結論から言います。データが示しているのは、若者だけの現象ではありません

結論から言うと、公的な統計を並べたとき「若者の酒離れ」という言い方はかなり粗い要約です。成人1人当たりの酒類消費数量は1992年度をピークに30年かけて減り続けており、これは特定の世代だけの動きではありません。さらに習慣的に飲む人の割合は、男性で大きく下がる一方、女性では逆に上がっています。そして直近では、1人当たり消費数量が2年連続で上向いています。

自分は3年前に毎日の晩酌をやめた側の人間です。やめた当事者として「若者が飲まなくなった」という説明を聞くたびに、それだけでは説明のつかない部分があると感じていました。この記事では、数字を順番に置いて、何が言えて何が言えないのかを分けていきます。

要点: 統計は「若者だけの離脱」ではなく、30年単位の全体の変化と、男女で逆向きの動きを示しています。

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3年前、自分が「飲まない側」に回った夜のこと

年齢は42歳、若者ではありませんでした

健康診断でDがついた年の11月、自分は10年以上続けていた毎晩のビール500ml2缶をやめました。当時42歳です。世間が「若者の酒離れ」と言っているあいだに、自分のような中年が静かに列から抜けていた。この体感が、この記事を書く出発点になっています。

同世代の集まりで気づいたこと

やめて1年ほど経った頃、同年代の集まりに出たら、8人のうち3人がノンアルを頼んでいました。理由を聞くと、健診、服薬、運転、そして単純に翌日がつらいから。誰も「若者の価値観」といった話はしていません。自分の周りで起きていたのは、世代論とは違う次元の話でした。

これが統計に表れているのかどうか。ここから数字を見ていきます。なお自分は研究者ではなく、断酒3年の一般人です。だからこそ、引用する数字は必ず一次資料を開いて確かめるようにしています。この記事で挙げる数値は、すべて公的機関の公表値か、査読のある論文から取りました。出せない数字は書きません。

飲まない選択をした人がどんな顔ぶれなのかについては、お酒を飲まない生き方を選んだ人たちをまとめた記事もあります。統計の話に入る前に、具体的な人の姿を見ておくと数字の読み方が少し変わります。

要点: 飲まなくなっていたのは若者だけではない、という実感が出発点でした。

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まず、全体の消費量を置きます

ピークは1992年度でした

国税庁が毎年公表している「酒のしおり」によると、成人1人当たりの年間酒類消費数量は1992年度(平成4年度)の101.8リットルをピークに減少傾向が続いています。直近では令和5年度が75.6リットルで、前年度から0.2リットルの増加となり、2年連続の上昇と報告されています(国税庁「酒のしおり(令和7年7月)」)。

成人1人当たりの年間酒類消費数量(リットル)1992年度(ピーク) … 101.8L2022年度 … 75.4L2023年度 … 75.6L(2年連続で前年度比プラス)

図: 成人1人当たりの年間酒類消費数量の推移(国税庁「酒のしおり」の公表値による)

30年で約26リットル減っています

101.8リットルから75.4リットルへ、およそ26リットルの減少です(国税庁「酒のしおり」の公表値による)。年間26リットルを365日で割ると1日あたり約71ml。ビールの小グラス半分くらいの量が、国民平均で毎日分だけ消えた計算になります。1日単位にすると小さく見えますが、30年の積み上がりとしては大きな変化です。

ここで重要なのは時間軸です。この減少は1990年代から始まっています。2020年代に入って「若者が飲まなくなった」と言われ始めるより、ずっと前から進んでいた動きだということになります。仮に若者の飲酒行動が近年変わったのだとしても、それは30年続いている流れの一部であって、起点ではありません。

酒類の中身も入れ替わっています

もうひとつ、総量だけを見ていると見落とす動きがあります。国税庁の統計は酒類の品目別にも数量を出していて、ビール、清酒、焼酎、果実酒、リキュールなどで推移がまったく違います。総量が減っていても、増えている品目があるという構図です。「何リットル飲まれたか」だけで語ると、この入れ替わりが消えます。品目別の数字は酒のしおりに都道府県別も含めて掲載されているので、自分の住んでいる地域の数字を見てみるとイメージがつかみやすいはずです。

直近2年の上昇をどう見るか

そして見落とされがちなのが、直近の動きです。2年連続で前年度を上回っているという事実は、「一方向に離れ続けている」という物語とは合いません。増加幅は0.2リットルと小さいので、これをもって反転と言うのは早計です。ただ、少なくとも「毎年下がり続けている」という前提で議論するのは、もう正確ではありません。

要点: 消費量は30年で約26リットル減りましたが、直近2年は小幅ながら上昇しています。

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習慣飲酒率は、男女で逆向きに動いていました

男性は30年で大きく下がりました

厚生労働省のe-ヘルスネットには、日本の飲酒パターンの長期推移がまとめられています。週に3回以上飲酒する習慣飲酒者の割合は、男性で1989年の51.5%から2019年には33.9%へ大きく減少しました(e-ヘルスネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」)。

女性は逆に増えています

同じ期間で、女性の習慣飲酒者の割合は6.3%から8.8%へ増加しています。年代別に見ても、男性は全年代で減少している一方、女性は30代から70代まで幅広い年齢層で増えていると説明されています。「日本人が酒から離れた」という単純な話ではありません。

生活習慣病のリスクを高める飲酒も同じ向きです

生活習慣病のリスクを高める量(男性1日40g以上、女性20g以上)を飲んでいる人の割合も、男性は2010年の15.3%から2019年の14.9%とほぼ横ばいなのに対し、女性は8.0%から9.1%へ有意に増加しています(いずれもe-ヘルスネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」による)。減っている集団と増えている集団が同時に存在する。この形を「離れ」の一語でまとめてしまうと、増えている側が見えなくなります。性・年齢階級別の詳細は厚生労働省の飲酒習慣の状況にもまとめられています。

要点: 男性の習慣飲酒率は51.5%から33.9%へ下がる一方、女性は6.3%から8.8%へ上がっています。

海外の研究は、理由をどう整理しているか

英国では、若者自身に理由を聞いた研究があります

「なぜ若者が飲まなくなったのか」を、当事者に直接尋ねた研究があります。イングランドの12歳から19歳を対象にした質的研究で、若者自身が挙げた説明は8つのテーマに整理されました(Young people's explanations for the decline in youth drinking in England(PMID: 36850006))。

  • アルコールによる害の可能性
  • 現代の若者文化と、人が集まる場所の変化
  • お酒の買いやすさ(価格の手ごろさ)
  • 他の物質への置き換わり
  • 入手経路と規制環境
  • そもそも減少しているという前提への疑問
  • 将来への志向
  • 親の関わりと家庭環境

注目したいのは、健康意識だけが理由として挙がっているわけではない点です。集まる場所が変わったこと、価格、将来をどう考えるか、家庭の環境。複数の要因が並んでいます。

「価値観が変わったから」で終わらせない

別の論考でも、社交のしかたの変化、お酒の手に入れやすさの低下、リスクや自己管理に対する態度の変化が、減少の主な説明になりうると整理されています(Decline in adolescent drinking: Some possible explanations(PMID: 32686238))。価値観という言葉でまとめると分かった気になりますが、中身は「どこで誰と過ごすか」「いくらかかるか」といった具体的な条件の集積です。

日本に当てはめるときの注意

これらは英語圏の研究であり、日本にそのまま持ち込めるものではありません。日本の統計で確認できているのは、消費量の長期的な減少と、男女で逆向きの習慣飲酒率の動きまでです。理由の部分について、日本の若者に直接尋ねた大規模な公的調査を自分は確認できていません。ここは「要確認」として残しておきます。

要点: 英国の研究では、場所・価格・将来志向・家庭環境など複数の要因が並び、健康意識だけではありません。

離れているのではなく、選んでいる。そう読む根拠

ここからは自分の解釈です。データを並べて見えてきたのは、「お酒から遠ざかった集団」と「お酒に近づいた集団」が同時に存在している、という構図でした。男性は減り、女性は増えている。全体の消費量は減ったが、直近は上向いている。この形は「離れ」という受け身の言葉より、「選んでいる」という能動的な言葉のほうが実態に近いと考えています。

離れるというのは、何かから遠ざかることです。そこには「本来は飲むはずだったのに」という前提が隠れています。でも、統計が示しているのは、飲む量と飲む場面を各自が決め直しているという状態です。自分が42歳で晩酌をやめたのも、同世代がノンアルを頼むのも、遠ざかったのではなく選んだ結果でした。

この読み方には反論もあると思います。消費量が減った最大の要因は人口構成の変化や経済的な要因であって、選択の話ではない、という見方です。実際、英国の研究でも価格の手ごろさが理由に挙がっていました。ですから自分の解釈も、あくまでひとつの読み方です。ただ「若者の酒離れ」という一語で片づけると、30年の推移も、女性の増加も、直近の反転も、全部視界から消えてしまいます。それだけは避けたいと思っています。

お酒の健康影響そのものについては、Jカーブ説がなぜ否定されたかを研究デザインから読み解いた記事WHOの立場を整理した記事にまとめています。

要点: 減る集団と増える集団が同時にある以上、「離れ」より「選択」と読むほうが実態に近いと考えます。

このデータを読むときに、気をつけること

1人当たり消費数量は「飲む人の量」ではありません

国税庁の数字は、販売(消費)数量を成人人口で割ったものです。飲まない人も分母に入っています。したがって、この数字が減ったからといって、飲む人1人あたりの量が減ったとは限りません。飲む人が減って、飲む人の量は変わっていない、という形でも同じ減少は起こります。

習慣飲酒率と消費量は別の指標です

週3回以上飲む人の割合と、消費された酒類の総量は、別のものを測っています。前者が下がっても後者が下がるとは限りませんし、その逆もあります。記事や投稿で両者が混ぜて語られていることがあるので、数字を見たらまず「何を数えたものか」を確認してください。

分母の変化も効いています

もうひとつ、1人当たりの数字を見るときに忘れてはいけないのが分母です。成人人口の年齢構成は30年で大きく変わりました。飲む量が多い年代の人口比が変われば、個々人の行動が同じでも1人当たりの平均は動きます。つまり消費量の減少のうち、どこまでが行動の変化で、どこまでが人口構成の変化なのかは、この数字だけでは分解できません。自分はこれを「統計が示しているのは結果であって、原因ではない」と整理しています。

世代の話に見えるものが、年齢の話であることもあります

ある時点で20代の飲酒率が低くても、その人たちが30代になったときに上がるなら、それは世代の特徴ではなく年齢の効果です。同じ世代を追った調査でなければ、この2つは区別できません。「若者の」と言われている現象がどちらなのかは、断面のデータだけでは判断できない、というのが正確なところです。

要点: 1人当たり消費数量、習慣飲酒率、世代効果と年齢効果。この3つの区別が読み違いを防ぎます。

よくある質問

若者の酒離れは本当に起きているのですか

成人1人当たりの酒類消費数量が1992年度の101.8リットルから令和5年度の75.6リットルへ減少しているのは事実です(国税庁「酒のしおり」)。ただしこれは全年代を含む数字で、若者に限った現象を示すものではありません。習慣飲酒率も男性で1989年の51.5%から2019年の33.9%へ下がる一方、女性では6.3%から8.8%へ増加しています(e-ヘルスネット)。「若者だけが離れている」という形で理解するのは、データの裏づけが弱いと考えられます。

酒離れの理由として何が挙げられていますか

イングランドの若者を対象にした研究では、アルコールによる害の可能性、集まる場所の変化、価格の手ごろさ、他の物質への置き換わり、入手経路と規制環境、減少という前提への疑問、将来志向、家庭環境の8つが挙げられました。健康意識だけでなく、生活条件の変化が広く含まれている点が特徴です。日本の若者に同種の質問をした大規模な公的調査は、自分の調べた範囲では確認できませんでした。

消費量は今も減り続けているのですか

減り続けてはいません。国税庁の公表では、令和5年度の成人1人当たり消費数量は75.6リットルで前年度から0.2リットル増え、2年連続の上昇とされています。増加幅は小さいため反転と断じることはできませんが、一方向に減り続けているという前提は、もう正確ではありません。

女性の飲酒が増えているのはなぜですか

理由を特定できるデータを自分は確認できていません。事実として言えるのは、習慣飲酒者の割合が1989年の6.3%から2019年の8.8%へ増え、生活習慣病のリスクを高める量を飲む女性の割合も8.0%から9.1%へ有意に増加していることまでです(e-ヘルスネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」)。就業状況の変化や商品の多様化といった説明を見かけることはありますが、それを裏づける公的なデータを自分は確認できていないため、背景の説明については要確認としておきます。

データはどこで確認できますか

消費量は国税庁の「酒のしおり」、飲酒習慣の割合は厚生労働省の国民健康・栄養調査とe-ヘルスネットの解説ページで確認できます。どちらも毎年更新されるので、記事で見た数字はできるだけ原典で年度を確かめてから使うことをおすすめします。自分も引用する前に必ず一次資料を開くようにしています。

もし身近で「最近の若者は飲まない」という話が出たら、成人1人当たりの消費数量が30年かけて減ってきたこと、そして男女で向きが違うことを思い出してみてください。話の解像度がひとつ上がります。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。