結論。40gと20gは、守ってよい量ではなく危険側の境目です
結論から書きます。厚生労働省が示している純アルコール量の男性40g、女性20gという数字は、適量でも推奨量でもありません。生活習慣病のリスクを高める飲酒量として提示された境目です。自分はログを取り始めた頃、この数字を上限の許可証のように読んでいました。今は完全に読み違えだったと思っています。そしてこの読み違いを支えてきたのが、お酒が心臓を守るという古い前提でした。その前提の根拠のひとつが、2026年9月に公表された再計算で反転しています。
まず、数字の出どころを確認します
「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」は、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、1日あたりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上という値を示しています(厚生労働省)。「以上」であって「まで」ではありません。ここを読み替えた瞬間、意味が逆になります。
要点: 40gと20gは目標値ではなく、越えるとリスクが上がる側の数字です。
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何が起きたか。0.57が1.41に入れ替わっていました
2026年9月、Scandinavian Journal of Primary Health Care に、飲酒と心筋梗塞・生存に関する既発表の推定値には訂正と再解析が必要だ、とする論文が掲載されました(PMID 42712025)。
対象は、973人を30年追った職域コホートです
この論文は新しい追跡調査ではなく、既に公表されている集計データから独立にオッズ比を計算し直した批判的コメンタリーです。対象になったのは、スウェーデンの自動車工場で働く男性973人を30年間追跡したコホート研究の報告でした(PMID 42712025)。
心筋梗塞の数字が逆を向いていました
再計算の結果はこうです。公表された抄録は心筋梗塞に対してオッズ比0.57を割り当てていましたが、報告されている実数から計算すると1.41になる。そして0.57のほうは、心筋梗塞ではなく全死因死亡に関する数字だった、という指摘です(PMID 42712025)。
1.0公表された抄録 0.57(リスク低)実数からの再計算 1.41(リスク高)※破線が1.0。左がリスク低、右がリスク高を意味します
図: 心筋梗塞のオッズ比、公表値と再計算値(PMID 42712025 の報告に基づく)
1.0を挟んで反対側です。1未満なら守られている方向、1より大きければリスクが高い方向を意味するので、結論の向きがそのまま入れ替わることになります。
要点: 守っていた数字が、実数からは逆向きに出ていました。
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指摘されたのは計算間違いだけではありません
同じ論文は、生存時間の用語の使い方、表と図の間の数値の食い違い、競合リスクの扱い、多重比較、そして残差交絡を挙げています。なかでも自分が注目したのは sick-quitter bias、いわゆる病気で酒をやめた人が「飲まない人」に混ざる問題です。
体調を崩してやめた人を非飲酒群に入れると、非飲酒群の健康状態が実際より悪く見えます。すると相対的に、飲む人のほうが健康に見える。この構図はJカーブをめぐる議論でも繰り返し指摘されてきました。詳しくはJカーブがなぜ否定されたかを研究デザインから読み解いた記事にまとめられています。
著者らの結論は明快で、この報告が支持するのは探索的な関連にとどまり、飲酒による心保護や生存利益を確立するものではない、というものでした。
要点: 数字が合っていても、誰を比べたかがずれていれば結論はずれます。
日本の読者にとって何を意味するか
自分はApple Watchと記録アプリで1日の純アルコール量を追っています。この論文を読んでから、ログの見方をひとつ変えました。
40gを上限として使わないことにしました
以前は週の合計を280g以内に収めることを目標にしていました。40g×7日です。でもガイドラインの40gはリスクが上がる側の境目なので(厚生労働省)、これは危険側の量を毎日続ける設計でしかありませんでした。今は週の合計で見て、飲む日を2日に絞っています。
純アルコール量の出し方は、量(ml)×度数(%)÷100×0.8です。500mlで5%のビールなら20gになります。式と早見の使い方は計算方法をまとめた記事に書きました。20gが実際どのくらいの量に当たるかは飲料別に並べた記事のほうが早いと思います。
要点: 上限として使うか、境目として使うかで、同じ数字の意味が変わります。
今日からできること
- 自分の1日あたりの純アルコール量を、式で一度だけ計算してみる
- 40gや20gを「ここまでは大丈夫」と読んでいないか確認する
- 週の合計で見る。1日単位だと、越えた日の記憶が薄れます
- 心臓によいという理由で飲んでいるなら、その根拠がどこから来たかを確かめる
よくある質問
純アルコール量40gはお酒でいうとどのくらいですか
度数5%のビールなら1000ml、つまり500ml缶2本に相当します。量(ml)×度数(%)÷100×0.8で計算でき、この式はガイドラインにも示されています(厚生労働省)。女性の20gは500ml缶1本ぶんです。
40gを超えなければ健康に問題はないのですか
そうは言えません。ガイドラインが示しているのは、生活習慣病のリスクを高める量として男性40g以上、女性20g以上という値であって、それ未満なら安全だという意味ではありません(厚生労働省)。疾患によってリスクが上がり始める量は異なります。
男性と女性で数字が違うのはなぜですか
体格や体内の水分量、アルコールの分解に関わる条件が異なるためとされています。同じ量を飲んでも血中濃度が変わるので、同じ基準を当てはめられません。
お酒が心臓によいという話はもう成り立たないのですか
今回の論文が示したのは、ある1件の報告について、公表された推定値が実数と合っておらず、心保護や生存利益を確立するものではないという指摘です。1件の再計算がすべての研究を否定するわけではありません。ただし同種の指摘は繰り返し出ています。
この論文は新しい研究ですか
新規の追跡調査ではありません。既に公表されている集計データから独立にオッズ比を計算し直した批判的コメンタリーです。ここは読み分けておく必要があります。
この論文で言えないこと
1件のコメンタリーなので、飲酒と心血管疾患の関係全体に決着をつけるものではありません。対象も男性973人という限られた集団です。言えるのは、ある報告の数字が内部で食い違っており、そこから導かれた心保護という解釈は支えられない、というところまでです。
自分のログに戻ります。今週は飲む日を2日に決めてあります。数字を上限として使うのをやめただけで、迷う時間がずいぶん減りました。まずは自分の1日分を、式に入れてみてください。
※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。

