健診の数値が、私の「飲み方の地図」を塗り替えた
昨年の秋、会社の定期健診でγ-GTPの数値が基準値の2倍を超えていた。正確には112 U/L。担当医から「このまま続けると脂肪肝が進みますよ」と穏やかに、しかし明確に言われた瞬間のことを、今でもよく覚えている。以前は「酒豪とまではいかないが、毎晩一杯は当然」という感覚で生きてきたのだが、その言葉がじわりと効いた。
医師に勧められたのは完全禁酒ではなかった。「週に3日は飲まない日を作ること、飲む日も2杯までにすること」という、いわば量と頻度の整理だった。禁じられるより「設計してください」と言われる方が、50代の私にはかえって入りやすかった。
それから約1年。節酒を続けてわかったのは、「何日飲むか」という頻度より「何日空けるか」という間隔の意識が、ずっと実効性が高いということだった。
「頻度」と「間隔」——似ているようで、まるで違う発想
「週4日飲む」と「2日に1回飲む」は別物だった
節酒を始めた当初、私は「週4日は飲んでいいのだから、月火水木に飲んで金土日を休めばいい」と考えていた。これはこれで悪くないのだが、体感としては「週の前半に集中して飲んでいる感覚」が拭えず、木曜の夜が終わった後の金曜朝がどうも重かった。
ところが「2日飲んだら必ず1日空ける」という間隔ルールに切り替えてみると、同じ週4日ペースでも翌朝の感覚がまるで違う。肝臓がアルコールを代謝するのに必要な時間を、ちゃんと間に挟んでいるからだろうか。数値で証明はできないが、体は確かに「空白の1日」のありがたさを教えてくれた。
間隔を意識すると「今夜は飲まない」が選べるようになる
「頻度」で考えると、休肝日は義務感を帯びやすい。「今日は飲めない日」という制約の匂いがする。一方「間隔」で考えると、「昨日飲んだから今日は空ける」という因果関係になり、自分の行動に対する自然な応答として飲まない選択が生まれる。これが思った以上に気持ちよかった。強制ではなく、流れとして飲まない夜が来る感覚だ。
以前は「今日も飲むか、どうするか」と毎晩ゼロから判断していた。今は前の晩の自分が翌晩の自分に「今日は空けておいてね」とバトンを渡している。そのバトンがあると、夜の選択がずいぶんラクになる。
私が実際に運用している「間隔設計」の3つのポイント
ポイント①:連続飲酒は2日まで、3日目は必ず空ける
週3休肝というゴールを守りながら、私が決めたシンプルなルールはこれだ。飲んでいい日が続いても最大2連続まで。3日目は飲まない。これだけで週の中に自然と休肝日が3日生まれる計算になる。
カレンダーに「○(飲む)」「-(空ける)」を書き込むようにしたのは、節酒を始めて2ヶ月目のことだ。視覚化すると「連続が続きすぎている」ことに自分で気づけるようになった。スマートフォンのメモアプリで十分で、凝ったツールは必要なかった。
ポイント②:1日2杯の上限は「1杯目のペース」で決まる
以前は1杯目を飲み終わらないうちに2杯目を注文していた。今は1杯目を30分かけて飲み切り、「もう一杯飲みたいか」を確認してから頼む。この「間を空ける」行為が、量の間隔設計でもある。
飲み会の席では難しい場面もあるが、「ゆっくり飲む人」として認識されてしまえばむしろ楽だ。誰も私の杯の速度をそれほど気にしていないことも、この1年でわかった。
ポイント③:週の終わりに「間隔の振り返り」を5分だけ
日曜の夜、今週の○と-を見返して「連続が2日を超えた日はなかったか」「2杯ルールは守れたか」を確認する。振り返りといっても採点ではなく、次週の設計のためのメモだ。うまくいかなかった週は、何が引き金になったかを一言書き留める。仕事の締め切り前後に飲みすぎる傾向があることも、この振り返りで見えてきた。
1年後の数値と、体感の変化
今年の春に受けた健診では、γ-GTPが47 U/L まで下がっていた。基準値(成人男性で概ね50 U/L以下とされることが多い)をようやく下回った数字だ。医師からは「よく続けましたね」と言われた。その言葉が思いのほか嬉しかった。
数値だけでなく、体感の変化も正直に書いておく。まず朝が違う。以前は6時に目が覚めても頭に霞がかかっているような感覚があったが、今は5時台に自然と目が覚めて、しかくすっきりしている日が増えた。次に、飲む日のお酒が以前より美味しく感じる。量が減ったぶん、1杯目の一口に意識が向くようになったのだと思う。完全に飲まなくなったわけではないが、「選んで飲む」という感覚が生まれたのが一番大きな変化かもしれない。
体重については、節酒を始めた当初の半年で2キログラム程度落ちた。劇的な変化ではないが、腹囲が1〜2センチ変わったことは健診の記録に残っている。お酒のカロリーを減らした直接効果というより、深夜に何か食べたくなる習慣が自然に減ったことの影響が大きかった気がしている。
「間隔」は、飲む楽しみを守るための設計でもある
節酒というと、どうしても「我慢」のイメージがつきまとう。しかし私は1年間を通じて、それほど我慢しているという感覚がなかった。飲まない日は飲まないことが普通になり、飲む日は飲むことを楽しんでいる。このメリハリが、節酒を「続けること」から「生活のリズム」に変えてくれた。
間隔を整えることは、飲む楽しみを手放すことではない。むしろ「今日は飲んでいい日」の一杯を、ちゃんと味わえるだけの余白を体に作ることだ。50代になって、量を競うより質を丁寧に選ぶ飲み方の方が自分に合っていると気づけたのは、γ-GTPの数値が教えてくれた、小さくて大事な転機だったと思っている。
もし健診の数値が気になっている方がいれば、「何日飲まないか」より「何日空けるか」という問いの立て方を、一度試してみてほしい。同じゴールでも、そこへ向かう道がずいぶん歩きやすくなるはずだ。
※本記事は一般情報の提供を目的としており、医療的助言・診断・治療の推奨を行うものではありません。健康上の不安や具体的な症状については、必ず医師や医療機関にご相談ください。




