禁酒の方法を、あの夜の私はひたすら検索していた
子どもが生まれて数週間が経った、深夜のことだ。授乳を終えてスマートフォンを開いた私は、検索窓に「禁酒 方法」と打ち込んでいた。飲みたいというより、どう飲まずにいればいいか分からなかった。授乳中だから飲めない、それは当然のこととして受け入れていた。でも正直に言えば、夜になると手持ち無沙汰だった。子どもが寝て、家事の手が止まって、さあ何をしようかというあの時間に、ぽっかり穴が開いたような感覚があった。
検索結果に並ぶのは「強い意志を持とう」「目的を明確に」といった言葉ばかりで、私が知りたいことはそこにはなかった。意志は持っているつもりだった。目的だって、赤ちゃんのためという最強の理由がある。それでも夜9時を過ぎると、何かが恋しかった。
あれから2年が経って、いまの私はお酒を「選ばない」生活を続けている。授乳が終わったあとも、気づけばそのままのペースが定着した。続けられた理由を振り返ってみると、強い意志でも高い理想でもなく、ただ「環境を先に変えた」ことに尽きると思っている。今日はその話をしたい。
環境設計その1——家の中から、お酒を消した
「置かない」が最強のルール
禁酒の方法として、まず試してほしいのが家の中の棚卸しだ。冷蔵庫にビールがあれば、疲れた夜に手が伸びる。ワインが棚にあれば、今日くらいいいかという気持ちに負ける。これは意志の問題ではなく、距離の問題だ。目の前にあるものを取らないのは、ない場所に行って取るより、ずっと難しい。
私が最初にしたのは、家のお酒を全部、押し入れの奥にしまうことだった。捨てるのはもったいないと思ったので、「夫が自分で出す分にはいい」というルールにした。でも、自分では取り出さない場所に置く。それだけで、夜の衝動がずいぶん弱まった。
子どもがいると、という話をすると特に伝わるのだが、子連れの生活はとにかく動線が短い。疲れたら座る、眠くなったら寝る、そういうリズムになる。お酒を取り出すという余分なアクションが1つ増えるだけで、面倒くさくなって諦める。意志ではなく「手間」に頼るのが、環境設計の核心だと思っている。
代わりに何を置くか
置かないだけでなく、代わりのものを置いておくのも大切だった。私の場合は、冷蔵庫の手前にノンアルコールのスパークリングドリンクを並べた。炭酸水でも、ハーブティーのボトルでも、なんでもいい。「夜になったらこれを飲む」という動線を作っておくことで、お酒を取り出さなくても夜のルーティンが成立するようになった。
家の環境を変えることは、禁酒の方法の中でもっとも即効性があると、私は今でも思っている。根性より先に、棚を変える。それだけでいい。
環境設計その2——帰り道を、意図的に変えた
コンビニを通らないルートを選ぶ
育休が明けて職場に戻った頃、新たな関門が現れた。帰り道だ。疲れた夕方、最寄り駅からの帰り道にコンビニが2軒ある。子どもを保育園で迎えたあとでも、ベビーカーを押しながら「ちょっとだけ」と立ち寄る習慣がすぐに戻ってきそうだった。
そこで試してみたのが、帰路を変えることだった。コンビニの前を通らないルートを地図で探して、そちらを歩くようにした。遠回りでも2〜3分の差だった。たったそれだけのことで、帰り道にお酒を買う機会そのものがなくなった。
人はその場にいないものを欲しがることはできない。欲求は、刺激があって初めて生まれる。冷えたビールが並ぶ棚の前に立ったとき、はじめて「飲みたい」という気持ちが膨らむ。その刺激の場所に近づかなければ、欲求は生まれないまま夜を過ごせる。
飲み会の帰り道にも使えるアイデア
同じ発想は、飲み会の帰り道にも使えた。二次会の流れになりそうな瞬間に、「先に失礼します」と言って帰路に就く。そのまま終電のホームに向かうルートを頭の中に描いておくことで、迷う間もなく体が動くようになった。子どもがいると、という言い訳は強力で、「お迎えが…」の一言でほとんどの場面を抜け出せた。
意志で欲求に勝とうとするのは消耗する。欲求そのものが生まれない場所に自分を置く——帰り道の設計は、その発想を日常レベルで実装する方法だと思っている。
環境設計その3——夜の時間割を、先に埋めた
空白が、お酒を呼ぶ
禁酒の方法として見落とされがちなのが、夜の時間の中身だ。飲んでいた頃を思い返すと、お酒は「することがない時間」に登場することが多かった。夕食が終わり、テレビをつけながら、なんとなくグラスを傾ける。あの時間の空白が、お酒を必要とさせていたのだと気づいた。
子どもが生まれてからは、夜の時間割が自然と埋まった。お風呂、寝かしつけ、絵本、後片付け、明日の準備——それをこなしていると、自分の時間はほんの30分あるかないかだった。その30分を、ストレッチに使ったり、読みかけの本を少し読んだり、翌日の献立を考えたりするうちに、夜が終わっていた。
時間割を「書いて」おく
子どもの寝かしつけが長引く夜は、自分の時間がゼロになることもある。そういう夜こそ、以前なら疲れの反動でお酒を飲んでいたかもしれない。だからこそ、夜の時間割をあらかじめ書いておくようにした。手帳でも、スマートフォンのメモでも、短くていい。「子どもが寝たら、ハーブティーを入れて明日のバッグを整える」くらいの一文があるだけで、夜の着地点が定まる。
お酒は、何も決まっていない夜の余白に入り込んでくる。余白を先に埋めてしまえば、入り込む隙間がなくなる。精神力で扉を閉めるのではなく、そもそも扉のない構造にする。それが、私が2年かけてたどり着いた禁酒の方法の本質だった。
また飲んだ夜があっても、そこからが設計の出番
ここまで書いてきたことが、完璧に機能するかといえば、そんなことはない。久しぶりの友人との食事で、なんとなくワインを一口飲んでしまった夜もある。翌朝は少し気持ちが沈んだ。でも私は「失敗した」とは思わないようにしている。あくまで「選ばなかった日」があっただけで、次の朝からまた「選ぶ」生活が始まる。
大事なのは、また飲んだ翌日の動き方だ。責める必要も、改めて誓う必要もない。ただ、その夜に何が起きていたかを静かに振り返る。コンビニの前を通ったか、冷蔵庫に何かあったか、夜の時間が空きすぎていたか。環境のどこかに穴があったなら、そこを埋めればいい。再飲酒を「意志の敗北」ではなく「設計のヒント」として受け取れると、立て直しがずっとやりやすくなる。
禁酒の方法を探していたあの夜の自分に、いまなら言える。強くならなくていい、環境を変えるだけでいい、と。家の棚、帰り道、夜の時間割——この3つを少しずつ設計し直せば、飲まない日常は意外なほど静かに定着する。あなたの環境にも、きっと変えられる場所が1つある。
※本記事は一般的な生活情報の提供を目的としており、医療的助言・診断・治療の推奨を行うものではありません。飲酒に関して健康上のご心配がある場合は、医師または専門機関にご相談ください。

