結論から言うと、飲酒と気分の関係は、因果の向きまで含めて言い切れない部分が多く残っています。自分は数値で測るのが好きなので、日々の気分をログに取ってきました。その記録と、飲酒とうつの関係を扱った論文2本を並べて読んだ結果を、場面を追ってお伝えします。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。気分の落ち込みが続くときは、医療機関や相談窓口に相談してください。

日曜の夜、ログのグラフが示していたこと

その日曜の夜、自分はスマホの画面でログを見返していました。Apple Watchの睡眠データと、毎晩一行だけ書く気分メモを、横に並べたグラフです。週末の2日だけ飲む運用にしてから、数か月分がたまっていました。

飲んだ翌日の気分が低い、ように見えた

グラフを見ると、飲んだ翌日の気分メモが低めの日が目立ちます。正直、最初は「やっぱり飲むと気分が落ちるんだ」と思いました。でも、少し考えて、その結論に待ったをかけました。飲んだ日は、睡眠も短く、予定も詰まっている傾向があったからです。

因果を言うには、材料が足りない

自分のログは、一人分の観察にすぎません。飲酒が気分を下げたのか、気分が低い日だから飲む量が変わったのか、あるいは睡眠不足がその両方に効いたのか。ログだけでは、向きを決められません。そこで、研究ではどう扱われているのかを調べることにしました。

要点: 自分のログは傾向を教えてくれますが、原因の向きまでは教えてくれません。

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論文1本目、飲酒とうつの関係を整理した総説

まず手に取ったのは、飲酒とうつの関係を扱った論文です。PubMedに収録されている「Alcohol and depression」という論文は、この二つの関連を整理したものとして位置づけられています(PubMed: Alcohol and depression)。

関連があることと、原因であることは別

この種の研究で大切なのは、「関連がある」と「原因である」を分けて読むことです。自分は、次のような整理をノートに書きました。

  • 飲酒がうつに影響する場合
  • うつの状態が飲酒に影響する場合
  • 睡眠、仕事、環境など、第三の要因が両方に影響する場合

どれか一つだけが正解とは限らず、人によって、時期によって違うこともあります。自分のログでも、この三つのどれにも当てはまりそうな日がありました。

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論文2本目、遺伝子を使って因果を探る研究

もう一本は、因果に近づこうとした研究です。中国本土の中高年476人を対象に、メンデルランダム化という方法で飲酒と抑うつの関係を調べた論文があります(PubMed: Alcohol Use and Depression: A Mendelian Randomization Study From China)。

メンデルランダム化とは何か

メンデルランダム化は、生まれつき決まっている遺伝子の違いを「くじ引きのような条件」として使い、飲酒と結果の因果に近づこうとする方法です。生活習慣や環境の影響を受けにくいので、観察研究より因果に近い議論ができるとされています。

結果は、単純な「悪化」ではなかった

この論文の著者らは、飲酒とメンタルヘルスの因果関係を調べた研究は多くないとしたうえで、結果が「飲むほど抑うつが高くなる」という単純な形では出なかったと報告しています。さらに、その仕組みを明らかにするには、追加の研究が必要だと述べています。

ここで注意したいのは、この結果を「飲むと元気になる」と読むのは間違いだということです。476人という規模、対象が中国本土の中高年であること、使った遺伝子の条件など、一般化できない理由はいくつもあります。

情報の種類

分かること

注意点

自分のログ(1人分)

自分の傾向、日ごとの揺れ

原因の向きは決められない

総説論文

これまでの研究の整理

人や時期で結果が違う

メンデルランダム化研究

因果に近い議論ができる

対象や条件が限られる

図: 3つの情報の種類と、読むときの注意点(筆者の整理)

要点: 論文2本を読んでも、「飲酒がメンタルをこう変える」と一言では言えませんでした。

数値で測る派の、実践的な使い方

では、言い切れないなら何も分からないのか。そうではないと、自分は考えています。研究の限界を知ったうえで、自分のログを「自分用の実験」として使うことはできます。

自分のログを読むときの3つの見方

  1. 飲んだ日だけでなく、飲まなかった日の気分も同じ項目で記録する。
  2. 睡眠時間や予定の量を並べて、共通する要因がないかを探す。
  3. 数週間分を見て、一日の揺れではなく流れを読む。

数値に頼りすぎない

数値で測るのが好きな自分でも、気分は数字だけでは測りきれないと思っています。ログのグラフが元気そうでも、しんどい日はしんどいものです。数値と感覚がずれているときは、感覚のほうを大事にしています。

休肝日の習慣づくりについては、休肝日を習慣にするときの三つの壁の記事に、ログの取り方を含めてまとめました。飲酒ログの道具選びは、飲酒ログアプリを比べた記事も参考にしてください。

要点: 論文の限界を知ったうえで、ログは自分用の実験として使うと役に立ちます。

よくある質問

Q. 飲むと気分が良くなるなら、飲んだほうがいいですか。

そうは言えません。論文の結果は限られた集団についてのもので、飲酒をすすめる根拠にはなりません。気分が気になるときは、専門家に相談してください。

Q. 気分ログは何を書けばいいですか。

一日の終わりに、気分を5段階などで一つ、睡眠時間を一つ、飲んだかどうかを一つ。この3つだけで十分です。

Q. ログを取ると落ち込みそうです。

その場合は、見返す頻度を月に一度にしてみてください。毎日見返すと、小さな揺れが気になりやすくなります。

今夜、気分と睡眠の2項目だけでいいので、スマホのメモに一行残してみてください。数週間後に見返すと、自分だけの傾向が見えてきます。