつ整えていくアプローチが、長く続けられる健康習慣につながります。
ノンアル・節酒との接点──飲み物を「選ぶ」視点
今回の研究で注目したいのが、アルコール摂取は安定して低かった一方で、ノンアル飲料の摂取が増えた点です。これは「飲み物を意識的に選ぶ」習慣が、食全体を整えるひとつの入り口になりえることを示唆しています。何を飲むかを意識することは、何を食べるかを意識することと地続きです。ノンアルやローアルコールの飲み物を日常に取り入れることは、飲み物の選択肢を広げ、食卓全体を見直すきっかけにもなるでしょう。
研究のまとめ
- 環境が変わると食習慣は大きく変化し、慢性疾患リスクが将来高まる可能性がある
- 朝食・伝統食の減少、脂質・肉類の増加が顕著な変化として確認された
- 現時点の健康状態が良好でも、早めに食習慣を整えることが重要
- アルコール摂取は低く安定、飲み物を「選ぶ」意識が食全体の見直しにつながる
- 文化的背景に配慮した、実生活に根ざした食支援の必要性が示された
本記事は研究紹介であり、医療的助言ではありません。




