かつて、梅雨の休日の昼間が一番きつかった

断酒を始めた最初の梅雨のことを、今でもよく覚えています。雨が窓を叩く土曜の昼すぎ、特に予定もなく、ソファに転がっている。そんなとき、頭の中にビールのことが浮かぶ速さといったら、もう反射に近かったんです。

10年以上、ほぼ毎日500ml缶を2本。梅雨時の蒸し暑さと、雨で外に出られない閉塞感と、「まあ休日だし」という免罪符が重なった昼間は、自分にとって「一日で最も飲みたい時間帯」だったと気づきました。夜の晩酌よりも、むしろ昼間のほうが引力が強かった。

健診でD判定をもらって断酒を決めたのは3年前の秋。最初の冬は新鮮な緊張感があって意外と乗り越えられたんです。でも翌年の梅雨が来たとき、「ああ、去年のこの季節は飲んでいたな」という記憶がありありと蘇ってきて、正直、揺らぎました。

「飲まない休日の昼間」に何をするか、が問題だった

空白の時間が、一番のハードルだった

夜の晩酌は、夕食というイベントがセットになっているので、ご飯を丁寧につくることで代替できたんです。でも昼間の「なんとなく時間が余っている」感覚には、そういう構造的な受け皿がなかった。

最初は「何かしなければ」と焦っていました。本を読もう、映画を観よう、散歩しよう——と頭で考えるんですが、気持ちが乗らないままなんとなくスマホを見て、また「なんとなく時間が余っている」感覚に戻ってくる。この繰り返しが、断酒2年目の梅雨にはまだあったんです。

「埋める」より「整える」という発想に切り替えた

転機になったのは、「空白をコンテンツで埋めようとしている自分」に気づいたことでした。何かで時間を潰そうとしているうちは、どこかに焦りが残る。それよりも、「この時間をどういう状態で過ごしたいか」を先に決めるほうが、ずっとラクになったんです。

具体的には、梅雨の休日の昼間を「カラダと家の感覚を整える時間」と位置づけるようにしました。大げさなことじゃなくて、ゆっくりコーヒーを淹れて飲む、キッチンの引き出しを一つだけ片付ける、ストレッチを10分やる。それだけで十分だったんです。

シラフの昼間が教えてくれた「感覚の細かさ」

雨の日の家の中が、好きになっていった

断酒3年目に入ってから気づいたことがあります。梅雨の雨音が、わりと好きだということ。窓の外に打ちつける雨の音や、湿った空気のにおいを、以前よりもずっとはっきり感じられるようになっていたんです。

飲んでいたころは、雨の日は「気圧が低いから余計に飲みたくなる」という感覚しかなかった。シラフで過ごすようになってからは、同じ雨の日が「静かに自分のペースでいられる日」になりました。外に出なくていい理由が、いつの間にか「外に出なくても十分いい理由」に変わっていたんです。

昼間の飲み物を、ちゃんと選ぶようになった

かつては昼間の飲み物なんて、麦茶か水か、気分次第でビールか——それくらいの雑さだったんです。断酒してから、コーヒーの豆の種類を少しずつ試したり、緑茶の蒸らし時間を変えてみたり、炭酸水にフルーツを入れてみたりと、「昼間に何を飲むか」を自分なりに楽しむようになりました。

大した話ではないんですが、これが意外と効いた。飲み物を選ぶという小さな行為が、「今この時間を自分でつくっている」という感覚につながっていたんだと思います。

再飲酒しそうになった梅雨の午後のこと

正直に書いておきます。断酒2年目の梅雨に、コンビニの前で本当に迷ったことがありました。特別な理由はなかった。なんとなく湿っぽい気分で、なんとなく寄ったコンビニで、缶ビールが視界に入ってきた。

そのとき自分がやったのは、「買わずに店を出て、5分歩く」という、それだけのことでした。歩き始めたら気持ちが動いて、気持ちが動いたら欲求の波が少し小さくなった。家に帰って冷たい炭酸水を飲んだら、「ああ、やり過ごせた」と思えたんです。

リカバリというほど大げさなものじゃない。でも「買わなかった5分間」の積み重ねが、断酒継続の実体だと今は思っています。一度揺らいでも、次の5分をやり過ごせたら十分。そのくらいの粒度で考えると、3年という時間はずっと手触りのあるものになります。

梅雨の休日の昼間が、今は「好きな時間帯」になった

断酒3年目の今、梅雨の休日の昼間は自分にとって「好きな時間帯」のひとつになっています。雨が降っているから外出しなくていい、予定が詰まっていないからゆっくりできる、シラフだから感覚がクリアでいられる——この三つが重なると、なんとも気持ちいい時間になるんです。

かつて「一日で最も飲みたい時間帯」だった枠が、「一日で最もシラフを気持ちいいと感じる時間帯」に変わった。この逆転が起きたのは、意思が強くなったからじゃないと思っています。単純に、シラフで過ごすことを繰り返していたら、シラフのほうが自分の「普通」になっていったんです。

断酒を始めたばかりの方や、梅雨のこの時期に少し揺らいでいる方に届けば、と思いながら書きました。「整える」という言葉を意識して、今日の昼間をシラフでやり過ごしてみてください。そのやり過ごした時間が、じわじわと積み上がっていきます。

※本記事は一般情報の提供を目的としており、医療的助言・診断・治療の推奨を行うものではありません。体調や飲酒に関する具体的な不安がある場合は、医師や専門家にご相談ください。