「飲みたい」が来なかった夜のこと
断酒をはじめた最初の頃は、夕方になるとそわそわしていました。仕事が終わって、台所に立って、冷蔵庫を開けたとき——以前ならビールに手が伸びていた、あの感覚。振り返ってみると、あのそわそわは「習慣の引力」だったんだなって思うんです。お酒が飲みたかったというより、そういう時間の流れをなぞっていただけ、というか。
それがあるとき、気づいたらなくなっていた。劇的な瞬間ではなくて、ある夜ノートに「今日、特に飲みたいと思わなかった」と書いていた。それだけのことなんですが、読み返すたびにそのページが妙に好きなんです。
5年やってみて気づいたのは、「飲みたい気分がなくなる」というのは、我慢が積み重なって到達するゴールではなく、日常の小さな置き換えが静かに積み上がった結果だということ。そのプロセスを今日は少し丁寧に書いてみたいと思います。
転換点は「別の何かが満たした」とき
飲みたい気分の正体を知ると楽になる
断酒をはじめた最初の1年、ノートに「飲みたかった」と書いた夜の記録を見ると、ほぼ必ずセットになっているコメントがあります。「疲れていた」「誰かと話したかった」「何かを切り替えたかった」——。飲みたかったのではなく、その後ろにある気持ちが何かを求めていたんですよね。
振り返ってみると、あの「飲みたい」という感覚は、リセットの合図だったのかもしれません。一日の緊張を解きたい、切り替えたい、ちょっと自分にご褒美をあげたい。そういう気持ちが、以前はお酒というフックに引っかかっていただけで。
「切り替えのルーティン」を自分でつくり直す
私が長く続けているのが、帰宅後または仕事終わりの「15分ルーティン」です。お気に入りのハーブティーを淹れて、ノートを開いて今日のことを3行だけ書く。たったそれだけなんですが、これが「一日のここまで」という区切りになっています。
5年やってみて気づいたのは、人はお酒を飲みたいのではなくて、「区切り」が欲しいんだということ。その区切りを自分でつくれるようになったとき、「飲みたい気分」が来なくなっていきました。
ノートが記録していた、静かな転換点
2年目の秋のページが転換点だった
私が今でも手元に置いているノートの中で、いちばん見返すのが断酒2年目の秋のページです。そこには「今週、一度も飲みたいと思わなかった週がはじめてあった」という一文があります。大げさに喜んでいるわけでもなく、ただ淡々とそう書いてある。
当時はあまりピンと来ていなかったんですが、振り返ってみるとあれが大きな転換点でした。月に何度もあった「飲みたい夜」が、月に数回になり、2年目の秋頃から「気づいたら来なかった週」が現れはじめた。数字で見るとそんなにきれいな曲線じゃないんですが、ノートがあるからこそわかる変化があります。
記録することで「自分の波」が見えてくる
ノートをつける習慣の一番の恩恵は、感情のパターンが見えてくることだと思っています。私の場合、「飲みたい気分」が来やすかったのは、疲労が溜まった月曜の夜と、月末の金曜日。そのパターンがわかってからは、その夜だけ少し丁寧にルーティンをつくるようにしました。
何かをやめようとするとき、敵の正体がわかると怖くなくなりますよね。飲みたい気分もそれと同じで、「いつ来やすいか」がわかると、構えることができる。ノート派の習慣はそのためにとても役立っています。
5年経った今、「飲まない」の感覚はこんなふうに変わった
「我慢している」から「選んでいる」へ
断酒を始めた頃、飲み会の席で「私、飲まないので」と言うたびに、少しだけ言い訳をしているような気持ちがありました。「本当は飲みたいけど」というニュアンスを勝手に乗せてしまっていたんですよね。
5年やってみて気づいたのは、今はその感覚がまったくないということ。「飲まない」は私の普通の選択になっていて、「今日のランチはパスタにした」くらいの軽さで言える。選んでいる、という感覚です。この変化は本当に大きくて、毎朝のノートにたびたび「気持ちいいな」と書いていた時期がありました。
身体の「静けさ」に慣れると手放せなくなる
振り返ってみると、断酒以前の自分は常に少しだけ揺れていたんだと思います。翌朝の倦怠感、水分のむくみ、夜中に目が覚める感じ——それが「ふつう」だと思っていたので、なくなるまで気づかなかった。
今の身体の静けさ——朝すっきり目が覚めて、夜ちゃんと眠れて、肌の状態が安定している——これを一度知ると、戻りたくないんですよね。「飲みたい気分」が来なくなったのは、この静けさの心地よさが上回ったからだと思っています。
「飲みたい気分が来なくなる日」を自分でつくる、3つのこと
長く続けてきた中で、「飲みたい気分」を静かに遠ざけるのに役立ったことを3つにまとめてみます。特別なことではないのですが、小さく続けることが大事だと感じています。
- 一日の「区切り」を自分でデザインする——帰宅後15分のルーティンでも、深呼吸3回でも、「ここから切り替える」という儀式を持つこと。お酒がやっていた「区切り」の役割を引き継ぐイメージです。
- 「飲みたい気分が来やすい曜日・時間帯」をノートで記録する——パターンを知ると、構えられる。備えられると怖くなくなります。月1回ノートを読み返す習慣があると、自分の波が見えてきます。
- 身体の「静けさ」を意識的に味わう——朝起きたとき、夜眠るとき、「今日の身体はどうかな」と1行だけ書く。静かな感覚に気づく習慣が積み重なると、それが手放したくない基準になっていきます。
5年やってみて気づいたのは、「飲みたい気分が来なくなる」という変化は、何かをやめた結果ではなく、自分の日常を少しずつ自分好みに整えた結果だということ。それが一番大切なことだなって思うんです。
※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。健康に関するご判断は、必ず医療専門家にご相談ください。




