禁酒中にたまに飲むのは、失敗なのか

結論から言うと、たまに飲むことが失敗になるかどうかは、あなたがどちらの目的でお酒を離れているかで決まります。医学的に断酒が原則とされるのは、アルコール依存症と診断されて明確な合併症がある場合です。そこに当てはまらないなら、量を減らす減酒は治療の世界でも現実的な選択肢として扱われています。つまり「たまに飲む」は、設計されていれば戦略で、されていなければ事故です。

自分は週に4日は飲まない日を置いて、残りの2日だけ飲むという運用を1年半ほど続けています。Apple Watchの睡眠データとUntappdの飲酒ログを突き合わせて数値で管理する派なので、この記事も感覚ではなく数字で線を引きます。

目的が2種類あることを、まず分けてください

お酒を離れる理由は、大きく2つに分かれます。ひとつは医学的な必要があってのこと、もうひとつは体調や睡眠や時間の使い方を良くしたいという生活上の理由です。前者は治療の話なので、たまに飲むかどうかは主治医と決める領域になります。後者なら、週の総量をどう設計するかという話に落ちます。

この2つを混ぜたまま「たまに飲んでいいのか」と検索すると、答えがぶつかって混乱します。検索結果に断酒の話と減酒の話が並んで出てくるのは、前提が違う話が同じ棚に入っているからです。

自分の立ち位置を先に書いておきます

自分は診断を受けた経験はなく、健康と睡眠スコアのために飲む量を絞っている側の人間です。だからこの記事は「飲み方を設計する」話であって、治療の話ではありません。診断を受けている方は、この記事より主治医の指示を優先してください。

要点: たまに飲むが失敗になるかどうかは、医学的必要か生活上の選択かという目的の違いで決まります。

関連記事: 飲まない日を作っても数値が下がらない。その理由は週合計にあった

禁酒・断酒・減酒・節酒、言葉の中身を揃える

この4つが混ざったまま議論されているのが、この検索KWの一番の落とし穴です。定義を揃えるところから始めます。

禁酒と断酒はゴールの期間が違う

禁酒は「一定期間お酒を飲まないこと」を指すことが多く、30日だけ、1年だけ、といった期限つきで使われます。断酒は期限を切らず継続する前提の言葉として使われます。つまり禁酒は期間限定の運用、断酒は恒久的な方針という違いです。

だから「禁酒中にたまに飲む」という言い方は、実は成立します。禁酒期間の外で飲むなら、それはルール通りの行動だからです。問題になるのは、期間の定義を自分で決めていないときです。言葉の整理は断酒・禁酒・節酒・ソバキュリ、4つの違いを整理するでも扱われています。

減酒は、害を減らすという発想です

減酒は、ゼロにするのではなく量を減らすことで、いま起きている害をできる範囲で小さくするという考え方です。医療の文脈ではハームリダクションと呼ばれます。久里浜医療センターの減酒外来は、お酒の量を減らすことや問題のない飲み方をすることも含めて、各自のゴール設定に合わせる治療を提供していると案内しています(久里浜医療センター 減酒外来)。

すぐにお酒をやめられない場合でも、量を減らすことで現状よりある程度の害を減らせると期待できる、というのが減酒外来の考え方です。ゼロか百かではない選択肢が、治療の側にもあるということになります。

たまにを、グラム数に翻訳する

たまに、という言葉は人によって幅がありすぎて設計に使えません。自分は必ず純アルコール量に翻訳してから考えます。厚生労働省は純アルコール量を「摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8」で計算すると案内しています(健康に配慮した飲酒に関するガイドライン)。

この式で5%のビール500ml缶を計算すると、500×0.05×0.8で20gです。たまに飲む、を「週に何グラムか」に直せば、ようやく他人の意見ではなく自分のデータで判断できるようになります。計算の手順は純アルコール量の計算方法、式と早見で30秒で出すにまとめてあります。

要点: 禁酒は期間限定、断酒は継続、減酒は害を減らす発想で、たまにはグラム数に翻訳して初めて設計できます。

関連記事: 断酒・禁酒・節酒・ソバキュリ、4つの違いを整理する。どれを選ぶかで、続け方が変わる

研究は、断酒と減酒をどう比べているのか

ここは体感で語っても仕方がないので、比較した研究を見にいきます。

断酒目標と減酒目標を比べたメタ分析がある

アルコール使用障害の治療において、減酒を目標にした介入と断酒を目標にした介入を比較した系統的レビューとメタ分析があります。22件の研究、4,204人を対象としたもので、社会的機能と飲酒量の減少について、両者に明確な差は見られなかったと報告されています(Henssler J, et al. Controlled drinking-non-abstinent versus abstinent treatment goals in alcohol use disorder. Addiction. 2021;116(8):1973-1987. PMID: 33188563)。

著者らは、断酒だけが唯一の方法だとする根拠は現時点の証拠からは支持されず、断酒志向のアプローチが適用しにくい場合には、特に適切な心理療法を伴う減酒が現実的な選択肢になりうると結論づけています。

ただし前提条件を落とさないでください

この結果を「だから誰でもたまに飲んでいい」と読むのは危険です。対象はアルコール使用障害と診断された人で、治療の枠組みの中で専門職の支援を受けながら行われた介入です。自己流で量を管理するのとは条件が違います。

久里浜医療センターも、飲酒量の低減が治療目標になりうるのは軽症で明確な合併症がない場合だと説明しています。重症例であっても本人が断酒を希望しない場合に暫定的な目標として検討されることはありますが、それは診察を経た判断です。

1回の量には、別に上限があります

週の総量とは別に、1回の飲酒機会の上限があります。厚生労働省のガイドラインでは、1回の飲酒機会で純アルコール60g以上を摂取する一時多量飲酒について、身体疾患の発症や急性アルコール中毒、外傷の危険性を高めるおそれがあるとしています(健康に配慮した飲酒に関するガイドライン)。60gは5%のビール500mlで3本分にあたります。

ここが「たまに飲む」の最大の落とし穴です。頻度を減らした反動で1回の量が膨らむと、週の総量は変わらないのに1回あたりのリスクだけが上がります。

毎日 1本(7日)140g週2日 × 3本120g週2日 × 2本80gビール500ml(5%)=純アルコール20g として計算週2日×3本は1回60gで、一時多量飲酒の目安に達します

図: 飲む日を減らしても1回の量が増えると週の総量はあまり下がりません。厚生労働省の計算式で算出しました。

図のとおり、毎日1本の140gに対して、週2日に絞っても1回3本なら120gにしかなりません。減ったのは14%ほどです。一方で1回2本に抑えれば80gまで落ちます。頻度ではなく1回の量のほうが、総量への効きが大きいということです。

要点: 減酒目標と断酒目標に明確な差はなかったという報告がありますが、前提は治療の枠組みの中での話です。

関連記事: 節酒の方法、全手順まとめ。断酒との違いから始めて「飲み方を設計する」12のチェックリスト

たまに飲むを、設計に落とす5つの手順

ここからは実務です。自分が1年半回してきた手順をそのまま書きます。

  1. 週の上限グラム数を先に決める。自分は週80gに置いています
  2. 1回の上限を決める。60gに届かないことを条件にすると、自然と1回2本までになります
  3. 飲む曜日をカレンダーに先に置く。決めるのは当日ではなく前の週です
  4. 飲んだ量をその場で記録する。あとでまとめて入力すると必ず過小申告になります
  5. 週末に合計を見て、翌週の上限を微調整する

なぜ週単位で見るのか

1日単位で見ると、飲んだ日は必ず「今日は飲んでしまった」になります。週単位なら、飲んだ日も設計の一部として扱えます。ログを取ると分かりますが、罪悪感で管理するより、合計で管理するほうが数字が安定します。

記録は飲んだ直後に入れるのが要点です

自分はUntappdに銘柄と量を、その場で入れます。翌朝に思い出して入れた週と、その場で入れた週で比べると、翌朝入力の週は合計が2割ほど少なく記録されていました。記憶で補正がかかるからです。記録の粒度がぶれると、そのあとの判断が全部ずれます。

上限は下げすぎないでください

最初に週40gという上限を置いたことがありますが、1か月で崩れました。守れない上限は、守れなかった事実だけを積み上げます。今の自分の平均をログで出して、そこから2割引いたところに最初の上限を置くと、だいたい続きます。

上限の目安が思いつかないときは、純アルコール20gという単位が飲みものでどのくらいの量になるかを先に体で覚えてしまうのが早いです。そこはアルコール20gは"どのくらい"か。飲料別の量と身体感覚を完全整理が詳しいので、缶を持ったときに換算できる状態にしておくと、外で飲む日にも効きます。

記録を見返す単位は、月ではなく週にしてください

月でまとめると、良かった週と崩れた週が平均に溶けて見えなくなります。週で見れば、崩れた週に何があったのかを思い出せる距離に記録が残ります。自分は日曜の夜に7日分の合計を出して、その週に想定外があったかどうかだけをメモしています。可視化の仕方はスプレッドシート vs 専用アプリ——飲酒ログの「器」を変えると、見えるものが変わる話でも掘っています。

要点: 週の上限・1回の上限・曜日の先決め・即時記録・週末の見直しの5手順で、たまに飲むは設計になります。

1年半のログで実際に起きたこと

ここからは自分の記録の話です。うまくいかなかった時期も含めて書きます。

最初の3か月、頻度だけ減らして総量が増えた

始めた当初は「飲む日を減らせばいい」と考えて、毎日から週2日に切り替えました。ところが3か月分のログを集計したら、週の合計が始める前とほとんど変わっていませんでした。飲む日が特別な日になった反動で、1回の量が2本から4本に増えていたからです。

数値で測ると、頻度の削減は総量の削減を意味しないことがはっきり分かりました。これは自分のログでも、さきほどの図の計算でも同じ方向を指しています。

6か月目、1回の上限を決めたら安定した

そこで1回の上限を2本に固定しました。飲む日数は変えずに、1回の量だけを絞ったわけです。すると週の合計は素直に下がり、そのまま横ばいで推移するようになりました。

Apple Watchの睡眠データを見ると、飲んだ夜の深い睡眠の割合が飲まない夜より低くなる傾向は残りましたが、4本飲んでいた頃に比べると翌朝の心拍の戻りが早くなりました。あくまで自分ひとりの記録なので一般化はしませんが、1回の量が効いているという感触はあります。

1年半経って、飲む日が予定になった

いま飲む日は、金曜と土曜のどちらかと日曜の夜に固定しています。決めてしまうと、平日に「今日は飲もうかな」と考える回数そのものが消えました。判断の回数が減ると、判断に使うエネルギーも減ります。ログを取る目的は我慢ではなく、決めなくていい状態を作ることだったのだと、1年半かけて気づきました。

要点: 頻度だけ減らすと1回の量が膨らみ、総量は下がりませんでした。効いたのは1回の上限のほうです。

この設計が向かない場合と、相談先の話

ここを書かずに設計論だけ並べるのは不誠実なので、はっきり書きます。

減酒が適さない場合があります

医学的に断酒が原則とされる状態はあります。診断を受けている場合、合併症がある場合、過去に飲む量の自己管理がうまくいかなかった経験が重なっている場合は、自己流の設計より専門職の判断が先です。自分のような一般の生活者が書いた記事の手順を、その代わりにしないでください。

減酒外来という窓口があります

久里浜医療センターをはじめ、減酒外来を掲げる医療機関が国内にあります。アルコール治療の専門医が飲酒問題のレベルを判定したうえで、理想とする付き合い方を一緒に考え、必要に応じて飲酒量を減らすための内服薬も提案する、という枠組みです(久里浜医療センター 減酒外来)。

やめる相談しか窓口がないと思っていた人にとって、減らす相談ができる場所があるという情報自体が選択肢を増やします。

お酒を離れている途中の人は、たまにを持ち込まない

いま期間を決めてお酒から離れている最中なら、その期間中に例外を作らないほうが設計は安定します。例外の判断が毎回発生すると、判断の回数が増えて消耗するからです。期間が終わったあとに、改めて週の上限を決め直すほうが合理的だと自分は考えています。

要点: 診断を受けている場合や自己管理が難しい場合は、設計より先に減酒外来などの専門窓口に相談するのが筋です。

よくある質問

禁酒中に1回だけ飲んだら、やり直しになりますか

期間を決めた禁酒に取り組んでいるなら、ルール上は期間が途切れたことになります。ただし積み上げた日数がゼロに戻るという考え方は、記録の付け方の問題でしかありません。自分は連続日数ではなく週の合計グラム数で管理しているので、1回飲んでも翌週の合計に反映されるだけです。指標を連続日数から総量に変えると、やり直しという概念自体が消えます。

たまに飲むなら、どのくらいの頻度と量が目安ですか

厚生労働省のガイドラインでは、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を1日あたりの平均純アルコール量で男性40g以上、女性20g以上と示しています(健康に配慮した飲酒に関するガイドライン)。また1回の飲酒機会で60g以上の一時多量飲酒は避けるべきとされています。この2つを週の設計に翻訳すると、1回の上限と週の合計の両方を決めることになります。具体的な数値は体格や体質、健康状態で変わるので、健診結果を持って医師に相談するのが確実です。

週末だけまとめて飲むのと、毎日少しずつでは、どちらがいいですか

どちらが良いかは一概に言えませんが、週末にまとめて飲む形は1回あたりの量が60gを超えやすく、一時多量飲酒の目安に届きやすい形です。自分のログでも、飲む日を絞った直後に1回の量が倍になりました。頻度を下げるなら、同時に1回の上限も決めてください。

減酒外来はどういう人が行く場所ですか

久里浜医療センターの案内では、アルコールに問題を感じていて、量を減らしたり飲み方を変えたい方が対象とされています。断酒を決めた人だけの場所ではありません。診断や治療の要否は医師が判断する領域なので、迷っている段階で相談して構わない窓口だと理解しています。

記録アプリは何を使えばいいですか

続けられるものなら何でも構いません。自分はUntappdと手元の表計算を併用していますが、重要なのはツールではなく、飲んだ直後に入れる習慣のほうです。入力に10秒以上かかるツールは、自分の経験では3週間ともちませんでした。

今週、最初にやってほしいこと

まずは今の自分の週の合計グラム数を、記憶ではなくログで出してみてください。数字が出たら、そこから2割引いた値を来週の上限に置く。それだけで、たまに飲むが感覚の話から設計の話に変わります。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。診断・治療が必要かどうかの判断は医療機関にご相談ください。