平日夜9時が、いちばんの「関門」だった
振り返ってみると、断酒を始めた最初の数か月、私がいちばんぐらついていたのは週末の宴席でも飲み会の帰り道でもなく、「平日の夜9時」だったんです。
夕食を終えて、お風呂を済ませて、さあ一息つこうとソファに座った瞬間。以前はそこにワインやビールがあるのが当たり前でした。手がその習慣を覚えていて、飲み物がない手持ちぶさたがじわっと来る。あの感覚、今でも思い出せます。
断酒1か月目のノートには「夜9時、何か飲みたい気分。でも理由がない」と書いてあります。理由がない、というのが面白くて。喉が渇いているわけでも、何かを祝っているわけでも、誰かといるわけでもない。ただ「その時間にそうしてきた」というだけだったんですよね。
ノートが見せてくれた「パターン」
記録を続けると、波に名前がつく
私は断酒を始めたときから、毎晩ノートに3行だけ書くようにしていました。その日の体調、気分、「飲みたかった瞬間があったか」。シンプルな記録なんですが、これが3か月分たまったとき、はっきりと見えてきたことがあって。
「飲みたい気分」は、特定の時間帯と、特定のシチュエーションにほぼ集中していたんです。私の場合は夜9時前後、そして「疲れ度が高い日の翌日」「何かが中途半端に終わった日の夜」。逆に言えば、その時間帯と状況さえ乗り越えれば、あとはわりと穏やかだった。
5年やってみて気づいたのは、「飲みたい気分」に漠然と向き合おうとするより、「この時間帯のこういう状態のときだ」と名前をつけてしまったほうが、ずっと対処しやすいということ。霧の中を歩くより、地図を持って歩くほうが落ち着ける、みたいな感じです。
記録を見返すことが「未来の自分への手紙」になる
ノートをつける習慣が長続きしている理由のひとつに、「過去の記録が助けてくれる」体験を何度もしてきたことがあります。断酒2年目の秋、仕事のストレスが重なって久しぶりに「もういいかな」と思った夜があって。そのとき1年前のノートを開いたら、同じような気分の夜にこう書いてあったんです。「明日の朝、すっきり起きられた自分が楽しみ」って。
過去の自分が、未来の自分を支えてくれた瞬間でした。記録って、積み重なるほど自分だけの「参考書」になっていくんだなって思うんです。
夜9時を「自分のもの」にした、3つの小さな習慣
習慣1:「飲む代わりの儀式」を先に決めておく
断酒初期に効果があったのは、夜9時に「何かをする」と事前に決めておくことでした。お酒という選択肢をなくすだけでは手持ちぶさたが残ってしまう。だから、代わりに何かを「置く」イメージです。
私が続けてきたのは、温かいハーブティーを淹れること。銘柄にこだわっているわけじゃなくて、お湯を沸かして、カップを選んで、香りを嗅ぐ、その一連の動作が「今日もここまで来た」という区切りになっていきました。5年経った今も、夜9時のハーブティーは続いています。もうお酒の代替という意識はなくて、ただ好きな時間になっています。
習慣2:「シラフの夜9時」を具体的に褒める
これ、やってみると地味に効くんです。ノートに「今夜も飲まなかった」とだけ書くのではなく、「今夜9時、飲まずに過ごせた。明日の朝の自分が楽しみ」と、少し具体的に書く。
抽象的な「がんばった」より、「こういういいことがある」という未来の具体像のほうが、次の夜の自分を動かしやすいんですよね。これは断酒1年目に気づいて、ずっと意識的に続けていること。褒め方にも「練習」があるな、と思っています。
習慣3:夜9時以降に「翌朝の楽しみ」を仕込んでおく
5年やってみて気づいたのは、「飲まない夜」は「翌朝の自分へのギフト」だということ。これが腑に落ちてから、夜9時の過ごし方がぐっと変わりました。
具体的には、翌朝の楽しみを夜のうちに準備しておく。好きな本を枕元に置く、明日着たい服を選んでおく、飲みたいコーヒー豆をセットしておく。「飲まなかった翌朝」の清々しさを、積み重ねていくほど鮮明に知っていくので、それが夜9時の選択を後押ししてくれる感覚があります。
「特別なこと」は何もしていない、という話
こうして書いてみると、5年間でやってきたことは本当に地味なことばかりです。ノートに3行書く、ハーブティーを淹れる、翌朝の楽しみを仕込む。誰かに話すほどのことでもないような小さな習慣が、気づいたら5年分積み重なっていた。
振り返ってみると、断酒って「大きな決意を毎晩更新する」ものじゃなくて、「今夜の9時を、自分の好きな時間に少しずつ塗り替えていく」プロセスだったなって思うんです。
最初は「飲めない9時」だったのが、「飲まなくてもいい9時」になって、今はもう「飲もうと思わない9時」になっている。この変化は誰かに言われて起きたわけじゃなく、小さな習慣が静かに積み重なった結果なんだと感じています。
今夜の夜9時を、少し楽しみにしてみる
もし今、「夜9時がちょっとしんどい」と感じているとしたら、その感覚はとても正直だと思うんです。習慣って、最初は意識しないと動けなくて当たり前。
私がおすすめしたいのは、まず今夜1回だけ、夜9時に「飲む代わりに何か好きなことをする」と決めてみること。そしてそれをノートにひとことメモしておくこと。たったそれだけで、来週の自分が少し楽になるかもしれない。
5年やってみて気づいたのは、「夜9時を好きになる」のは特別な意志の力じゃなくて、小さな記録と小さな儀式の積み重ねだということ。今夜の9時が、少し楽しみな時間になりますように。
※本記事は一般的な生活習慣に関する情報提供を目的としており、医療的助言・診断・治療の推奨ではありません。健康上の不安や気になる症状がある場合は、医療機関へご相談ください。




