「脳の話」を論文の外に持ち出したかった
断酒を始めたきっかけは、健診のD判定でした。肝臓の数値が理由だったんですが、その後に読んだ研究で気になったのは「肝臓よりも脳への影響」だったんです。10年以上、ほぼ毎日ビール500ml×2缶。自分の頭の中で何が起きていたのか、正直なところ断酒して初めて振り返る気になれました。
ただ、認知機能の研究は数値や専門用語が多くて、読んでいるうちに「で、自分はどうすればいい?」という問いが宙に浮きやすい。だから今回は、研究の知見を「今日この瞬間に試せる7つのチェック項目」に落とし込んでみました。セルフモニタリングのツールとして使ってみてください。
研究が示す「飲酒と認知機能」の現在地
少量でも、長期では影響が積み重なる
2022年にNature Communicationsに掲載されたオックスフォード大学の研究(Daviet et al., 2022, DOI: 10.1038/s41467-022-28735-5)では、飲酒量が増えるほど脳の灰白質体積が減少し、その傾向は「少量飲酒」でも観察されると報告されています。特に前頭前皮質や海馬周辺——つまり判断や記憶に関わる領域——で変化が見られた。
自分が毎晩缶ビールを開けていた頃、「少し物忘れが増えたかな」と感じていました。あれは気のせいじゃなかったかもしれない、と今は思っています。
断酒後の回復は「どの機能か」によって異なる
一方で、断酒後に認知機能が回復するという報告も多数あります。ただし、回復の速さと程度は機能によって差があります。処理速度や注意力は比較的早い段階で戻りやすく、一方でワーキングメモリや実行機能(計画を立てて実行する力)は時間がかかるケースも報告されています(Sullivan & Pfefferbaum, Alcohol Research: Current Reviews, 2019, PMID: 31649830)。
だからこそ、「断酒したから大丈夫」と安心するより、自分の認知機能の状態をこまめに観察する習慣の方が役立つと気づきました。
今日から使える認知機能セルフチェック7項目
以下は医療的な診断ツールではありません。日常の変化に気づくための「観察の入口」として活用してください。週に一度、手帳やスマホのメモに記録すると、時間の流れで変化を追いやすくなります。
- ①「昨日の夕食」を3品思い出す
エピソード記憶(日常の出来事の記憶)の簡易確認です。すぐに3品浮かぶか、少し詰まるかを確かめます。以前の自分は「何を食べたっけ」が増えていたんです。 - ②「今読んでいる本・記事」の前段を要約する
ワーキングメモリのチェックです。直前に読んだ内容を自分の言葉でまとめられるか。要約が断片的・あいまいになるようなら、情報の保持力に着目する価値があります。 - ③「今日やること」を紙に書かずに3つ言う
短期記憶と注意力を同時に確認します。口に出す、という行為が大切です。頭の中だけで完結させようとすると「できている気」になりやすいため、声に出すことで精度が上がります。 - ④「初めて会う人の名前」を翌日も覚えているか確認する
新規情報の符号化(記憶への書き込み)の確認です。飲酒習慣があった頃、自分は人の名前が抜けやすかった。断酒後1年を過ぎた頃から、これが明らかに変わったと感じています。 - ⑤「複数工程の作業」を手順通りに完了できるか観察する
料理・書類整理・DIYなど、手順が決まっている作業を途中でやり忘れたり順番を飛ばしたりしないか確かめます。実行機能(プランニング)のセルフモニタリングです。 - ⑥「会話中に言いたい言葉が浮かばない」頻度を振り返る
語想起(言葉を素早く引き出す力)の確認です。「あれ、なんだっけ、ほらあの……」が増えているかどうか。週単位で頻度が増えていないか、週末に5分振り返る習慣を自分はつけています。 - ⑦「集中が必要な作業」に何分で入れるか計る
注意の切り替えと集中の立ち上がりを確かめます。スマートフォンのタイマーを使って、読書・仕事・勉強などに「ちゃんと入れた」と感じるまでの時間を記録します。10分以上かかる日が続くようなら、睡眠や生活リズムとあわせて見直す手がかりになります。
チェックを「習慣」にするための3つのコツ
記録は「評価」より「観察」として残す
チェック結果を「良かった・悪かった」と採点するより、「今日はこうだった」と事実として書き残す方が続きます。自分はスマホのメモアプリに週1回、3行だけ書いています。評価を手放すと、変化への気づきが鋭くなるんです。
同じ時間帯・同じ条件でチェックする
午前中と深夜では、同じ人でも認知パフォーマンスに差があります。比較の精度を上げるために、「毎週日曜の朝食後」など条件をそろえてください。睡眠不足の翌朝は記録だけして分析に使わない、と決めておくのも一つの方法です。
「悪化」ではなく「変動」として読む
一度チェックが芳しくなくても、それは疲労や睡眠の影響かもしれません。研究でも、認知機能は単日ではなく数週間のトレンドで評価されることが多い。一喜一憂せず、月単位の流れを見る視点が大切です。
自分が3年間で感じた変化と、このチェックの意味
断酒して最初に気づいたのは、睡眠の変化でした。次に気づいたのが「言葉がすぐ出てくる」感覚だったんです。会話の中で詰まる頻度が減り、仕事の段取りが頭の中でスムーズに組み立てられるようになっていった。それが「認知機能の回復」というものなのか確かめたくて、研究論文を読み始めたのがこのリサーチ記事シリーズの出発点でもあります。
セルフチェックは、検査でも診断でもありません。ただ、自分の脳に「今日もどう?」と声をかける習慣だと思っています。今日紹介した7項目は、特別な道具も費用も要らない。今夜から始められます。まずは①の「昨日の夕食3品」から、試してみてほしいんです。
※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。認知機能に関して気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

