結論から言うと、英国の公務員527人を約30年追った研究では、飲酒量が多いほど脳の海馬が縮むリスクが高く、少量の飲酒が飲まない人より脳に有利だという結果は出ませんでした。10年以上ほぼ毎日ビールを2缶飲んでいた自分は、断酒して3年たった今、この研究を原典で読み直しています。量の段階別に、何が言えて何が言えないのかを整理します。

どんな研究なのか: 527人を30年追った観察研究

対象と方法

この研究は、英国の公務員を長期に追跡している「Whitehall II」という調査の参加者から、550人を無作為に選び、除外後の527人を主に分析したものです。1985年から2015年まで、飲酒量と認知機能を繰り返し調べ、最後に脳のMRI検査を行っています。論文はBMJに掲載された研究で、全文が読めます。

飲まない人との比較で見ている

比較の基準は、週に1ユニット未満しか飲まない人たちです。ここを基準にして、飲酒量が多い人たちの海馬の萎縮と認知機能の低下を比べています。海馬は記憶に関わる脳の部位で、萎縮は認知症のリスクと結びつけて語られることが多い所見です。

要点: 527人を30年追い、飲まない人を基準に量の段階別で比べた研究です。

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量の段階別に並べた結果

研究のなかで、海馬の萎縮について示された主な数字を並べます。オッズ比とは、基準の群と比べて、その所見が出る確率の比のことです。

週の飲酒量(英国のユニット)

海馬萎縮のオッズ比(基準:週1未満)

1ユニット未満(基準)

1.0

1以上7未満

飲まない人より有利にはならなかった

14〜21

3.4(右側の萎縮)

30超

5.8

図: 飲酒量の段階別に見た海馬萎縮のオッズ比(BMJ 2017の報告より)

少量なら守られる、とは言えなかった

軽い飲酒の群でも、飲まない群より脳が守られている結果は出ていません。少量の飲酒が認知症を防ぐという説を耳にしてきましたが、この研究に限れば、それを支持する結果ではありませんでした。

多いほど悪い、という並び方

一方、週14ユニットを超えるあたりから右側の海馬の萎縮が増え、30ユニットを超えると最も高い5.8倍でした。量が増えるほど悪くなる並びです。ただし、論文本文と要旨で、3.4という数字の対応する飲酒量の区分の書き方に食い違いがあり、細かい区分は原典で確認することをおすすめします。

要点: 少量でも有利にならず、量が増えるほど海馬萎縮のオッズ比は上がりました。

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この結果を読むときの限界

読み方のポイントをまとめます。

  • 観察研究なので、飲酒が原因だと断定はできない
  • 飲酒量は自己申告で、実際との差がありうる
  • 参加者は主に中流階級の男性で、結果は男性で目立った
  • 英国のユニットは日本の純アルコール量とは単位が違う

最後の点は、日本の読者にとって大事です。日本で量を測るときは、お酒の量(ml)×度数(%)÷100×0.8で純アルコール量を出します。この式は厚生労働省の飲酒量記録シートで確認できます。

要点: 因果は言えず、単位も違うので、数字をそのまま日本の量に当てはめないことが大切です。

自分のケースで考えると

自分は10年以上、ほぼ毎日ビール500mlを2缶飲んでいました。上の計算式で出すと、500ml×0.05×0.8で1缶20g、2缶で40gです。毎日なので、週に換算すると相当な量になります。研究の段階で言えば、いちばん上の群に近いのだろうと、数字を見て思いました。

断酒して3年たち、朝の頭の霧が晴れた感覚はあります。ただ、それが脳の回復なのか、睡眠が改善したためなのかは、自分の体感では区別できません。研究は、そこまで教えてはくれません。

要点: 体感の変化は励みになりますが、原因の特定には使えません。

飲む人と飲まない人、比較からの向き不向き

この研究の使い方を、立場別に整理しました。

  1. すでに飲んでいる人: 少量なら脳に良いという話を、安心材料にしない
  2. 減らしたい人: 量の段階が下がるほどオッズ比が下がる並びを、目標設定の参考にする
  3. 飲まない人: 脳のために飲み始める理由はないと受け取る

どの立場でも、結果を一つの研究だけで決めつけないことが大切です。

要点: 一つの研究を、行動を決める唯一の根拠にしないようにします。

よくある質問

海馬が縮むと、必ず認知症になりますか

なりません。海馬の萎縮はリスクと関連する所見のひとつで、診断とは別のものです。気になる場合は医療機関に相談してください。

女性にも当てはまりますか

この研究では、海馬の所見は男性で有意で、女性では有意ではありませんでした。ただし、女性の参加者が少ないことも影響している可能性があります。

断酒すると脳は元に戻りますか

この研究は、断酒後の回復を調べたものではないため、答えられません。別の研究を原典で確認する必要があります。

次に論文を読むときは、対象者、期間、単位の3つを先に確認してみてください。飲酒と認知症のリスクを扱った別の記事もあわせてどうぞ。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。