結論から言うと、断酒を始めてしばらくの間に気分が上下するのは、珍しいことではありません。大切なのは、その波を「自分はだめだ」と結びつけず、書き留めて眺める習慣を作ることでした。英国の追跡研究でも、飲酒と気分の関係は単純ではないと示されています(英国の追跡研究)。この記事では、日々の書き留めを続けてきた自分の経験をもとに、感情の波の見つけ方と付き合い方をまとめます。
※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。気分の落ち込みが長く続くときや、つらさが強いときは、医療機関や相談窓口に頼ってください。
夜十時、手帳の余白に書いた一行
ある秋の夜のことです。仕事から帰って、夕食を済ませ、椅子に座った瞬間に、理由のない重さがのしかかってきました。誰かに何か言われたわけでも、失敗をしたわけでもありません。ただ、胸のあたりが沈んでいる感じがしたんです。
昔の自分なら、ここで冷蔵庫を開けていました。毎日500mlの缶を二本、十年以上続けていた人間にとって、気分が沈む夜は「飲む合図」そのものだったからです。その夜は、代わりに手帳を開いて、一行だけ書きました。「十時、理由なし、胸が重い」。
書いた一行が、あとで効いてくる
不思議なことに、書いた直後に重さが消えたわけではありません。ただ、「理由なし」と書いたことで、これは出来事ではなく状態だと切り分けられました。翌朝、同じ行を読み返すと、前日は睡眠が短く、夕方に食事を抜いていたことまで思い出せたんです。
週末や休日の過ごし方を整える話は、休肝日を習慣にするときの三つの壁の記事も参考になります。飲む日と飲まない日の区切りを持つ工夫は、断酒中の過ごし方にも通じるところがあります。
要点: 波の最中に原因は分からなくても、一行書いておくと翌日に原因をたどれます。
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公的情報は、飲酒と気分の関係をどう説明しているか
気分の話をするとき、自分は感覚だけで語らないようにしています。厚生労働省の飲酒ガイドラインには、不安の解消のための飲酒を続けることで依存症になる可能性を高める、という趣旨の記述があります(厚労省の資料)。
また、同じガイドラインは、飲酒で眠りが浅くなり睡眠リズムが乱れることがある、とも述べています。断酒の初期に睡眠が揺れやすいのは、気分の波と無関係ではないのかもしれません。
研究は「単純な因果」を示していない
飲酒と不安・抑うつの関係を追った研究もあります。英国の全国調査の追跡結果をまとめた論文では、有害な飲酒や依存的な飲酒が、追跡時点での不安や抑うつの新たな発症と関連しなかった一方で、禁酒している人は新たに不安や抑うつを発症する可能性が低かったと報告されています(英国の追跡研究)。
つまり、「飲むと必ず気分が悪くなる」「やめれば必ず晴れる」と言い切れる話ではありません。自分は、この結果を「気分と飲酒の関係は人によって違い、単純には決められない」と読んでいます。だからこそ、自分の波を自分で記録する意味があるんです。
要点: 公的情報も研究も、気分と飲酒の関係を一本の線では説明していません。
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感情の波を見つけるための記録手帳
自分が使っているのは、特別な道具ではなく、普通の手帳です。続けるために、項目を絞っています。
- 日付と時刻(波が来た時間帯が分かります)
- 気分を一語で(重い、ざわざわ、空っぽ、など)
- 直前の出来事(なければ「なし」)
- 睡眠と食事(前日の状態を一言で)
- 何をしたか(散歩、入浴、炭酸水、連絡、など)
見返すと見えてくるもの
数か月分を並べると、波には癖があることに気づきました。自分の場合は、睡眠が短い日の夕方、食事が偏った日の夜、そして一日の予定が急に空いた日に、重さが来やすかったんです。
波の来た場面 | 書いてあった前日の状態 | 効いた対処 |
|---|---|---|
夕方の重さ | 睡眠が短い | 早めの夕食と入浴 |
夜十時の空っぽ感 | 一日中座り仕事 | 十分ほどの散歩 |
週末の昼のざわざわ | 予定が空白 | 先に用事を一つ入れる |
図: 自分の記録手帳から抜き出した、波の場面と対処の対応(筆者の個人記録)
要点: 波は気まぐれに見えて、記録を並べると場面ごとの癖が見えてきます。
波が来た夜にできる小さな選択
波の最中は、考える力が落ちています。だから、事前に「その夜の自分」に渡す選択肢を決めておくのが有効でした。
- 手帳に一行だけ書く。
- 冷たい水か炭酸水を一杯飲む。
- 十分だけ外に出る。
- それでも重ければ、信頼できる人に「今夜は重い」とだけ連絡する。
「我慢」ではなく「順番」にする
自分にとって、飲まないことは我慢比べではありません。手帳、水、散歩、連絡という順番を決めておけば、判断の手間が減ります。波は、通り過ぎるのを待つものだと考えるようになってから、夜が少し楽になりました。飲んでいた頃は、波が来るたびに缶を開けて上書きしていたので、波そのものの形を知らないままだったんです。今は、形を知っているぶん、来ても慌てずに済みます。家族に「今夜は静かにしていたい」と伝えられるようになったことも、小さな変化でした。
要点: 波の夜は、考えず順番どおりに動けるよう、昼のうちに手順を決めておきます。
よくある質問
断酒中に気分が落ち込むのは普通ですか。
自分の経験では、波を感じる時期はありました。ただし、感じ方は人によって違います。落ち込みが長く続く、日常生活に支障が出る、強いつらさがあるといったときは、一人で抱えず医療機関や公的な相談窓口に相談してください。
記録手帳は毎日書く必要がありますか。
毎日でなくて構いません。波が来た日だけでも、日付と一語があれば後から読み返せます。続けることを優先して、項目は絞るのがおすすめです。
飲みたい気持ちが強まったときはどうすればいいですか。
水分をとる、外に出る、連絡する、といった順番を事前に決めておくと動きやすくなります。強い渇望や体調の異変がある場合は、医療機関に相談してください。
家族や周りに波のことを話すべきですか。
話せる相手がいるなら、「今夜は重い」と短く伝えるだけでも違います。詳しい説明は要りません。
今夜、寝る前に一行だけ、今日の気分を一語で書いてみてください。それが、いちばん小さな始め方です。

