7月の朝、クローゼットの前で止まった
今年の梅雨明け直後のことだった。出勤前にいつものチノパンを引っ張り出して、何気なくベルトを締めた瞬間、私は動きを止めた。
いつも通している穴より、一つ内側でちょうど収まった。
特別なことは何もしていない朝だった。目覚ましより少し早く目が覚めて、白湯を一杯飲んで、シャワーを浴びて、それだけだった。なのにベルトの革が、明らかに以前とは違う位置で腰に馴染んでいた。鏡の前でしばらく自分の腹回りを見つめて、「ああ、これが続いてきた結果か」と、ようやく腑に落ちた。
話は去年の健診に遡る。γ-GTPの数値が基準値の2倍を超えて、担当医から「このまま放っておくと脂肪肝が進みますよ」と告げられた。驚いたというより、「やはりそうか」という感覚だった。以前は週5〜6日、缶ビールを2〜3本飲むのが当たり前だった。晩酌が日課というより、仕事の区切りとして飲まない日がイメージできなかったのだ。
それから約1年。医師のアドバイスをもとに「飲まない日を週3日つくる」「飲む日は2杯まで」というルールで暮らしてきた。今日の朝のベルトは、その積み重ねが形になった瞬間だったのだと思う。
体重計の数字より先に、腹回りが変わっていた
「なぜ腹だけ太る」の正体を知った
以前から体重計の数字自体は大きく変動していなかった。ところが腹回りだけがじわじわと張り出していた。いわゆる「内臓脂肪型肥満」だと、健診の結果票には書かれていた。
お酒と内臓脂肪の関係について、医師から説明を受けた。アルコールそのものがエネルギーになること、おつまみの脂質と組み合わさること、さらに肝臓がアルコールの処理を優先するために脂肪の代謝が後回しになること。これらが重なって、腹回りに脂肪が蓄積しやすくなるのだという。特別な科学論文を読んだわけではなく、主治医の言葉として受け取ったことだが、日常の感覚と重なった。
飲んでいた頃の夜を思い返すと、缶ビールを開ける前後で食欲のスイッチが入っていた気がする。おつまみをつまみ、気づけば深夜に茶碗一杯のご飯を食べていた。アルコールが食欲を刺激するという話を後から知ったが、私にとってはまさにそういうパターンだった。
体重より「腹囲の変化」を追いかけた
節酒を始めてから、体重計の数字だけを見るのをやめた。代わりに月に一度、メジャーで腹囲を測るようにした。最初の数ヶ月は正直ほとんど変わらなかった。半年を過ぎた頃から、少しずつ数字が動き始めた。
今この記事を書きながら、手帳に記録した数字を見返している。節酒を始めた月と比べると、腹囲は現在3センチほど小さくなっている。体重は約2キログラムの減少だ。劇的な変化ではないかもしれない。ただ、この2キログラムと3センチが、ベルトの穴一つ分の実感として体に現れた。数字はそういう形で、ある朝突然に「見える化」されるのだと知った。
飲み方を変えた後、夜の食卓がどう変わったか
「食事の主役」がお酒からご飯に移った夜
週3日お酒を控えるようになってから、夜の食卓の組み立て方が自然に変わっていった。以前は「何を飲むか」を先に決めて、それに合うおつまみを選んでいた。缶ビール→枝豆→唐揚げ、という具合に、お酒が食事全体の設計図だった。
飲まない夜は、この図式が崩れる。お酒がなければ、純粋に「何を食べたいか」から考えるようになった。味噌汁を丁寧に作ってみたり、ご飯に雑穀を混ぜてみたり、豆腐と野菜を中心にした一汁二菜を作ったりした。これが私には予想外に心地よかった。食事が終わった後、以前のような胃の重さや夜中の空腹感が起きにくくなった。
飲む日は「2杯の中で楽しむ」に切り替えた
飲む日も、以前と気持ちの置き方が変わった。2杯と決めているから、1杯目を少しゆっくり飲むようになった。以前は「いつでも追加できる」と思っているから、無意識に勢いよく飲んでいた。上限を自分で決めると、一口の重みが変わる。これは制限ではなく、お酒との付き合い方の「精度を上げる」感覚に近い。
2杯で切り上げると、おつまみも自然と少なくなる。飲み続ける口実がなくなるから、食べ続ける理由もなくなる。夜10時頃に台所を片付けながら、腹がほどよく落ち着いている状態が、今では当たり前になっている。
数字の変化が教えてくれたこと、体の変化が教えてくれたこと
次の健診まであと2ヶ月ある。γ-GTPの数値が最初に比べてどれくらい改善しているか、正確な数字はまだわからない。ただ、半年前の中間チェックでは「順調に下がっています」と医師に言われた。腹囲の変化と体重の変化は、今の私には別々の情報ではなく、一本の線でつながっている気がする。
ベルトの穴が一つ内側になったあの朝を、私は「成果」よりも「確認」として受け取った。お酒の量と頻度を丁寧に見直してきた1年間が、ちゃんと体に積み上がっていたという確認だ。体重計に乗るたびに一喜一憂するのではなく、月に一度の腹囲と、ふとした朝の衣服のフィット感を手がかりにする。それが今の私に合ったやり方だと思っている。
完全にお酒をやめたわけではない。週に4日は飲んでいる。それでも、量と頻度を自分で選び直すことで、体は少しずつ変わっていく。その変化は、ある朝突然、クローゼットの前で気づかせてくれる。
今夜は飲まない日だ。夕方から煮物でも作ろうと、職場を出ながら考えている。
※本記事は一般情報であり、医療的助言・診断・治療の推奨を目的とするものではありません。体調や数値に不安がある場合は、医療機関にご相談ください。

