「寝つきだけ」が良い夜の正体

寝酒が睡眠の質を悪くする理由を、私がはっきり理解したのは断酒してしばらく経ってからでした。断酒する前、お酒を飲んだ夜の「あのとろけるような眠り」は本物だと思っていました。布団に入ってから5分もしないうちにすーっと落ちていく感覚。「やっぱりお酒があると眠れる」と当時の私は確信していたんです。

でも振り返ってみると、その確信には大きな穴がありました。眠りに落ちるスピードと、眠りの中身は、まったく別の話だったんです。

アルコールが睡眠に与える影響、研究はこう言っている

2013年にEbrahimらが発表した質的レビュー(Alcoholism: Clinical and Experimental Research)は、「あらゆる量のアルコールが入眠潜時を短縮し、睡眠前半を安定させる一方で、後半の睡眠を乱す」と結論づけています。(Ebrahim et al., 2013, doi:10.1111/acer.12006)

さらに2024年に発表された系統的レビュー・メタアナリシス(27研究を統合)では、アルコール摂取によってREM睡眠の開始が遅れ、REM睡眠の総時間が減少することが示されています。しかもこのREM睡眠の減少は、標準2ドリンク程度から起こりはじめ、量が増えるほど顕著になると報告されています。(Systematic review & meta-analysis, Sleep Medicine Reviews, 2024)

つまり「寝つきは良い、でも眠りは浅い」という状態が、データとして裏づけられているわけです。

睡眠段階で見ると、何が起きているのか

眠りはひと晩を通して、ノンREM睡眠とREM睡眠が交互に繰り返されます。ざっくり言うと、ノンREM睡眠は身体の回復、REM睡眠は脳の回復と記憶の整理を担うサイクルです。正常な睡眠では、入眠後しばらく深いノンREM睡眠が続き、夜明けに向かうにつれてREM睡眠の割合が増えていきます。

前半は「鎮静」、後半は「揺り起こし」

アルコールが入ると、睡眠前半はノンREM睡眠が増え、深く眠れているように感じます。ところがアルコールが代謝されはじめる睡眠後半になると、今度は逆のことが起きます。中途覚醒が増え、REM睡眠がまとまって取れなくなるのです。

飲んでいたころの私には、まさにこの経験がありました。夜中の2〜3時に目が覚める。水を飲んで、また眠ろうとするけれど、浅い眠りをふわふわとさまよう感じ。「歳のせいかな」と思っていましたが、あれはアルコールのリバウンド現象だったと、今ならはっきりわかります。

REM睡眠が削られると、朝に何が起きるか

REM睡眠が不足すると、翌朝の感覚は独特です。時間は寝たはずなのに頭がぼんやりしている。気分がすっきりしない。記憶や感情の整理がうまくできていないまま朝を迎える感じ、とでも言えばいいでしょうか。

断酒してしばらく経った朝、ある日ふと「あ、頭の中が静かだ」と気づいた瞬間がありました。5年やってみて気づいたのは、あの静けさはREM睡眠がきちんと確保された朝特有のものだったのだということ。飲んでいたころの「眠れた気がしない朝」との差は、睡眠段階そのものの差だったわけです。

「効いている感じ」が正確な評価を邪魔する

寝酒の厄介なところは、「入眠が早まる」という体感が本物だということです。嘘をついているわけではない。でも、その体感がそのまま「よく眠れた」という評価につながってしまうのが問題で、実際の睡眠の中身は別の話になっています。

私がノートをつけはじめたのも、まさにこのギャップを可視化したかったからです。「眠れた感じ」と「翌朝の頭の動き・気分・身体のだるさ」を並べて書いていくと、飲んだ夜と飲まなかった夜の翌朝は、じわじわと差が見えてきます。最初のうちはわかりにくかったのですが、1か月、3か月と続けると、その差はもう疑いようがないくらいはっきりしてきました。

朝の目覚めを「基準」にする

眠れたかどうかの自己評価をするとき、入眠の感覚よりも「翌朝の目覚めの質」を基準にすることをおすすめしたいんです。目が覚めたとき頭がすーっとしているか、なんとなく重たいか。起き上がるのが苦ではないか。午前中の思考がよく回るか。

これらは睡眠の中身、特にREM睡眠が十分に確保されたかどうかと関係しているサインです。「寝つきの良さ」だけで睡眠を評価するのをやめると、寝酒の見方がかなり変わってきます。

5年やってみて気づいたのは、眠りの評価軸を「入眠」から「目覚め」に移すだけで、夜の選択が自然と変わっていくということ。飲まなくてもちゃんと眠れるようになった今、あの「とろける眠り」が本当の意味で良い眠りではなかったと、データと体感の両側からようやく納得できています。

寝酒が睡眠の質を悪くする理由は、入眠を早める一方でREM睡眠を削り、睡眠後半の回復を妨げることにある。「寝つきの良さ」と「眠りの質」は、別々に評価する必要がある。

もし今、毎晩の寝酒が習慣になっているなら、一度「翌朝の頭の状態」をノートに書き留めてみてください。数字は嘘をつきません。そしてその数字の背景には、睡眠段階という、体感だけでは見えにくいメカニズムが静かに動いています。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。睡眠に関するお悩みは医療機関にご相談ください。