「記録する」ことより「何の器に入れるか」のほうが大事だった

自分がはじめて飲酒量をデータで管理しようとしたのは、30歳を少し過ぎたころだった。使ったのはGoogleスプレッドシート。日付・飲んだもの・量(ml)・アルコール度数・純アルコール量(g)を手動で入力するシンプルなテーブルを自作して、毎晩ログを取り続けた。

それ自体は悪くなかった。1ヶ月分のデータが積み上がると、「週のどこで飲みすぎているか」が折れ線グラフで浮かび上がる。Apple Watchを見ると翌朝の心拍数との相関も取れるので、"飲んだ量×翌朝のコンディション"を自分なりに検証できた。

ただ、2年ほど続けて気づいたことがある。スプレッドシートは「集計の器」として優秀だが、「飲む場面での記録の器」としては少し重い。バーのカウンターで、いちいち度数を調べてセルに打ち込む作業は、どうしても続かなかった。

そこで試したのがUntappdとの併用だ。切り替えてみると、見えるものの解像度——いや、見えるものの種類そのものが変わった。今日はその話をしたい。

スプレッドシートの強み・弱み

強み:「自分だけの軸」でデータを切れる

スプレッドシートの最大の利点は、集計の自由度だ。自分の場合、「純アルコール量(g)」「飲み始めた時刻」「就寝時刻との差分」「翌朝のApple Watch睡眠スコア」を横に並べた独自テーブルを組んでいる。こうした複合的な分析は、既製アプリではなかなか実現しない。

たとえば、「飲み始めが20時以降の日は、翌朝の安静時心拍が平均で+4〜5bpm高い」という個人的な傾向は、スプレッドシートで初めて数値として確認できた。ログを取ると、感覚だったものが定量的な仮説になる。これがスプレッドシート運用の醍醐味だと思っている。

弱み:「入力コスト」が記録の継続率を下げる

一方で、入力の手間は無視できない。度数がわからないクラフトビールを飲んだとき、その場でラベルを調べてアルコール量を計算してセルに打ち込む——これを毎回やると、飲む行為そのものがタスクになってしまう。自分は几帳面な性格なのでなんとか続けたが、それでも外飲みの記録は抜けがちだった。記録の空白があると、分析の精度も落ちる。

専用アプリ(Untappdなど)の強み・弱み

強み:「その場で完結する」記録体験

Untappdはクラフトビールを中心としたチェックインアプリで、バーコードをスキャンするだけで銘柄・度数・スタイルが自動入力される。Apple Watchを見ると通知も飛んでくるので、席に着いてすぐ30秒でログが完結する。この「摩擦の低さ」は、外飲みの記録継続率を劇的に上げてくれた。

また、チェックイン履歴はカレンダー形式で一覧できるため、「飲んだ日・飲まなかった日」のパターンが視覚的に把握しやすい。缶ビールやワインのスキャンにも対応しているので、自宅の晩酌でも使える。記録することへの心理的なハードルが低く、気づいたら「続いている」状態になりやすい。

弱み:「数値の深掘り」には限界がある

ただし、Untappdの集計機能はあくまでアプリ内完結型だ。純アルコール量の累計は表示されるが、睡眠スコアや体重データと組み合わせた複合分析はできない。エクスポートしてスプレッドシートに取り込む手間をかければ可能だが、そこまでやる人は少ないだろう。「記録はできているが、分析には使えていない」という状態に陥りやすい点が弱みといえる。

自分が辿り着いた「二刀流」の使い分け

Untappdを「一次記録」、スプレッドシートを「月次分析」に

現在の自分の運用はこうだ。飲んだその日のうちにUntappdでチェックインし、一次記録を完了させる。そして月末に、Untappdのデータをスプレッドシートへ転記・整形して、Apple Watchの睡眠・心拍データと突き合わせる。こうすることで、記録の継続率と分析の深さを両立できるようになった。

ポイントは「完璧な一つのツール」を求めないことだ。記録フェーズと分析フェーズは、求められる性質がまるで違う。前者には速さと摩擦の低さが必要で、後者には自由な集計軸が必要になる。一つのツールで両方を満たそうとすると、どちらも中途半端になりやすい。

どちらか一方で始めるなら、「目的」で選ぶ

もし今からログを始めるなら、まず目的を一つ決めることをおすすめしたい。

  • 「とにかく飲んだ日を見える化したい」なら、専用アプリから入るほうが続きやすい。入力の摩擦が低く、カレンダー形式でパターンが一目でわかる。
  • 「睡眠や体調との相関を数値で追いたい」なら、スプレッドシートから入るほうが向いている。自分だけの分析軸を設計できる。
  • 「外飲みも自宅も両方きちんと記録したい」なら、二刀流が現実的だ。最初は転記作業が面倒に感じるが、月に一度の作業に限定すれば負担は小さい。

自分はデータ好きなのでスプレッドシートが性に合っているが、これが唯一の正解だとは思っていない。数値で測ると、自分の傾向が見えてくる——その体験さえ得られれば、器はどれでもいい。

「記録の器」を変えたことで気づいた、もう一つのこと

Untappdを使い始めてしばらく経ったころ、ちょっとした発見があった。チェックイン履歴を眺めると、飲んだ銘柄の記録が積み上がっていく。それが「消費の記録」であると同時に、「自分の好みの地図」になっていることに気づいたのだ。

好きなスタイル(IPAやセゾン)が明確になると、「とりあえず飲む」から「これを飲みたいから飲む」という選び方に自然とシフトしていった。量の管理と質の向上が同時に進んでいくような感覚は、スプレッドシートだけではたぶん生まれなかったと思う。

ログの器を変えることは、見える景色を変えることだ。どちらが優れているかではなく、今の自分に何が見えていないかを問うと、選ぶべき器が見えてくる。Apple Watchを見ると心拍の波形が手首の上にある。Untappdを開くと昨夜のIPAが記録されている。スプレッドシートには先月の純アルコール量の合計が並んでいる。この三つのデータが揃ったとき、自分の「飲み方の輪郭」がはじめて鮮明になる気がしている。

※本記事は一般情報であり、医療的助言・診断・治療の推奨を目的としたものではありません。飲酒量や健康状態に関するご不安は、医療機関にご相談ください。