自分は「測る側の人間」だと思っていた

Apple Watchを左手首に巻いて、Untappdで飲んだクラフトビールをチェックインして、週末の2日だけ飲む。この運用を始めてから、もうすぐ2年になる。数値で測ると行動が変わる、ログを取ると選択に迷いがなくなる——そういう感覚が自分には合っていると、長い間信じて疑わなかった。

ところが先月、ちょっとしたきっかけでノートに手書きの記録をつけはじめた。理由はたいしたことではない。スマートフォンのバッテリーが切れた状態で飲み屋に入り、仕方なくビアコースターの裏に飲んだものをメモしたのが最初だった。そのコースターを家に持ち帰り、手帳に貼り付けたら妙に愛着がわいて、それから3週間ほどアナログ記録を続けてみた。

その体験が、正直なところ想定外だった。「デジタルのほうが優れている」という自分の前提が、少しだけぐらついた。

デジタル記録が得意なこと、苦手なこと

得意なこと:傾向を「面」で捉える

Untappdのデータをスプレッドシートに書き出してグラフ化すると、1週間・1ヶ月単位の飲酒パターンが一目で並ぶ。Apple Watchを見ると、飲酒した日の心拍数の変動や睡眠スコアとの重なりを確認できる。個別の夜の記憶が薄れても、数値は正直に残る。「先週は木曜だけ例外的に飲んでいた」「3連休の中日は飲酒量が増える傾向がある」——こういった法則を見つけるのは、デジタルログの圧倒的な得意領域だ。

自分の場合、週末2日のみという枠を運用しているが、その枠が守られているかどうかをチェックするのもデジタルが速い。ログを取ると、自分の「感覚」と「実際」のズレが数値として浮かび上がる。「そんなに飲んでいないつもり」が、グラフで見ると微妙にブレていた週が確認できる。客観的な鏡として機能する点で、デジタルに敵うものは今のところない。

苦手なこと:「なぜその夜に飲んだか」が消える

一方で、3週間のアナログ記録で気づいたのはここだった。デジタルログには「何を・何杯」は残るが、「なぜその夜に飲みたかったのか」が記録されない。Untappdのチェックインには評価コメントを書く欄があるし、自分も使っているが、正直なところ「フルーティで飲みやすい」のような味の感想がほとんどだ。

ノートに書いていた3週間は違った。量の記録より先に、その日の気分や文脈が自然と文字になった。「締め切り前で頭が重くて、ビールで区切りをつけたかった」「友人と久しぶりに会えて、祝杯というより安堵感で飲んだ」。書いた翌朝に読み返すと、数値では出てこなかった動機の地図がそこにあった。飲む量や頻度より先に、飲む理由を知ることができた。

アナログ記録が得意なこと、苦手なこと

得意なこと:感情の文脈を拾う

手書きの最大の強みは、思考が遅い点にある。キーボードやタッチパネルのように素早く入力できないから、必然的に言葉を選ぶ時間が生まれる。自分が試した3週間で印象的だったのは、「今夜はなぜ飲みたいのか」を書こうとしたとき、答えに詰まった夜が2回あったことだ。理由がうまく言葉にならない夜は、結局飲まずに終わった。強制したわけでも、我慢したわけでもない。書こうとしたら、飲む理由が見当たらなかっただけだ。

これはデジタルでは起きにくい体験だった。Untappdへのチェックインはボトル名を検索してタップするだけなので、飲み始める前に手が止まることがない。記録のハードルが低いのは利点でもあるが、行動を振り返らせるブレーキにはなりにくい。

苦手なこと:比較と集計に手間がかかる

逆にアナログが弱いのは、振り返りのコストだ。1ヶ月分の手書きログから「飲んだ日数の合計」を出そうとすると、ページをめくりながら数える作業が発生する。グラフを描こうとすれば、当然自分で手を動かすことになる。記録コスト自体は低いが、分析コストが跳ね上がる。傾向をデータとして扱いたい場面では、明らかに非効率だ。

また、継続の安定感もデジタルのほうが上だと感じた。Apple Watchはリマインダーを送ってくるし、Untappdはストリーク(連続記録)を表示する。ノートは自分が能動的に開かなければ何も言ってこない。ログを取るという行為の習慣化という点で、デジタルは仕組みで支援してくれる。

結局、どちらが「向いているか」ではなく「何を知りたいか」で選ぶ

傾向を管理したいなら、デジタル一択

飲酒量の推移を把握したい、週単位のパターンを数値で確認したい、睡眠や体調との関係を見たい——そういう目的であれば、デジタルが圧倒的に向いている。Apple Watchを見ると、ある夜の心拍数の乱れが翌朝の倦怠感とどう重なっているかを後から確認できる。データが蓄積されるほど、予測精度も上がる感覚がある。

動機を知りたいなら、アナログを一時的に試す価値がある

一方で、「なんとなく飲んでしまう夜が続いている」「飲む量より飲む理由が気になりはじめた」というタイミングでは、手書きを1〜2週間だけ試してみることをすすめたい。数値より言葉のほうが、自分の内側に近いところまで掘れることがある。完全に切り替えなくてもいい。デジタルは続けながら、感情の補足メモを手書きで添える「ハイブリッド」でも十分だ。

自分は今、その折衷案に落ち着いている。Untappdでの記録はそのまま続けながら、週に一度だけ手帳を開いて「今週、飲みたかった理由」を短く書き出している。5分もかからないが、そこで出てくる言葉が、翌週の飲み方にじわじわと影響を与えていると感じる。数値で測ると「量」が見える。言葉で書くと「意味」が見える。両方あると、ログの読み方がひとつ増える。

どちらが正解かより、今の自分が何を知りたがっているかを先に問うほうが、記録は長続きする。それが3週間の手書き実験から持ち帰った、小さくて確かな収穫だった。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。飲酒に関する健康上の不安がある場合は、医師や専門家にご相談ください。