断酒のきっかけって、実は2種類に分かれる

振り返ってみると、お酒をやめた人の話を聞くとき、きっかけにはだいたい2つのパターンがあるなって思うんです。ひとつは「このままじゃまずい」という切迫感から動いた「追い込まれ型」。もうひとつは「なんとなく、もうお酒なくてもいいかも」という静かな気づきから動いた「選択型」

私自身は、どちらも経験しています。30代後半、最初に飲み方を見直したのは体調不良が続いたことでした。でも、それだけでは長続きしなかった。5年継続できたのは、途中から「追い込まれ型」の動機を「選択型」の動機に少しずつ書き換えていったからだと、今になってわかります。

この記事では、2つの型それぞれの強みと弱さを正直に比べながら、動機を長く持たせるための実際の工夫をお伝えしたいと思います。

「追い込まれ型」のきっかけ — 強さと、その限界

スタートダッシュは圧倒的に速い

追い込まれ型の最大の強みは、始めるときの勢いです。体調が崩れた、健診の数値が気になった、「このままでは」と焦った夜——そういう強い感情は、行動を起こすエネルギーとして本当に大きい。私も最初の数週間は、体の不調への恐怖心がブレーキになってくれていました。

「もう飲まない」という決意の鋭さが、日常のなかのお酒への誘いをはねのけてくれる。とくに最初の1か月は、この緊張感が守ってくれる盾になるんです。

時間が経つと、燃料が尽きる

ただ、この型には弱点があります。それは、きっかけとなった「怖さ」や「しんどさ」が薄れてくると、動機そのものも薄れてしまうこと。体調が回復してきた3か月目あたり、私のノートにはこんな言葉が残っています。「別に今は平気なのに、なんでまだ我慢してるんだろう」。

これが「追い込まれ型」の落とし穴です。困ってから動いているので、困りごとが解消されると同時に、やめ続ける理由も消えかかる。追い込まれた痛みを動機の中心に置いている限り、その痛みが遠のくたびに揺らぎが来る、という構造になってしまうんです。

「選択型」のきっかけ — 静かだけど、根が深い

始まりは小さな違和感かもしれない

一方の選択型は、きっかけがずっとおだやかです。「飲んだ翌朝、なんとなくすっきりしない」「お酒がなくても夜が楽しかった日があった」「もう少し朝の時間を自分のために使いたい」——そういう、大げさではないけれど確かな気づきから始まる。

5年やってみて気づいたのは、この「選んだ感覚」こそが長続きの土台になる、ということです。誰かに言われたからでも、数値が悪かったからでもなく、自分がそうしたいと思ったから。その感覚は、時間が経っても消えにくい。

弱点は、始めるまでのエネルギーが小さいこと

ただし選択型にも弱いところがあります。緊急性がないぶん、「まあ今日じゃなくてもいいか」と先送りになりやすい。切迫感がないと動けない人には、向き不向きもある型だと思います。また、まわりから見ると「なんでやめてるの?」と理解されにくいこともあって、説明に困る場面もあるかもしれません。

2つの型を「組み合わせる」のが、長続きのコツだった

追い込まれ型で「始め」、選択型で「続ける」

5年続けてみて、私が一番しっくりきているのは、「どちらか一方が正解」ではないという結論です。追い込まれ型のきっかけは、スタートの火種として使う。そして徐々に、動機の軸を「選択型」にずらしていく。この移行が自然にできると、長期継続がぐっとラクになります。

具体的には、最初のきっかけが怖さや焦りだったとしても、ノートに「最近こんなことが楽しくなった」「朝の目覚めがいい」「夕食の味がよくわかった」という小さな変化を書き留めていくんです。怖さを振り返るのではなく、得たものを積み上げていく。すると、動機が「逃げるため」から「ここにいたいから」に変わっていく感じがします。

ノートが「動機の移行」を助けてくれた

私が記録ノートを続けているのは、この動機の移行をモニタリングするためでもあります。日付と一緒に「今日の体感」「気分の波」「よかったこと」を3行だけ書く。特別なことじゃなくていい。「夕方の空がきれいだった」「コーヒーがおいしかった」でも十分。

振り返ってみると、ノートの初期のページは「飲んでいない」という事実の確認が多かったのですが、半年を過ぎたあたりから、飲んでいないことへの言及が減って、代わりに「今日こんなことが嬉しかった」という記述が増えていたんです。これが動機の移行が起きているサインだったんだなって、あとで読み返して気がつきました。

動機は「育てるもの」だと思うようになった

5年やってみて気づいたのは、断酒の動機は一度決めたら終わりじゃなくて、毎日少しずつ育て直すものだ、ということです。最初に火をつけてくれたきっかけは大切にしながらも、それだけに頼らない。「なぜ続けているのか」の答えが、月ごと、季節ごとに少し変わっていっていい。

追い込まれ型で始めた人も、選択型で始めた人も、どちらのスタートも正解だと思っています。大事なのは、その後に動機を「更新し続けること」。怖さが薄れてきたら、得たものを数える方向に切り替える。それがうまくできたとき、続けることが義務じゃなくて、ひとつの選択として自分の中に定着していくんだなって思うんです。

梅雨の蒸し暑い夜にノートを開くたびに、5年前の自分が書いた言葉と今の自分の言葉が並んでいる。その積み重なりが、私にとっていちばん確かな動機の源になっています。

「きっかけ」はひとつじゃなくていい。むしろ、時間とともに変わっていくのが自然なのかもしれない。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。体調や飲酒に関する具体的なご相談は、医師や専門家にご相談ください。