健診の数字が、「一杯」の定義を壊した
医師から減酒指導を受けたとき、私は「そんなに飲んでいる自覚はない」と正直思っていた。毎晩缶ビールを2〜3本、週に一度は日本酒を合わせて……という生活だったが、自分の感覚では「普通の晩酌」だった。ところがγ-GTPの数値は基準値のおよそ2倍を超えており、医師は淡々と「量を減らしてください」と言った。
その日から、私は「一杯とは何か」を疑うことにした。以前は「缶ビール1本=一杯」「日本酒1合=一杯」という感覚で数えていた。しかし本当にそうなのか。グラスの容量も、注ぐ量も、度数も——全部まとめて「一杯」で済ませていたのが、そもそもの問題だったのかもしれない。
「一杯」はグラスではなく、純アルコール量で測るものだった
度数と容量の掛け算を、初めてきちんと計算した
お酒に含まれる純アルコールの量は、「容量(ml)× 度数(%)× 0.8(アルコールの比重)」で計算できる。これを知ってはいたが、毎晩ちゃんと計算したことは一度もなかった。
試しに計算してみた。缶ビール(500ml・5度)なら純アルコール量は20g。日本酒(180ml・15度)なら21.6g。「ちょっと一杯」と思って飲んでいたグラスワイン(200ml・12度)でも19.2g。どれも一杯あたりの純アルコール量は似たようなものだった。
問題は、「一杯を何杯飲むか」だ。以前の私は缶ビール500mlを2本飲んだあと、日本酒を少し……という夜が珍しくなかった。計算すると純アルコールで60gを超える日もあった。それを「普通の晩酌」と呼んでいたのだから、γ-GTPが暴れるのも当然だったかもしれない。
度数の違いが、体感のズレを生んでいた
節酒を始めて最初に変えたのは、「低アルコール飲料に切り替える」ではなかった。まず「自分が何をどれだけ飲んでいるか」を正確に把握するところから始めた。
そこで気づいたのは、度数による飲み方のズレだ。ビールと日本酒は、同じ「一杯」でも体感の強さが違う。日本酒は一口ごとのインパクトが強いため、ペースが速くなりやすい。ハイボールは薄く感じるので、気づかないうちに量が増える。ワインはグラスに注ぐ量が曖昧になりやすい。それぞれのクセを知らないまま「今夜は二杯まで」と決めても、抜け穴だらけだったわけだ。
「何を」「どれだけ」を決めてから飲む、という順番の変化
飲む前に純アルコール量を計算する習慣ができた
今の私のやり方はシンプルだ。飲む前に、その日選ぶお酒の純アルコール量をざっくり計算する。1日の上限を純アルコールで決めておき、それを超えない組み合わせを選ぶ。グラスに注ぐ量も、あらかじめ決めてから注ぐ。
以前は「飲み始めてから考える」スタイルだったが、それだと一杯目が入ったあとの判断は甘くなりがちだ。飲む前に計画を決めておくと、その後の判断がずいぶん安定する。当たり前に聞こえるかもしれないが、これを実際にやり続けるのは、やってみると意外に難しい。
グラスを小さくしたら、量の感覚が変わった
もう一つ変えたのは、グラスのサイズだ。以前は大きめのタンブラーに缶ビールをそのまま注いでいた。今は小ぶりのビアグラスを使い、250mlを上限として注ぐことにしている。同じ缶ビール1本でも、二度に分けて注ぐと飲む時間が延び、満足感が増す。これは体感として、かなり効いた。
日本酒はおちょこからぐい呑みに変え、一度に口に入る量を意識的に減らした。一口の量が減ると、ゆっくり味わうようになる。飲み終わるまでの時間が延びると、酔いが回る前に「もう十分かな」と感じるタイミングが来やすい。小さなグラスは節酒の道具でもあると、今はそう考えている。
数値の変化が、方向を確認させてくれる
週3の休肝日と「1日2杯まで」というルールを設けて半年ほど経ったころ、次の健診でγ-GTPが基準値内に戻った。医師は「よく守れましたね」と言ってくれたが、私としては「量と度数を正確に把握してから運用した」という感覚が強い。漠然と「減らす」と決めるよりも、純アルコール量という具体的な指標を持って動いた方が、自分には合っていた。
数字が動くと、やり方が正しい方向を向いていると確認できる。これは健診ならではの手ごたえだと思っている。体感だけではブレやすい。数値があると、自分の選択に根拠が生まれる。
「一杯の質」を上げると、飲む時間が豊かになる
節酒を始める前は、「飲む量を減らす=楽しみが減る」と思い込んでいた。しかし実際は逆だった。純アルコール量を把握して飲む量を絞ると、一杯一杯を丁寧に選ぶようになる。安いビールより、好きな銘柄を少量だけ。量より質に意識が向いた。
以前は飲み終わっても記憶が薄れていた夜があった。今は飲んだ銘柄や味を翌朝でもちゃんと思い出せる。これは小さな変化のようで、私にとっては大きな変化だった。「飲むこと」が、流し込む行為から選ぶ行為に変わった感じがする。
一杯の量と度数を見直すことは、禁欲でも我慢でもない。飲み方の解像度——いや、飲み方の「精度」を上げることだと、今の私は思っている。50代にして、ようやくお酒との付き合い方を学んでいる最中だ。
「何を飲むか」より「どれだけ飲むか」を先に決めると、一杯の満足度が変わる。
※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。飲酒に関する健康上の不安がある方は、医師や医療機関にご相談ください。

