あの時間は「ご褒美」じゃなかったかもしれない
断酒する前の自分にとって、仕事帰りのビールはほとんど「儀式」だったんです。駅のホームのコンビニで500ml缶を1本買って、電車の中で「あとで飲む」ことを想像しながら帰る。家に着いたら冷蔵庫をあけて2本目を出して、テレビをつけて、ソファに沈む。それが10年以上続いた夜のルーティンでした。
健診でDをもらったとき、医師に「このままだと肝臓が本当にまずいですよ」と言われて、初めてその儀式の重さに気づきました。自分では「ご褒美」「リラックス」と思っていたけれど、振り返ると、飲まないと夜がうまく始められない状態になっていたんです。ご褒美というより、「飲まないと落ち着かない」という感覚に近かったと、今は客観的に見られます。
断酒最初の1か月、仕事帰りが一番きつかった
断酒を始めてみて、昼間や朝は意外と平気だったんです。でも仕事帰りの電車に乗ったとたん、コンビニの明かりが目に入るたびに体がそっちに向こうとする。体というより、頭が勝手に「今日は何を飲もうか」と動き出すんですよね。習慣の根っこは思ったより深いと気づきました。
「帰り道」そのものを変えてみた
そこで自分がやったのは、帰り道のルートを少し変えることでした。コンビニの前を通らない道を選ぶ、というシンプルな作戦です。遠回りになるけれど、5分歩く時間が「今日も選んだ」という感覚に変わっていきました。行動のトリガーを物理的に外してしまうのが、自分には一番効きました。
電車の中で「何をするか」を事前に決めておく
もうひとつ効果があったのは、電車に乗る前に「帰ったら何をするか」を具体的に決めておくことでした。「今夜はポッドキャストを聴きながらストレッチをする」「図書館で借りた本の続きを読む」など、細かいほど良かったです。頭の中に別の予定が入っていると、コンビニへの引力が弱まる感覚がありました。
「疲れを流す」という感覚を、別のもので得る
仕事帰りのビールに求めていたのは、正直「切り替え」だったと思うんです。仕事モードから家のモードへ、体と頭をリセットするスイッチ。そのスイッチをお酒以外で見つけることが、この3年間のテーマでした。
シャワーを「切り替えの儀式」にする
家に帰ってすぐ、着替える前にシャワーを浴びるようにしました。お酒の代わり、というより、これ自体を「今日の仕事はここで終わり」という合図にしたんです。湯船に浸かるのが好きな人はそれでもいいと思います。要は、体に「切り替えた」と感じさせる動作を意図的に作ること。自分にとってシャワーは今も大事なルーティンで、これをやると夜が始まる感じがします。
ノンアル飲料を「形から入る」ために使った
断酒初期は、グラスに炭酸水や麦茶を注いで、ソファに座って飲むという「形」をそのまま残していました。ビールじゃないけれど、冷たい炭酸をグラスで飲む感触は意外と満足感があったんです。「何も飲まずに座っている」よりも、手に何かを持っているほうが心理的に楽でした。ノンアル飲料をうまく使うのも、切り替えの手段として全然ありだと思っています。
3年経った今、仕事帰りの夜が「楽しみ」になった
最初の半年くらいは正直、仕事帰りの時間帯が一番しんどかったです。でも1年を過ぎたあたりから、その時間帯の質感がじわじわ変わってきました。今は帰り道に「今夜は何をしようか」と考えることが、純粋に楽しいんです。
シラフで夜を過ごすと、時間の密度が変わります。ビールを飲んでいた頃は、飲み始めると2〜3時間があっという間に過ぎて、何をしていたか記憶もぼんやりしていることが多かった。今は21時でも22時でも頭がちゃんと動いているので、読書もできるし、翌日の準備も落ち着いてできる。朝の目覚めが違うのも、3年経った今でも毎朝「よかった」と思う瞬間です。
「疲れているから飲む」から「疲れているから整える」へ
以前は疲れた日ほどビールを飲んでいました。でも今考えると、疲れているときにアルコールを入れると睡眠の質が落ちて、翌朝さらに疲れて出社する、という繰り返しだったんですよね。今は疲れた夜こそ、早めに湯船に浸かってストレッチして、23時前に横になる。それだけで翌朝が全然違います。「疲れを飛ばす」より「疲れをちゃんと回収する」という感覚に変わりました。
再飲酒しそうになった夜のこと
断酒3年の自分でも、「もういいか」と思いそうになった夜が何度かあります。特に覚えているのは、仕事で大きなミスをした夜。帰り道に「今日だけは飲んでもいい」という声が頭の中でずっとしていました。
そのとき自分がやったのは、コンビニの前で立ち止まって、スマホのメモを開いて「今、飲みたいと思っている。理由は仕事でミスをしたから」と書いただけです。文字にした瞬間、不思議と少し落ち着きました。感情をそのまま言語化すると、感情に飲み込まれにくくなるんですよね。それから家に帰って、シャワーを浴びて、温かいものを飲んで、早めに寝ました。翌朝、飲まなくてよかったと思いました。
「今日だけは」という感覚は、断酒している間に何度か来ます。そのたびに、ちょっとだけ立ち止まって、自分が何を感じているのかを確認する。その数秒が、選び続けることの積み重ねだと今は思っています。
仕事帰りの一杯をやめて気づいたのは、あの時間に自分が本当に求めていたのは「お酒」ではなく「切り替え」だったということ。切り替えのスイッチは、作ろうと思えばいくらでも作れます。
もし今、仕事帰りのビールが「惰性になっているかも」と感じている人がいたら、まず帰り道のルートを一本変えてみることをおすすめします。小さな変化が、夜の使い方を少しずつ変えてくれます。
※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。健康上の不安がある方は医療機関にご相談ください。




