やめたいのに動けない、その正体は3つに分かれます

結論から言うと、お酒をやめたいけどやめられないという状態は、多くの場合ひとつの大きな問題ではなく、3つの小さな問題が重なっています。ゼロか百かで目標を立てていること、飲む場面が生活の中で固定されていること、そして自分の現在地を数字で測っていないことです。この3つはそれぞれ別の打ち手で動かせます。

そしてもうひとつ、大事な前提があります。着地点は必ずしもゼロではありません。量を減らすという選択肢も、医療の世界では正式に扱われています。ゼロにしなければ意味がないという思い込みを外すだけで、動き出せる人はかなりいるというのが、私が5年見てきた実感です。

私はやめた側の人間ですが、やめろとは書きません

私は30代の後半に自分の飲み方を見直して、そこから5年お酒を飲んでいません。ただ、5年やってみて気づいたのは、私が選んだ着地点が誰にとっても正解ではないということでした。だからこの記事は、ゼロにする方法ではなく、動けない理由を3つに切り分けて、それぞれに手を入れる話として書きます。

先に読み方の地図を置きます

この記事は、現在地の測り方、3つの詰まりの正体、研究が示していること、今夜からの手順、私の5年分のノートの話、当てはまらない場合の相談先、という順で進みます。急いでいる方は、次の章の3つの詰まりだけ読んでも実用になります。

要点: やめられないは単一の問題ではなく、目標の立て方・場面の固定・現在地の不明という3つの重なりです。

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5年前の火曜日、台所で3分立ち尽くしていた話

少しだけ、当時の場面を書かせてください。ここが分からないと、次章の分解がただの理屈に見えてしまうからです。

冷蔵庫の扉に手をかけたまま動けなかった

仕事から帰って、上着も脱がないまま台所に立っていた夜がありました。冷蔵庫の扉に手をかけて、開けるか開けないかを決められずに、たぶん3分くらいそのまま止まっていたと思います。その日の昼に、もう今日からやめようと心の中で決めていたからです。

結局その夜は開けました。そして翌朝、また同じことを決意し直しました。振り返ってみると、あの頃の私は毎日ゼロから決意していて、決意した回数だけ、守れなかった記録を積み上げていたんです。

やめたい理由を、私は言葉にできていなかった

当時のノートを読み返すと、やめたい理由の欄が空白か、体のためとだけ書いてあります。体のため、では弱いです。何がどうなったら良しとするのかが決まっていないので、飲んだ夜に照らし合わせる基準がありません。基準がないと、感想しか残らないのです。

動き出せたのは、目標を小さく割ったときでした

最初に効いたのは、やめるという大きな目標をいったん脇に置いて、今週は火曜と木曜だけ飲まないという小さな枠に置き換えたことでした。守れる枠を置くと、守れた記録が残ります。守れた記録が3週分たまった頃に、初めて次の枠を考える気持ちになりました。

要点: 毎晩ゼロから決意し直す構造そのものが、守れない記録を積み上げていました。

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動けない3つの詰まりを、順番に外していく

ここからが本題です。3つを一度に直そうとすると失敗するので、上から順に1つずつ扱ってください。

詰まり1:ゼロか百かで目標を立てている

今日から一滴も飲まない、という目標は、1回の例外で全体が崩れる構造をしています。1回崩れると、明日からまたゼロ、という判断が必要になり、その判断が毎日発生します。人が消耗するのは我慢そのものより、判断の回数のほうです。

これを外すには、目標を期間と量の2軸に分けます。たとえば「今月は飲む日を週2日まで」「1回はビール500ml換算で2本まで」のように、範囲で決めます。範囲なら、範囲の中で終わった日は成功として記録できます。禁酒・断酒・節酒といった言葉の違いは断酒・禁酒・節酒・ソバキュリ、4つの違いを整理するに整理してあるので、自分がどれを目指しているのかを先に決めておくと迷いが減ります。

詰まり2:飲む場面が生活に固定されている

やめられないと感じるとき、多くは「飲みたい」のではなく「その場面がくると飲むことになっている」だけです。帰宅して手を洗ったら冷蔵庫を開ける、という一連の動作が固定化しているなら、意志で止めるのではなく、動作の順番を変えるほうが早いです。

私は帰宅後の動線を、玄関からそのまま洗面所へ行く形に変えました。台所を通らない経路を作っただけです。地味ですが、冷蔵庫の前で3分立ち尽くす夜は、この変更以降ほとんど無くなりました。場面の設計が続かない理由についてはなぜ「今日から節酒しよう」が続かないのかも参考になります。

詰まり3:自分の現在地を数字で測っていない

いちばん抜けやすいのがここです。多いのか少ないのか分からないまま、多い気がするという感覚だけで動こうとすると、目標の置き場所が決まりません。現在地を測る公的な道具があるので、次章でそれを使います。

要点: 目標を範囲に変える、場面の動線を変える、現在地を測る。この順番で1つずつ外します。

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現在地を測る道具と、相談の効果を示した研究

感覚の話を続けても前に進まないので、ここからは公的な基準と研究を見ます。

AUDITという質問票で、自分の帯が分かります

AUDITは飲酒行動の問題を早期に見つけるための質問票で、厚生労働省が保健指導の手引きとして公開しています(保健指導におけるアルコール使用障害スクリーニング(AUDIT)とその評価結果に基づく減酒支援の手引き)。10問に答えると合計点が出て、点数帯によって扱いが変わります。

0815400〜7点 危険の少ない飲酒群8〜14点 危険な飲酒群15点以上 アルコール依存症疑い群出典: 厚生労働省 AUDITと減酒支援の手引き

図: AUDITの点数帯。自分がどの帯にいるかで、次の一手の置き場所が変わります。

0点は非飲酒群、1〜7点は危険の少ない飲酒群、8〜14点は危険な飲酒群、15点以上はアルコール依存症疑い群として扱われます。8点以上では健康への影響が起こる可能性が高くなり、15点以上では専門医療機関への相談や、減酒あるいは断酒の取り組みが必要とされます。自分の帯が分かると、この記事の手順で足りるのか、相談したほうがいいのかが判断できるようになります。

短い相談だけでも、1年後の量が変わっていました

やめられないのは自分ひとりで抱えているからではないか、という疑問に答える研究があります。かかりつけ医などが行う短い介入(ブリーフ・インターベンション)の効果を調べたコクランのレビューでは、69件の研究・33,642人が対象となり、主要な解析(34件・15,197人)で、短い介入を受けた人は受けなかった人に比べて1年後の飲酒量が週あたり20g少なかったと報告されています(95%信頼区間 -28〜-12、中等度の質のエビデンス)(Kaner EF, et al. Effectiveness of brief alcohol interventions in primary care populations. Cochrane Database Syst Rev. 2018;2(2):CD004148. PMID: 29476653)。

週20gというのは、5%のビール500mlで1本分です。劇的ではありません。でも、60分に満たない会話が1年後の行動に残るという事実のほうが、私には大きく見えました。やめられないのは気合いが足りないからではなく、外からの一押しが単純に無いだけ、という可能性があるということです。

減らすという着地点も、正式に扱われています

同じレビューは、短い介入が飲酒日数や1回あたりの量に与える影響は小さいとも報告しています。つまり、効いたのは総量のほうでした。ゼロにするのではなく総量を落とすという方向に、確かめられた道筋があるということになります。

要点: AUDITで帯を測り、必要なら短い相談をひとつ挟む。それだけでも1年後の総量は動きうると報告されています。

今夜からできる5つの手順

ここまでを行動に落とします。上から順にやってください。1と2を飛ばすと、3以降が空回りします。

  1. やめたい理由を1行で書く。体のため、ではなく「朝6時に起きて散歩したい」のように、場面が浮かぶ言葉にする
  2. AUDITに答えて、自分の点数帯を確かめる
  3. 今週の枠を決める。飲まない曜日を2日、または1回の上限量のどちらかから始める
  4. 帰宅後の動線を1か所だけ変える。台所を通らない、グラスを棚の奥に移す、など物理的な変更にする
  5. 夜、枠を守れたかどうかだけをノートに1行残す。感想は書かない

感想を書かないのが、続けるコツです

最初の頃、私はノートに長い反省を書いていました。でも反省は読み返すのがつらくて、結局ノート自体を開かなくなります。守れたかどうかの丸とバツだけにしたら、5年続きました。記録は自分を裁く道具ではなく、傾向を見るための道具です。

動線の変更は、意志を使わない場所に置きます

動線を変えるとき、我慢が必要な変更を選ぶと続きません。グラスを棚の奥に移す、買い置きをやめて飲む日だけ買いに行く、冷蔵庫の定位置を炭酸水に譲る。どれも、その瞬間に判断しなくて済む形になっているのが共通点です。判断が要らない変更だけを選ぶ、と決めておくと迷いません。

枠は下げすぎないでください

いきなり飲まない日を週5日にすると、だいたい2週間で崩れます。今の自分の実績を1週間だけ測って、そこから1日だけ増やす。これが私の経験上いちばん定着しました。量の目安が分からない場合はアルコール20gは"どのくらい"かで換算の感覚をつかんでおくと、枠を決めやすくなります。

要点: 理由を1行、現在地を点数、枠を1つ、動線を1か所、記録は丸とバツ。この5つだけで動き出せます。

5年分のノートが教えてくれた、変わり方の順番

ここからは私の記録の話です。順番が意外だったので、そのまま書きます。

最初に変わったのは、夜の時間の使い方でした

体の変化より先に来たのは、夜の時間が余るという感覚でした。20時から23時が空白になって、最初の2週間はその空白をどう埋めていいか分からず、かえって落ち着きませんでした。空白は、埋める予定を先に入れておかないと不安に変わります。私は読みかけの本を枕元に置くところから始めました。

数字が動いたのは、そのあとでした

体重や健診の数値が動いたのは、もっとあとです。最初の1か月のノートには、体の変化らしい記述がほとんどありません。すぐに変化が出ないことを知らずに始めると、効果が無いと判断して戻ってしまいます。順番が分かっているだけで、最初の1か月の耐性が変わります。

人からの反応が変わるのは、3か月目あたりでした

周りの人が私の変化に気づいたのは、3か月を過ぎたあたりでした。それまでは何も言われません。ここも順番の話で、自分の内側の変化と、人から見た変化の間には数か月のずれがあります。誰にも気づかれない期間があることを知らずにいると、意味がないと感じて戻りやすくなります。気づかれない期間は、変化が無い期間ではありません。

うまくいかなかった週も、そのまま残しています

5年のうちには、枠を守れなかった週もあります。私はそれを消さずに残していて、いま見返すと共通点が見えます。予定が急に詰まった週と、睡眠が5時間を切った週に集中しているんです。意志ではなく条件のほうに原因があったと分かると、次に同じ条件が来たときに先回りできます。

要点: 変化は時間の使い方から始まり、数値は遅れて動きます。この順番を知っておくと最初の1か月を越えられます。

この記事の手順が当てはまらない場合

ここは正直に書きます。自分で枠を決めて運用する方法が向かない状況があります。

相談を先にしたほうがいい目安

AUDITが15点以上だった場合、厚生労働省の手引きでは専門医療機関への相談や減酒あるいは断酒の取り組みが必要とされています。また、飲まない日に手の震えや強い発汗、眠れないといった体の変化がある場合は、自己流で量を動かす前に医療機関に相談してください。体の状態によっては、急に量を変えること自体が負担になることがあります。

やめる以外の窓口もあります

やめる相談しかできないと思って窓口を避けている方がいますが、量を減らす相談を受けている医療機関もあります。ゼロにする覚悟がないと行ってはいけない場所、ではありません。迷っている段階で相談してよい、というのは知っておいて損のない情報だと思います。

私の体験は、ひとつのサンプルです

この記事に書いた5年分の記録は、私ひとりの記録です。体質も生活も人によって違うので、手順はそのまま真似するのではなく、自分の条件に合わせて削ってください。使えるところだけ持っていってもらえれば十分です。

要点: AUDITが15点以上のときや体の変化があるときは、自己流の前に医療機関へ相談してください。

よくある質問

お酒をやめたいけどやめられないのは、意志が弱いからですか

意志の強さだけで説明できる現象ではありません。目標がゼロか百かになっていること、飲む場面が生活動線に組み込まれていること、現在地を測っていないこと。この3つが重なると、どれだけ決意しても同じ夜が繰り返されます。順番としては、決意を強くするより先に、この3つを外すほうが動きます。

やめるのではなく減らすだけでも意味はありますか

はい、あります。短い介入の効果を調べたコクランのレビューでは、介入を受けた人の1年後の飲酒量が週あたり20g少なかったと報告されています(PMID: 29476653)。総量が下がることそのものに意味があるという前提で研究が組まれているということです。ゼロでなければ無意味、ということはありません。

何日やめたら効果が出ますか

体の変化には個人差が大きく、日数で一律に言えるものではありません。私自身の記録では、夜の時間の使い方が先に変わり、健診の数値はもっと後から動きました。日数を目標にするより、飲まない日を週に何日置けたかを週単位で見るほうが、早い段階で手応えが得られます。

1回飲んでしまったら、また最初からですか

連続日数を指標にしているとそうなりますが、指標を週の総量や週の飲まない日数に変えれば、最初に戻るという概念は消えます。私は5年間、連続日数を数えたことがありません。数えていたら、たぶん途中でやめていたと思います。

家族に言わずに始めても大丈夫ですか

黙って始めて構いません。ただ、飲む場面が人との時間に固定されている場合は、いずれ一言伝えたほうが動線を変えやすくなります。理由を説明する必要はなく、今月はこうしていると事実だけ伝えれば足ります。

今夜、ノートに1行だけ書いてみませんか

やめたい理由を、場面が浮かぶ言葉で1行だけ書いてみてください。朝の散歩でも、土曜の午前中でも構いません。その1行があると、飲んだ夜も飲まなかった夜も、照らし合わせる基準ができます。基準ができた日が、たぶん本当の1日目です。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。体の変化がある場合や判断に迷う場合は、医療機関にご相談ください。