結論から言うと、節酒を始めるきっかけは「やる気」ではなく「前もって決めた一文」で作れます。私は健診でγ-GTPが基準値の2倍を超え、医師から減酒の指導を受けたのに、その後の数週間はほとんど変わりませんでした。この記事では、動けなかった時期と、動けるようになった小さな工夫を、研究でわかっている範囲と合わせてお伝えします。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。

数値を突きつけられても、なぜ人はすぐに動けないのか

以前の私は、結果通知の紙を見て「来月から気をつけよう」と思い、その夜も普通に晩酌をしていました。数値が悪いと分かっていることと、今夜の一杯を減らすことは、まったく別の作業だったのです。

「わかっているのに」の正体

当時の私は、決意を一回だけ立てて、あとは毎晩の気分に任せていました。仕事で疲れた帰り道に、冷蔵庫の前で決意を思い出すのは、思った以上に難しいことです。意志が弱いのではなく、決める場面が「飲みたい瞬間」に集中していたのだと、今は考えています。

きっかけは「瞬間」ではなく「場面」に置く

そこで考え方を変えました。決意を立てる場面を、飲みたくなる瞬間ではなく、飲みたくなる前の場面に移したのです。たとえば、玄関の鍵を開けたとき、夕食の支度を始めたとき、ニュースが始まったとき。こうした場面ごとに、前もって一つだけ行動を決めておきます。

要点: 決意は気分の強い瞬間ではなく、前もって場面に結びつけておくと動かしやすくなります。

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「もし〜なら、〜する」という一文を研究はどう見ているか

この考え方は、心理学で実行意図(implementation intentions)と呼ばれています。「もしXの状況になったら、Yをする」という形で、行動を前もって決めておく方法です。

飲酒量を減らす試験の結果

過去の研究では、飲酒量が多い人92名を対象にした無作為化試験で、実行意図を作った群は、1か月後の週あたりの飲酒量が5.7単位(1単位は8gのエタノール)少なくなったと報告されています(95%信頼区間0.15〜11.19)。1か月後に週の飲酒量が政府の推奨量の150%未満になった人の割合は、実行意図の群で52.3%、対照群で23.6%でした(Journal of Behavioral Medicine掲載の無作為化試験)。

ただし、この研究は1か月後までの結果で、著者らも効果が長く続くかは今後の確認が必要としています。私はこれを「万能の方法」ではなく、「試してみる価値のある小さな道具」と受け止めています。

項目

実行意図の群

対照群

対象者

飲酒量が多い人(全体で92名)

同左

週の飲酒量の変化(1か月後)

5.7単位の減少(群間差)

基準

週の飲酒量が推奨量の150%未満になった割合

52.3%

23.6%

図: 実行意図の試験結果の要約(出典: Journal of Behavioral Medicine掲載の無作為化試験、1単位は8gエタノール)

公的な資料が挙げる「前もって決める」工夫

厚生労働省の飲酒ガイドラインにも、あらかじめ量を決めて飲む、飲酒前や飲酒中に食事をとる、水や炭酸水をはさむ、一週間のうちに飲酒をしない日を設ける、といった工夫が挙げられています(厚生労働省のガイドライン)。どれも、飲む前に決めておく性質のものです。

要点: 前もって決める方法は、公的な資料にも研究にも見られる考え方ですが、長期の効果はまだ確認が必要です。

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私が書いた3つの「もし〜なら」

実際に、手帳に次の三行を書きました。

  1. もし、帰宅して玄関を開けたら、先に炭酸水をコップ一杯飲む。
  2. もし、飲む日の二杯目を注ぐ前に、ひと呼吸おいて時計を見る。
  3. もし、休肝日の夜に飲みたくなったら、先にお風呂を済ませる。

書いてみて分かったこと

一行目は、最初の数日は忘れました。それでも、玄関に付箋を貼ってからは、ほぼ毎日できるようになりました。二行目は、飲む日の二杯までという自分のルールを守る助けになりました。三行目は、休肝日の夜の過ごし方を変えるきっかけになりました。

休肝日の作り方は、以前まとめた休肝日を作る5つの行動設計の記事とも重なります。量の目安については、純アルコール20gの目安の記事も参考にしています。

要点: 行動は小さく、場面は具体的に書くほど、実行しやすくなります。

きっかけ作りがうまくいかない日の考え方

もちろん、決めた通りにいかない夜もあります。そのときに「やっぱり自分は駄目だ」と考えると、翌日の気持ちが重くなります。以前の私は、一度崩れると週ごと投げ出していました。

崩れた夜は、記録だけ残す

今は、崩れた夜も記録だけは残すことにしています。何杯飲んだか、どの場面で崩れたか。それを見返すと、次に書く「もし〜なら」が見つかります。記録の道具に迷う方は、飲酒ログのアプリを比べた記事が参考になります。

一度で完璧にしない

三行すべてを毎日守る必要はないと、私は考えています。今週は一行目だけ、来週は二行目を足す。そのくらいの軽さのほうが、半年続けた今の自分には合っていました。

要点: 崩れた夜は反省より記録に回すと、次の一文の材料になります。

よくある質問

Q. 意志が弱い人には向いていませんか。

意志の強さに頼らないための方法なので、むしろ向いていると私は感じています。ただし、研究で示されているのは平均的な傾向で、全員に同じ効果があるとは限りません。

Q. 「もし〜なら」は何個くらい書けばいいですか。

最初は一つか二つで十分です。私も最初は一行だけでした。慣れてから、場面を増やしていきました。

Q. 健診の数値が悪いままで不安です。

数値の見方や今後の方針は、かかりつけの医師や健診機関に相談してください。この記事は一般的な情報であり、診断や治療の代わりにはなりません。

今夜、玄関か台所の見えるところに、「もし〜なら」の一行を書いた付箋を一枚貼ってみてください。小さな準備が、節酒の最初のきっかけになります。