あの日、試着室でジーンズのボタンが閉まった
去年の秋のことだった。久しぶりに入ったセレクトショップで、何気なくデニムを手に取った。サイズは以前なら絶対に選ばなかったもの。「どうせ入らないけど」と半ば諦めながら試着室のカーテンを閉めて、脚を通した。
ボタンが、留まった。
鏡に映る自分を見て、少しの間、動けなかった。ウエストが余るわけでも、太ももがパツパツなわけでもなく、ちゃんと「自分の体のサイズ」としてそこにあった。その感覚が、妙に遠い記憶を呼び覚ました。
振り返ってみると、これが「体が変わった」と初めて実感した瞬間だったと思う。体重計の数字でもなく、誰かに言われたわけでもなく、試着室の小さな鏡の前で、ひとりで気づいた変化だった。
飲んでいた頃の体に、正直になってみる
「食べ過ぎた」ではなく「飲んだ翌日」だった
断酒する前の私は、体型の波をずっと「食べ方の問題」だと思っていた。でも今になって振り返ってみると、体が重く感じる日のほとんどは、前の晩に飲んでいた日と重なっていた。ノートに記録し始めてから、それが一目でわかるようになった。
お酒を飲むと、その場でつまみを食べる量が増えた。塩気の強いものが欲しくなって、気づいたら予定の倍は食べていた。翌朝は顔がむくんでいて、体全体がどこかぼんやり重い。それを「昨日食べすぎたからだ」と片付けていたけれど、本当の原因は別のところにあったのだと、今は思う。
カロリーより「食欲のリズム」の崩れが大きかった
5年やってみて気づいたのは、お酒が体重に与える影響はカロリーだけじゃないということ。飲むと夜遅い時間に食欲が出て、翌日の朝はお腹が空かないまま昼を迎えて、夜にまた食べすぎる。そのサイクルがずっと続いていた。食欲のリズムそのものが、飲む生活によって後ろにずれていたんだと思う。
断酒してから、朝に「ちゃんとお腹が空く」感覚が戻ってきた。これが思いのほか、体型への影響が大きかった。
変化は静かに、でも確実にやってきた
3ヶ月目——数字より「締まりの感覚」が先だった
断酒して最初の数ヶ月は、体重計の数字はあまり変わらなかった。だから「変化なし」と思っていたけれど、ある朝ふとベルトを締めたら、いつも使っていた穴のひとつ内側で留まっていた。
その日のノートには「ベルト、一穴動いた。体重は同じ。でも何かが変わっている気がする」と書いてある。今読み返すと、あの時期の体は数字より先に「形」から変わり始めていたのだと思う。脂肪が動く前に、むくみや炎症のようなものが静かに抜けていったのかもしれない。
1年を過ぎてから、ゆっくりと「減る」が始まった
体重の変化として自分ではっきり感じるようになったのは、断酒から1年以上経ってからだった。劇的な変化ではない。月に少しずつ、気づいたら去年と今年では明らかに違う、というペースだった。
5年やってみて気づいたのは、「早く結果を出そう」という意識がなかったことが、かえって良かったのかもしれないということ。体型を変えることを目標にしていたわけではなく、飲まない暮らしを選んだ結果として、体が少しずつ応えてくれた感じがある。
今の体で気づいていること
食欲の「理由」がわかるようになった
飲んでいた頃は、夜に何かが食べたくなる理由が自分でもよくわからなかった。お酒が欲しいのか、何かを口に入れたいのか、ただ手持ち無沙汰なのか、ぐちゃぐちゃに混ざっていた。
今は、夜にお腹が空いたとき「本当に空腹なのか、それとも疲れているのか」がわかるようになった気がする。疲れているときは温かいお茶を飲んで早めに横になると、食欲が自然に落ち着くことが多い。食べたいという気持ちと、体が必要としているものの距離感が、以前より掴めるようになった。
体型より先に「動きやすさ」が変わった
5年前の自分に「断酒すると体が変わるよ」と言っても、たぶんピンとこなかったと思う。でも今実感しているのは、体重や見た目より先に「動きやすさ」が変わったということ。
階段を上るときの息切れが減った。朝起きたとき、体が軽い日の割合が増えた。ショッピングで長く歩いても、以前ほど足が重くならない。そういう小さな積み重ねが、試着室での「好き」につながっていったのだと思う。
振り返ってみると、体型の変化というのは、鏡の前で突然起きるものではなく、毎日の「ちょっとした動きやすさ」が少しずつ蓄積した結果なのだと感じる。そしてそれに気づけたのは、ノートに毎日の体調を書き続けていたからだった。
試着室でジーンズを選ぶ、それだけのこと
断酒が体型を変える「正解」だとか、「確実にこうなる」とか、そういうことを言いたいわけではない。人によって体は違うし、私の変化が誰にでも当てはまるわけじゃないと思っている。
ただ、あの試着室で感じた「久しぶりに自分の体が好きだ」という気持ちは、本物だった。ダイエットを頑張った達成感でも、誰かに褒めてもらった満足感でもなく、飲まない暮らしを選び続けた5年間が、静かにそこに溜まっていた感じがした。
今日もノートに、朝の体調と気分を書く。それだけでいいと思っている。大きな目標を立てなくても、毎日少しずつ記録していると、「あの頃の自分と今の自分は違う」と気づける日がやってくる。
5年やってみて気づいたのは、体は正直だということ。飲まない時間が積み重なるほど、その正直さが少しずつ、鏡の前に現れてくる。だなって思うんです。
※本記事は一般情報であり、医療的助言ではありません。体型・体重に関する具体的なご相談は、医師や管理栄養士などの専門家にご相談ください。

