梅雨明け前の夜、昔の自分は何をしていたか

6月の後半になると、東京はまだ梅雨が明けていないのに夜の空気だけ一足先に夏めいてくる。湿度が高くて、風もなくて、シャツが背中に張りつくような感じ。自分はその感覚が、正直あまり得意じゃなかったんです。

10年以上、ほぼ毎日晩酌をしていたころの話をすると、帰宅してすぐ冷蔵庫を開けてビール500ml缶を2本取り出すのが、この季節の「儀式」だった。缶を開けるあの音、最初の一口の冷たさ。それで「やっと一日が終わった」と感じていた。蒸し暑い夜の不快感を、ビールで上書きしていたんだと思う。

でも3年前、健診でD判定が出た。肝機能の数値が何年もかけてじわじわ積み上がっていた結果だった。それが自分の断酒のきっかけだったんです。その話の詳細は別の記事に書いたけれど、今日はもう少し先の話——断酒3年が経った今、この「梅雨明け前の夜」がどんな感触に変わったか、を書きたい。

最初の夏、シラフの夜は「情報が多すぎる」と感じた

ビールが消えると、夜の感覚がうるさくなる

断酒して最初の梅雨明け前、自分が最初に感じたのは「夜がうるさい」という、少し変な感覚だった。音でも光でもなくて、体に届いてくる情報量が急に増えた感じ、と言えばいいか。蒸し暑さ、空腹感、疲れ、日中に積み重なった細かいもやもや——それらをビールでならしていたんだと、飲まなくなってはじめて実感したんです。

正直、最初の1〜2か月は「夜の居心地が悪い」と思っていた。だからといって特別なことはしていない。シャワーを浴びて、少し温度の低い部屋で横になって、目を閉じる。それだけで、ぎこちなく夜をやり過ごしていた。

「不快」に気づけることが、実は整っているサインだった

でも今思うと、あの「夜がうるさい」感覚は悪いことじゃなかった。ビールというフィルターが外れて、体がやっと正直に今日の状態を報告してくれていたんだと気づきました。疲れているなら疲れている、蒸し暑いなら蒸し暑い——そういう当たり前の体感を、自分は10年以上アルコールで曇らせていたわけで。

2年目以降、夜の「体感温度」が変わってきた

暑さが「邪魔なもの」から「情報」に変わる感覚

断酒2年目の梅雨明け前ごろから、夜の感触が少しずつ変わってきたんです。同じ蒸し暑い夜なのに、以前ほど「早くこれを消したい」という衝動が起きなくなってきた。

これはうまく言語化が難しいんだけれど、暑さや湿気が「邪魔なもの」ではなくて、「今夜の空気の濃度」みたいな、ただの情報として受け取れるようになってきた感じ。扇風機の風がちゃんと涼しいと感じられるし、冷たい緑茶を一口飲むとその温度差がきちんと体に届く。感覚の解像度が上がったというか、体が素直に反応できるようになってきた、と言えばいいか。

眠りの深さが、夜の印象を変えた

体感として大きかったのは、眠りの変化だった。アルコールは寝つきをよくするように感じるけれど、実際は睡眠の後半にかけて眠りが浅くなる影響があるとされている(睡眠とアルコールの関係については、Ebrahim et al., 2013, Alcoholism: Clinical and Experimental Research などに記述がある)。自分の体感でも、晩酌していたころは夜中に目が覚めることが多くて、朝が重かった。

断酒してから1年を過ぎたあたりで、夜中に目が覚める回数がはっきり減った。朝5時ごろに自然に目が覚めて、体が軽い。その感覚を一度知ってしまうと、「夜の質が変わった」というのが単なる気持ちの話ではないと、じわじわ腑に落ちてくるんです。

断酒3年目、梅雨明け前の夜の「今」

蒸し暑い夜のルーティンが、自然と育っていた

今年の梅雨明け前の夜、自分がどう過ごしているかを書いてみる。帰宅したらまずシャワー。少しぬるめのお湯でゆっくり入るのが、この季節は体に合っている気がする。上がったら水か炭酸水を飲んで、部屋をエアコンで27〜28度くらいに保つ。そこでようやくごはんを食べる。

食後は特別なことはしない。本を読んだり、録っておいたドキュメンタリーを見たり、ストレッチをしたり。どれも「断酒のためにやっている」という意識はなくて、ただ「今夜の自分に気持ちいいことを選んでいる」という感じ。これがいつの間にか育っていたんです。

「飲まない夜」より「今夜の自分」を中心に置く

断酒を始めたばかりのころ、夜の過ごし方を考えるときに「どうやって飲まないか」を軸にしていた時期があった。でも今は、その軸が「今夜の自分はどんな状態で、何をしたら気持ちいいか」に変わっている。結果として飲まない夜が続いているだけで、「飲まないこと」は目的じゃなくなっているんです。

梅雨明け前の蒸し暑い夜が、今は嫌いじゃない。むしろ「夏が本格的に来る前の、独特の空気」として楽しめるようになってきた。それは体がちゃんと夜の感触を受け取れるようになったから、だと思っている。

「夜の体感」を育てるために、自分がやってきたこと

最後に、同じように「シラフの夜の居心地」を探している人に向けて、自分が意識的にやってきたことをまとめておく。

  • 入浴をルーティンの起点にする:シャワーでも湯船でも、「帰宅してまずここ」という定点を作ると夜の流れが安定しやすかった。
  • 冷たい飲みものにこだわる:炭酸水、冷たい麦茶、ノンアルのレモネードなど、グラスに注いで飲む「動作」が、かつての晩酌の代わりの儀式になってくれた。
  • 体が不快を訴えてきたら、消そうとしない:疲れている、蒸し暑い、眠い——それをフラットに確認して、「じゃあ今夜はもう寝よう」と決めるだけでいい。上書きしようとしないことが、体感の解像度を上げるコツだったと思う。
  • 翌朝の自分を意識する:「明日の朝、体が軽い状態でいたい」という小さなイメージを持つようにしていた。遠い目標より、明日の朝のほうが具体的で、自分には効いた。

断酒は「我慢の積み重ね」じゃなくて、「夜の感触を育てていくプロセス」だと思っている。今夜の梅雨明け前の蒸し暑い空気も、そのプロセスの一部として、自分は割と気に入っている。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。健康上の不安や症状がある場合は、医療機関にご相談ください。