梅雨の夜、かつての私は何を求めていたのか

6月に入ると、空気がじっとりと重くなる。窓の外に雨音が続く夜って、なんとなく気分が沈みやすくて、お酒が恋しくなる——そういう感覚、覚えている方もいらっしゃるんじゃないかなって思うんです。

断酒する前の私も、梅雨の夜がけっこう「難関」でした。仕事の疲れに湿度の重さが重なって、「今夜くらいは」と赤ワインを開けることが多かった。雨音を聞きながら飲むのが、なんとなくサマになる気がしていたんです。

でも5年やってみて気づいたのは、あのころ求めていたのはお酒そのものじゃなくて、「今この瞬間に、何かやわらかいものをそっと差し込みたい」という感覚だったんだ、ということ。気圧の変化で体がだるいとき、仕事の緊張がほどけないとき、雨音が単調で気持ちが内向きになるとき——そこにお酒を差し込んでいただけで、本当に欲しかったのは別のものだったんですよね。

記録ノートが見せてくれた「梅雨パターン」

私は断酒を始めたころから、毎日の体調と気分を小さなノートに書き続けています。天気、睡眠時間、その日の気分を3段階で丸をつけて、一言だけ添える。たったそれだけのシンプルな記録なんですが、これが積み重なると面白いことが見えてくるんです。

ノートが教えてくれた「気圧と気分」の関係

5年分の記録を振り返ってみると、梅雨の時期は確かに「気分:ふつう以下」の丸が増えている。体がだるい、眠りが浅い、なんとなくそわそわするという書き込みも多い。最初のころは「今夜は飲みたかった」と正直に書いた日もありました。

でも2年目、3年目と経つにつれて、その書き込みが変わってきた。「雨音が気持ちよかった」「早めに湯船に入ったら楽になった」「蒸し暑いけど朝はすっきりした」という一言が増えていったんです。同じ梅雨でも、自分の受け取り方が少しずつ変わっている。その変化をノートが静かに記録してくれていた。

「しんどい夜」を可視化すると、対処が早くなる

記録を続けることのいちばんの恩恵は、「今夜はきつくなるかもしれない」と事前に察知できるようになること。梅雨入り直後の低気圧が続く週は、体がだるくなる傾向があると分かっていれば、その週の夜の過ごし方を少しやわらかく設計できる。残業を詰め込まない、夕食を温かく軽くする、お風呂を長めにとる。そういう小さな調整が、「今夜は何か飲みたいな」という気分をそもそも生まれにくくしてくれる気がしています。

雨の夜を「整える夜」に変えた、小さな習慣たち

5年続けてきた中で、梅雨の夜に特によく効く(私にとっての)小さな習慣がいくつか出来上がってきました。効果効能を断言できるものではないけれど、ノートの記録を見返すと、こういう夜は翌朝の気分も体調も明らかによかった、と感じるものです。

①早めに「夜モード」へ切り替える

かつてはお酒が「仕事モードとオフモードの切り替えスイッチ」になっていました。それに代わるものとして今やっているのが、帰宅して着替えたら温かい飲み物をゆっくり飲むこと。梅雨の時期は体が冷えやすいので、生姜を効かせたハーブティーや、ほうじ茶をたっぷりのマグカップで。熱いものを両手で包んで飲む、あの感触が「今日は終わりにしていいよ」という合図になっている。

②雨音を「BGM」として味方につける

振り返ってみると、雨の夜が嫌だったのは「雨音が余白を作りすぎる」からだったような気がします。何も埋めないと、モヤモヤした気分がじわじわ広がってくる。今は逆に、雨音を意識的に聞く時間を作るようにしています。窓を少し開けて、ノートを広げて、今日あったことを数行書く。雨音が静かな「仕切り役」になってくれて、気分がすとんと落ち着くんです。

③「明日の朝の自分」への小さな贈り物を用意する

断酒5年で最も定着した習慣がこれかもしれません。夜寝る前に、翌朝の自分へちょっといいことをセットしておく。好きなコーヒー豆を挽いておく、読みかけの本をベッドサイドに置いておく、着ていくワンピースを前日に決めておく——どれもほんの数分のことですが、「明日の朝を楽しみにしている自分」が夜に出来上がる。その感覚があると、夜をぐずぐず引き延ばして何か飲みたいという気分が静かに消えていくんです。

5年続けて気づいた、梅雨の夜ならではの「静けさ」の価値

5年やってみて気づいたのは、梅雨の夜って実は「内側を整えるのにぴったりな季節」だということ。外が雨で外出も減るし、気圧の影響で体が少しスローダウンを求めている。その信号に逆らってお酒で無理やりギアを上げようとするより、体が欲しがっているスローダウンをそのまま受け取る方が、翌朝の気持ちよさが全然違う、と分かってきました。

ノートに「今夜は早く寝た。雨音がきれいだった」と書いた翌朝は、不思議なほど頭がクリアで気分がいい。その記録が積み重なると、「梅雨の夜=しんどい」という方程式が「梅雨の夜=丁寧に休める夜」に書き換わっていく。これが5年の時間をかけてゆっくり起きた変化で、自分でもじんわり嬉しいなって思うんです。

もし今、禁酒や断酒を始めたばかりで梅雨の夜に「なんとなくソワソワする」と感じているなら、それはとても自然なことだと思います。体が気圧の変化を感じていて、かつての習慣が「いつものアレ」を呼んでいるだけ。そこに焦らず、ノートに一言書いてみるだけでもいい。「今夜はソワソワした。でも飲まなかった」——それだけで十分な記録で、後から振り返るととても価値のある一行になります。

雨の季節を、自分を知る季節にする

梅雨って、外が鬱々としているぶん、内側を観察するのに向いている時期だなって今は思えます。湿度の重さも、気圧の変化も、体が何かを感じているサイン。その感覚をノートに写し取っていくと、自分の体のリズムや、気分が揺れやすいタイミングが少しずつクリアに見えてくる。

お酒をやめることで何かを「失った」というより、雨音を静かに聞ける夜を「手に入れた」——そんな感覚が、今の私にはあります。5年分の記録がそれを教えてくれました。今年の梅雨も、ノートと一緒に丁寧に過ごしていこうと思っています。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。体調や飲酒習慣についてお悩みの場合は、医師や専門家にご相談ください。