断酒3年目になって、ようやく「量」と向き合えた

健診でDがついた日の帰り道、自分は「まあ、飲み過ぎだったんだろうな」と漠然と思っていただけだったんです。ビール500ml缶を2本、10年以上ほぼ毎晩。それが体の中で何をしていたかを、具体的な数字で考えたことは一度もありませんでした。

断酒を続けて3年が経った今、改めて飲酒とがんリスクの研究を読み直してみると、「曝露量」という視点がいかに大事かと気づきます。「飲んでいたかどうか」ではなく「どれだけ、どのくらいの期間、何を飲んでいたか」——その積み重ねをデータとして把握することが、自分の状況を正確に理解する出発点になると感じました。

今回は、研究で使われる「アルコール曝露量」の概念を生活者の言葉に翻訳しながら、自分の過去と現在を5つのステップで整理する方法をまとめます。

研究が示す「飲酒とがん」の基本的な構図

世界保健機関(WHO)傘下のIARC(国際がん研究機関)は、アルコール飲料をグループ1発がん性物質に分類しています。これは「ヒトに対する発がん性が証明されている」カテゴリです(IARC, Alcohol and Cancer)。

口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・乳房(女性)の7部位については、飲酒との因果関係が認められています。自分が特に気になったのは大腸と肝臓。健診でひっかかったのも肝機能の数値だったので、他人事ではありませんでした。

重要なのは「リスクは量に応じて変化する」という点で、「少量なら絶対に安全」とも「飲んだら必ずがんになる」とも研究は言っていません。だからこそ、自分が「どの位置にいたか」を把握する作業が意味を持つんです。

「アルコール曝露量」とは何か——単位を理解する

研究論文でよく登場する「ドリンク数(standard drink)」という単位があります。日本では「純アルコール量(g)」で表されることが多く、厚生労働省はアルコールの「節度ある飲酒量」の議論に際して1日あたりの純アルコール量を基準として用いています(厚生労働省, 健康日本21)。

ビール500ml缶(アルコール度数5%)に含まれる純アルコール量は約20gです。自分は毎晩2缶だったので1日40g、1年で約14,600g——つまり14.6kgのアルコールを10年間摂取していた計算になります。この数字を初めて算出したとき、さすがに少し固まりました。

「曝露量」は「1日の量 × 飲んでいた年数」で大まかに把握できます。研究が問うのもこの累積値です。

5つのステップ——自分のアルコール曝露量を書き出す

以下は、自分が実際に断酒後にノートで整理した手順をベースにしています。医療的な診断ツールではありませんが、自分の過去を客観視するための「事実の棚卸し」として使えます。

ステップ1:主に飲んでいたお酒の種類とアルコール度数を確認する

  • ビール(350ml缶、500ml缶、中瓶)、チューハイ(度数3〜9%で幅がある)、日本酒(1合=約22g)、ワイン(グラス1杯約150ml)など、主な飲み物を書き出す。
  • 純アルコール量(g)=飲んだ量(ml)× アルコール度数(%)÷ 100 × 0.8(アルコールの比重)で計算できる。
  • 例:ビール500ml × 5% ÷ 100 × 0.8 = 20g

ステップ2:「1日あたりの平均量」を正直に見積もる

  • 「少ない日」と「多い日」の平均を取る。外食時や週末は多くなりがちなので、週全体で合計してから7で割るほうが実態に近い。
  • 自分の場合は「毎日2缶」だったので迷わず40g/日。ただし接待や休日は3缶になることもあり、正直に平均を取ると45g前後でした。

ステップ3:「飲んでいた年数」を振り返る

  • 飲み始めた年齢と、飲酒量が増えた時期・減った時期を年表形式で書き出す。
  • 「毎日飲み始めたのはいつか」「子どもが生まれてから増えたか、減ったか」など、ライフイベントと紐づけると思い出しやすい。
  • 「ほぼ毎日」と「週3〜4日」では年間曝露量がかなり変わるので、期間ごとに分けて記録するのが正確。

ステップ4:累積純アルコール量を算出する

  • (1日の平均純アルコール量g)×(飲んでいた日数)= 累積曝露量(g)
  • 自分の概算:40g × 365日 × 10年 = 146,000g(146kg)
  • この数字そのものが「良い・悪い」を即座に決めるわけではないが、研究でよく使われる「生涯累積飲酒量」の概念と照合する際の素材になる。
  • 算出後は、どの臓器への影響を研究が特に指摘しているか(前述の7部位)と照らし合わせて読むと理解が深まる。

ステップ5:「断酒・減酒後の経過期間」を記録する

  • 断酒・大幅な減酒を始めた日付を記録する。研究では、飲酒をやめてから時間が経つにつれてリスクが変化することが示されており、経過期間は重要な変数になる(Bagnardi et al., Ann Oncol, 2015, PMID: 27400738)。
  • 自分の場合は2023年7月から断酒を続けており、現在3年目。この「3年という事実」も、自分の状況を把握するデータの一つだと捉えています。

把握したあと、どう活かすか

このステップを踏んでわかることは「自分がどの位置にいたか」という事実だけです。ここから先——がん検診の頻度や受診先の判断——は、かかりつけ医と相談するための「素材」として使うのが適切だと思っています。

自分は断酒後に受けた胃・大腸の内視鏡検査で、初めて「自分の体の内側」を客観的な目で見ることができたんです。それまでの10年分の飲酒歴を医師に正確に伝えられたのは、こうして数字を整理していたからでした。

「怖いから考えたくない」という気持ちは、かつての自分にもありました。でも、数字を出して紙に書くと、不思議なことに恐怖より「把握できた」という感覚のほうが先にきます。データを持った状態で医療の場に臨むのは、自分にとっては今も大切な習慣です。

飲んでいた過去は変えられない。でも、それを正確に測ることはできる。測ることが、次の一手を選ぶ力になる。

今日のリサーチが、自分の体を知るための小さな入り口になれば幸いです。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。がんのリスク評価や検診の判断については、必ずかかりつけ医または専門医にご相談ください。