「とりあえず30日」と決めた夜のこと
5年前の秋、私は手帳の新しいページを開いて、こう書いた。「10月1日〜10月31日、飲まない。理由は後で考える。」
振り返ってみると、あのとき深く考えなかったのが、たぶんよかったんだと思うんです。「一生やめる」でも「健康のために断固として」でもなく、ただ「31日間、試してみる」という感覚。期限があると、気持ちの構えがまったく違ってくる。
30代後半、当時の私は毎晩ワインを1〜2杯飲むのが習慣になっていました。やめたいわけでも、困っているわけでもなかった。ただ、「これ、なんとなく続けていていいのかな」という小さな引っかかりが、じわじわと積み重なっていた時期でした。そのモヤモヤを確かめるために、30日という区切りを選んだんです。
始める前に「たった一つ」だけ準備したこと
ノートを用意して、1行だけ書く
大げさな準備は何もしませんでした。お酒の在庫を捨てるとか、冷蔵庫を整理するとか、そういう儀式的なことは一切なし。私がやったのは、100円ショップで買った小さなノートに、「1日目:今日、飲まなかった。」とだけ書くことでした。
これだけです。でも5年やってみて気づいたのは、この「書く」という行為が思った以上に大きな役割を果たすということ。飲まなかった事実を文字にすると、脳が「今日は完了した」と受け取るらしく、夜のざわざわした気持ちが少し落ち着くんです。ここで気分や体調も添えると、後から読み返したときに発見があります。
「替わりに何を飲むか」だけ決めておく
夕食時に何か飲みたくなる、あの手持ち無沙汰な感覚。これへの備えとして、私は「炭酸水とレモン」を常備することだけ決めました。「お酒の代わりに何か特別なものを」と気負う必要はなくて、手が届くところに「飲めるもの」があればいい。シンプルだけど、これが最初の数日間をずいぶんスムーズにしてくれました。
1週目・2週目・3週目で、それぞれ感じたこと
1週目:「意外と平気」の落とし穴
最初の7日間は、正直あっけなく過ぎました。「こんなに簡単なのか」と思ったくらい。でも今思えば、この「意外と平気」には注意が必要で、気が緩んだタイミングで「1杯くらいなら」という声が顔を出してきます。私の場合、7日目の金曜の夜がそうでした。ノートを開いて「7日目」と書いた瞬間、「ここまで来たんだから続けよう」という気持ちが戻ってきた。記録の効果を最初に実感した瞬間でした。
2週目:体の変化より「時間」が増えた感覚
10日を過ぎたあたりから、夜の時間の使い方が変わってきました。眠りにつくまでの時間がすこし長く感じられて、読みかけの本を手に取るようになった。睡眠の質がどう変わったかはノートに記録していましたが、「深く眠れた気がする」という感想が増えてきたのはこのころです。断言はできないけれど、体が少しずつ何かを取り戻しているような手応えはありました。
3週目:「飲みたい」より「どう過ごすか」が気になりはじめた
20日を超えると、不思議なことに「飲みたい」という意識が薄くなって、「今夜の時間をどう使おうか」という方向に気持ちが向くようになりました。夕食後にストレッチをしてみたり、翌日の献立をノートに書いてみたり。生活の小さな余白を自分で埋める感覚が、少しずつ楽しくなってきた時期です。
30日目を迎えたとき、私が書いたこと
10月31日のノートには、こう書いてあります。「30日目。飲まなかった。なんか、続けてみたい気がする。」
劇的な変化の報告ではないんですが、これが正直なところでした。肌がどうとか、体重がどうとか、そういう目に見えるものより先に変わったのは「自分の選択を自分で決めている感覚」だったんです。30日間、毎晩「今日も飲まない」と選んできた積み重ねが、小さな自己信頼みたいなものを作ってくれていた。
5年やってみて気づいたのは、最初の30日がそのまま5年につながったわけではないということ。その後も揺れることはあったし、迷った夜もあった。でも「あの30日を終えた自分」がいたから、また始められた。最初のチャレンジは、完璧に終わらせるためのものじゃなくて、「自分にできる」という感覚を手に入れるための30日だったんだと思うんです。
今から始めるなら、これだけ持っておいてほしい
- 小さなノートと日付だけ:アプリでも紙でも、「今日飲まなかった」を記録できるものを一つ。凝った書き方は不要です。
- 「いつからいつまで」という期限:「しばらく飲まない」より「○月○日〜○月○日」の方が圧倒的に続きやすい。期限があることで、脳がタスクとして扱ってくれます。
- 「崩れた日」のルール:もし途中で飲んでしまっても、翌日に「昨日は飲んだ。今日から再開」と書くだけでOKというルールを最初に自分に約束しておく。チャレンジが終わるのは「飲んだとき」ではなく「やめると決めたとき」だけ。
- 30日後にすることを一つだけ決めておく:「終わったらおいしいものを食べに行く」「欲しかった本を買う」など、飲酒とは無関係のご褒美を先に決めておくと、後半のモチベーションになります。
難しく考えなくていいと思っています。30日チャレンジは、人生を変える決意でも、未来を縛る誓いでもない。ただ「試してみる」という好奇心からで十分。振り返ってみると、私の5年はその好奇心の延長線上にあります。今日の夜、ノートを一冊買いに行くだけで、もう始まっていると思うんです。
※本記事は一般情報であり、医療的助言ではありません。体調や飲酒習慣に不安がある場合は、医療機関や専門家にご相談ください。

