七月七日、午後九時の台所
今夜も、娘が寝たのは九時を少し過ぎたころだった。絵本を三冊読んで、背中をとんとんして、ようやく呼吸が深くなるのを確認してからそっと部屋を出る。この瞬間がくると、私の夜がはじまる。
台所に戻ると、洗い物がシンクに残っていた。さっと片づけて、冷蔵庫を開ける。視線が止まったのは、昨日買っておいた茶葉で煮出したほうじ茶のボトルと、炭酸水のペットボトル、それから豆を挽いて淹れたアイスコーヒーのポットだった。
どれにしようか、と考える時間が、じつは好きだ。お酒を「選ばない」と決めてから二年。選ぶ対象が変わっただけで、この「今夜は何にしようか」という小さな問いかけは、ちっとも消えていない。
ほうじ茶×炭酸という発見
煮出したお茶を、炭酸で割るだけ
その夜は、ほうじ茶と炭酸水を一対一でグラスに注いでみた。氷を大きめのもので二つ。ゆっくりと炭酸水を沿わせるように注ぐと、細かい泡がお茶の色の中を上へ上へと昇っていく。
一口飲んで、思わず「あ、これだ」と声に出してしまった。ほうじ茶の香ばしさに、炭酸の刺激が重なって、口の中でぱっと広がる感覚がある。甘くない。アルコールもない。なのに、「ちゃんと飲んでいる」感がある。
子どもがいると、食事の時間はどうしてもバタバタする。子どもの食べ具合を見て、こぼれたものを拭いて、気づけば自分の皿が冷めている。だからこそ、子どもが寝た後のこの一杯が、私にとって「食卓の続き」になっている。ゆっくり飲むための一杯。
お茶の種類で、夜の温度が変わる
ほうじ茶は、香りが強くて存在感があるから、何もしたくない夜に向いている。緑茶の炭酸割りは少し渋みが出るので、氷を多めにして薄めにするのが私の好み。麦茶はもっとおとなしくて、じつは一番ニュートラル。疲れが強い日は麦茶炭酸を選んでいる気がする。
飲み物でその日の自分の状態を測っているのかもしれない、と気づいたのは最近のことだ。
アイスコーヒーを「夜の一杯」にする方法
コーヒーは、夕方以降に飲めない体質だと思っていた
正直に言うと、コーヒーは以前「夜に飲むと眠れなくなるもの」として私の中で封印されていた。でも、妊娠中から授乳期にかけてカフェインをほとんど摂らない期間を過ごしたことで、体がいったんリセットされた感覚があって。ソバキュリに移行してからは、夜のコーヒーを少しずつ試してみるようになった。
ポイントは「カフェインレス」か「浅煎りの少量」かを選ぶこと。私はもっぱら、カフェインレスの豆をハンドドリップで水出しにしたものを使っている。時間はかかるけれど、前の晩に仕込んでおけば翌日の夜に飲める。この「仕込む」という行為が、じつはちょっとした楽しみになっている。
グラスに注ぐと、コーヒーが別の飲み物になる
マグカップで飲むコーヒーと、背の高いグラスに氷を入れて注いだコーヒーは、同じ液体でも気分がまるで違う。視覚って、想像以上に味に影響する。グラスの中の黒い液体に、少しだけミルクを垂らして白い筋が消えていくのを眺めていると、それだけで気持ちが落ち着く。
「飲み物を眺める時間」が生まれたのは、ソバキュリになってからだと思う。急いで飲む必要がなくなった。酔いという「ゴール」がなくなった分、飲む過程そのものに意識が向くようになった。
炭酸水だけの夜も、ちゃんとある
何も混ぜない、ただの炭酸水だけの夜だって、もちろんある。疲れていて何かを選ぶ気力もない夜。そういう日は、強炭酸のボトルをぐいっと開けて、大きなグラスに注いで、ソファに座る。それだけ。
でも不思議なことに、ペットボトルのままがぶがぶ飲むのと、グラスに注いで飲むのとでは、同じ炭酸水でも「夜の使い方」が変わる気がする。グラスに注ぐという小さなひと手間が、「今日の夜はここからはじまる」というスイッチになっている。
子どもがいると、自分のための時間を意識的に作らないとすぐに流れていってしまう。飲み物を選んでグラスに注ぐ、という行為は、そのための小さな儀式みたいなものだ。
今夜、グラスの中にあったもの
七夕の夜、娘と一緒に短冊に願い事を書いた。娘が書いたのは「プリンセスになりたい」で、私が書いたのは「家族みんな元気で」というありきたりな言葉だったけれど、書きながら本当にそう思った。
娘を寝かしつけた後、ほうじ茶の炭酸割りをグラスに注いで、窓の外を見た。曇っていて星は見えなかった。でも、グラスの中で炭酸の泡が静かに上がっていく様子が、なんとなく夜空みたいだった。
お酒を「選ばない」ことを選んでいる私にとって、こういう一杯が夜の主役になっている。炭酸でも、お茶でも、コーヒーでも。特別なものじゃなくていい。自分のために、少しだけ手をかけた一杯があるだけで、夜の時間が変わった。
今夜、何を飲もうか迷っているあなたに。冷蔵庫にあるもので、きっとちゃんとした一杯は作れる。
※本記事は一般情報であり、医療的助言ではありません。カフェインの摂取量や体質への影響については、気になる場合は医療専門家にご相談ください。

