アルコールと腸内環境、結論から言うと何が起きているの?

結論から言うと、お酒は腸の粘膜のバリアをゆるめ、腸内細菌の構成を変えることが複数の研究で示されています。ただし、それを「リーキーガット症候群」という病名として扱うのは、いまの医学ではまだ早い段階です。起きている現象と、名づけられた症候群は分けて読む必要があります。

このテーマ、日本語で検索すると一気に情報が薄くなるんですよね。かわりに出てくるのがサプリメントの宣伝で、そこでは断定的な説明が並んでいます。今日は宣伝から離れて、英語で公開されている研究と日本の公的資料だけを材料に、わかっていることとわかっていないことを分けて書きます。平日ノンアル3年目の私が、自分の体調と照らしながらずっと気になっていた話です。

この記事で扱う3つのつながり

  • 腸:お酒が腸の粘膜と腸内細菌に何をするのか
  • 肝臓:腸で起きたことが、なぜ肝臓の話につながるのか
  • 気分:腸の状態と、気分や不安との関係はどこまで言えるのか

先に言っておきたい前提

腸の話は、断定しやすくて、断定するほど売れてしまう領域です。だからこそこの記事では、研究が示した範囲を超えないように書きます。読み終わったときに「ここまでは確かで、ここから先はまだわからない」という線が引けていれば成功です。

要点: お酒が腸のバリアと細菌構成に影響することは研究で示されています。ただし症候群としての診断名はまだ確立していません。

関連記事: 飲んだ翌日の不安と落ち込みはなぜ起きるのか。ハングザイエティの正体を研究で確かめました

そもそもリーキーガットとは?医学の言葉ではどう呼ばれている?

言葉の整理から始めます。ここが曖昧なまま読むと、研究の話と宣伝の話が混ざってしまいます。

研究の世界では腸管透過性と呼ばれています

腸の内側は粘液、上皮細胞の層、免疫のしくみという何層かのバリアでできていて、細胞と細胞の間はタイトジャンクションという構造でつながれています。このバリアがゆるんで、本来なら通らないはずの分子が通りやすくなる状態を、研究では腸管透過性の亢進と呼びます。英語ではintestinal permeabilityで、リーキーガットはその平たい言い換えにあたります。

症候群としては、まだ確立していません

消化器の専門誌に掲載されたレビューは、一般に出回っている「健康な腸」「漏れる腸」の情報は、食事からの除去やサプリメントの使用をすすめる前に確認が必要だと述べています(Gut 2019;68(8):1516-1526)。同じレビューは、腸のバリアの評価は上皮の層だけを測れば済むものではないことも指摘しています。つまり、測り方自体がまだ研究段階にあるということです。

言葉が独り歩きしやすい理由

腸の不調は誰にでも思い当たるところがあり、原因がはっきりしないことも多い領域です。そこに「腸が漏れているせいです」という説明が入ると、今まで説明できなかった不調に名前がついたように感じられます。この納得感の強さが、診断名として確立していない言葉を広めてきたのだと思います。納得感は入口としては悪くないのですが、そこから先に進むときは根拠を確かめたほうが遠回りになりません。

わからないから無関係、ではありません

ここを取り違えないでほしいのですが、診断名として確立していないことと、現象が起きていないことは別です。アルコールが腸の炎症を引き起こす経路については、査読付きのレビューがまとめています(Alcohol Res 2017;38(2):163-171)。このレビューは、慢性的な飲酒が腸内細菌の構成と働きを変え、腸の内壁の透過性を高め、腸の免疫バランスに影響するという3つの経路を挙げています。

要点: リーキーガットは診断名ではなく、腸管透過性という研究用語の言い換えです。現象の研究自体は積み上がっています。

関連記事: ノンアルコールを飲んではいけない場面は4つ。根拠の強さが全然違います

お酒は腸のどこに、どうやって影響するの?

ここからが本題です。メカニズムの話になりますが、できるだけかみ砕いて書きます。

アルコールとアセトアルデヒドが、バリアをゆるめる

飲んだアルコールは胃で少し、小腸で速やかに吸収されます。腸の中では、アルコールそのものと、分解の途中でできるアセトアルデヒドの両方が粘膜に触れ続けることになります。先ほどのレビューが整理しているのは、この曝露が腸の炎症を招き、その炎症がさらに障害を広げるという循環です(Alcohol Res 2017;38(2):163-171)。量が少ないときに同じことが起きるかどうかは、この研究の射程の外です。

腸内細菌の構成そのものが変わる

もうひとつが、腸内細菌への影響です。同じレビューは、慢性的な飲酒が腸内細菌の構成と機能を変えることを、腸の炎症を進める経路のひとつとして挙げています。腸内細菌は食事の影響も大きく受けるので、お酒だけを切り出して評価するのが難しい領域でもあります。ここは研究者自身が慎重に書いている部分です。

日本の公的資料は、消化管全体への影響を挙げています

厚生労働省の資料は、アルコールがほぼすべての消化管に影響すると整理しています(e-ヘルスネット アルコールの消化管への影響)。同じ資料が紹介している日本の5つのコホート研究のプール解析では、結腸直腸がんのリスクは1日のエタノール換算で23〜46g未満で1.42倍、46〜69g未満で1.95倍、69〜92g未満で2.15倍、92g以上で2.96倍と報告されています。腸内環境という柔らかい言葉で語られがちな領域に、こうした硬い数字があることは知っておきたいところです。この数字の読み方は日本人9万人の追跡が示す飲酒と大腸がんリスクでも丁寧に扱われています。

1日のエタノール換算量と結腸直腸がんリスク(飲まない人を1とした倍率)23〜46g未満 1.42倍46〜69g未満 1.95倍69〜92g未満 2.15倍92g以上 2.96倍出典: 日本の5つのコホート研究のプール解析(本文にリンク)

図: 1日あたりの飲酒量と結腸直腸がんリスクの関係。数値の出典は本文に記載しています

要点: アルコールとアセトアルデヒドの曝露、腸内細菌の変化、免疫バランスの3経路が挙げられています。消化管への影響は日本の公的資料にも整理されています。

関連記事: 日本人9万人の追跡が示す飲酒と大腸がんリスク。1日1合で1.4倍という数字の読み方

腸が漏れると、気分にまで影響するって本当?

ここが、このテーマのいちばん面白いところで、同時にいちばん誤読されやすいところです。

腸と脳をつなぐ研究があります

ベルギーの研究チームが、アルコール依存のある人を対象に、腸の透過性と腸内細菌、そして心理的な症状の関係を調べた研究があります(PNAS 2014;111(42):E4485-E4493)。この研究では、対象者の一部に腸の漏れが見られ、その人たちでは3週間の断酒のあとも、抑うつ、不安、そして飲酒欲求のスコアが高かったと報告されています。さらに、透過性が高かった人では腸内細菌の構成と活性も変化していました。

著者らはこれを腸脳相関の存在を示すものと位置づけ、腸内細菌が新しい標的になりうると述べています。腸の状態が気分に関係しているかもしれない、という仮説に、人を対象としたデータがついた例です。

ただし、この研究をそのまま自分に当てはめないでください

読み方の注意も書いておきます。この研究の対象はアルコール依存のある人であって、平日に1杯飲む人ではありません。また、腸が漏れたから気分が落ちたのか、気分の状態が別の経路で両方に効いているのかは、この研究では決められません。「すべての人に当てはまる」「腸を直せば気分が良くなる」という結論には、まだ距離があります。

一部の人にだけ起きていた、という点も大事です

この研究で印象的なのは、対象者の全員ではなく一部に腸の漏れが見られた、という書き方をしている点です。同じ飲み方をしても反応が分かれるということで、体質や食事、もともとの腸内細菌の違いが関係していると考えられます。自分がどちら側かは、今の検査では簡単にはわかりません。

要点: 腸の透過性と抑うつ・不安・渇望の関連を示した研究はありますが、対象は依存のある人で、因果の向きまでは決まっていません。

飲まない日を増やすと、腸はどう変わる?

では、飲む量を減らしたら腸はどうなるのか。ここも正直に書きます。

回復する方向の変化は報告されています

前節の研究は、短期間の解毒プログラム後に指標がどう変わるかも検討していて、回復する部分と残る部分の両方を報告しています(PNAS 2014;111(42):E4485-E4493)。腸のバリアは日々作り替えられている組織なので、負荷が減れば戻る方向に動くこと自体は不思議ではありません。

何日で戻るか、という問いには答えが出ていません

一方で、「何日でリーキーガットが治る」といった日数の目安を示せる研究は見当たりませんでした。腸管透過性の測定方法自体が標準化の途上にあるという指摘もあり(Gut 2019;68(8):1516-1526)、日数を断言している情報を見かけたら、その根拠がどこにあるかを確かめたほうがよさそうです。私もここは調べるほど「まだわからない」に行き着きました。

私の3年で言えるのは、体感の話だけです

研究の話から離れて、個人の体感を書きます。平日をノンアルコールに切り替えて3年、いちばん早く変わったのは翌朝のお腹の調子でした。飲んだ翌日にお腹がゆるくなることが減って、朝ごはんが食べられる日が増えました。もちろんこれは私ひとりの記録なので、根拠にはなりません。ただ、自分の体で起きた変化を記録しておくと、一般論より判断材料になります。飲んだ夜と飲まない夜の翌朝を比べた記録はノンアルの夜とワインの夜、腸が「翌朝に出す答え」はどちらが早い?にも書きました。

要点: 負荷が減れば戻る方向に動くと考えられますが、何日で戻るかを示せる研究は見当たりません。

今日からできることは?

実行できる形に落とします。腸のためだけの特別なことではなく、結果的に腸への負荷が下がる方法です。

飲む側の設計を変える

  • 週あたりの純アルコール量を数える。量(ml)×度数(%)÷100×0.8で計算できます(e-ヘルスネット 飲酒量の単位
  • 空腹のまま飲まない。胃から小腸への移行が早まると、血中濃度の上がり方が急になります
  • 度数の高いものをそのまま飲まず、水や炭酸で割る。粘膜が触れる濃度を下げる意味があります
  • 飲まない日を週の中に置く。連続で負荷をかけないことが、いちばん確実に量を減らします

食事の側でできること

  • 食物繊維を毎食どこかに入れる。野菜、豆、海藻、きのこのどれか1つで構いません
  • 発酵食品を日常の範囲で取り入れる。ヨーグルト、納豆、味噌など、続けられるものを
  • 極端な除去食に走らない。前述のレビューも、根拠の確認なしに食品を除いたりサプリメントを使ったりすることに注意を促しています(Gut 2019;68(8):1516-1526

やりすぎないことも設計のうち

腸活という言葉につられて、サプリメントを何種類も買ってしまう方を見かけます。腸内細菌は食事全体の影響を受けるので、ひとつの製品で劇的に変わるという説明には距離を置いたほうが無難です。まずは飲む量と食物繊維、この2つだけで十分だと思っています。

私自身も、始めた頃はいろいろ足しました。結局いま続いているのは、平日をノンアルコールにすることと、朝のヨーグルトに冷凍ベリーを入れることの2つだけです。続かなかったものは効かなかったのではなく、生活に合わなかっただけなんですよね。腸の状態は日単位で上下するので、1週間やって変わらなくても判断できません。2か月くらい同じことを続けて、そのあいだの体調をメモしておくと、自分にとって何が合うのかが見えてきます。平日だけ切り替えるやり方についてはノンアルコールビールの選び方、4つの基準でチェックすれば失敗しないも参考になります。

要点: 週の純アルコール量を数えること、空腹で飲まないこと、食物繊維を毎食入れること。この3つから始めれば足ります。

こういう場合は、自己判断で進めないでください

例外と注意です。

症状がある場合は、腸活より受診が先です

下痢が続く、血便がある、体重が落ちている、強い腹痛がある。こうした症状があるときに、腸内環境の話で様子を見るのは適切ではありません。厚生労働省の資料も、飲酒と消化管の疾患の関連を具体的に挙げています(e-ヘルスネット アルコールの消化管への影響)。まず医療機関で診てもらってください。

体質によって、同じ量でも負荷が違います

顔が赤くなりやすい体質の方は、アセトアルデヒドの処理に関わる酵素の働きが弱く、同じ量でも曝露のされ方が変わります。厚生労働省の飲酒ガイドラインも、体質や年齢、健康状態によって影響が大きく異なることを前提に置いています(健康に配慮した飲酒に関するガイドライン)。平均値の話を自分にそのまま当てはめないでください。

検査を売り物にしている情報には慎重に

腸管透過性を測る方法は研究段階にあるものが多く、一般向けの検査で何がどこまでわかるのかは慎重に見る必要があります。数値が出ると納得してしまいがちですが、その数値が何を意味するのかまで説明できる情報かどうかを見てください。

要点: 症状があるときは受診が先。体質差は大きく、検査結果の意味づけには慎重さが要ります。

よくある質問

アルコールで本当にリーキーガットになるのですか

腸管透過性が高まる現象については、アルコールが関わる経路をまとめた査読付きレビューがあります。ただし、それを「リーキーガット症候群」という病気として診断する枠組みは確立していません。現象としての研究は進んでいるが、症候群としては未確立、というのが現時点の正確な言い方です。

どのくらい飲むと腸に影響が出ますか

一律の閾値は示されていません。ただし日本の公的資料が紹介するプール解析では、1日のエタノール換算で23g以上から結腸直腸がんのリスク上昇が報告されています(e-ヘルスネット アルコールの消化管への影響)。23gは度数5%のビールなら約575mlにあたります。量が増えるほどリスクが上がるという関係は、比較的一貫して見られています。

腸内環境を良くすれば、お酒の影響は打ち消せますか

打ち消せるという根拠はありません。腸内細菌を標的にした介入は研究テーマとして注目されていますが、飲酒の影響を相殺できることを示した段階ではありません。腸への負荷を減らしたいなら、飲む量そのものを調整するほうが道筋がはっきりしています。

サプリメントで腸の漏れは治りますか

専門誌のレビューは、公開されている情報にもとづいてサプリメントの使用や食品の除去をすすめる前に、根拠の確認が必要だと述べています。効果をうたう製品を試す前に、その説明がどの研究にもとづいているかを見てください。体調に不安があるときは医療機関への相談が先です。

お酒をやめれば腸はもとに戻りますか

回復する方向の変化を報告した研究はありますが、何日でもとに戻るという目安を示せる研究は見当たりません。測定方法自体が標準化の途上にあることも指摘されています。日数を断言している情報には、根拠があるかどうかを確かめてから向き合うのが安全です。

まずは今週の純アルコール量を数えて、食物繊維を毎食どこかに入れるところから始めてみませんか。腸の話は、特別なことより地味なことのほうが積み上がるみたいです。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。