結論から言うと、お酒と認知機能の研究は、結果の数字より先に「誰を、どの量で、どのくらい追ったか」を確かめるだけで、見え方がずいぶん変わります。毎日ビール500mlを2缶飲んでいた自分は、健診でD判定が出てから、「頭への影響」も気になって原典を読むようになりました。ただ、ニュースの見出しだけを追っていると、「少量なら守られる」「いや、やはり害がある」と、結論が行ったり来たりして混乱したんです。

この記事では、自分が研究を読むときに確かめる5つの項目を、英国の追跡研究を例に整理します。個人の診断や治療の話ではなく、研究の読み方の話です。

例にする研究:英国で30年追った550人

Topiwala らの研究で分かったこと

まず取り上げるのは、英国のWhitehall II研究の参加者を30年追い、MRIで脳を調べたBMJの論文です。BMJの本文によると、550人の男女が参加し、ベースラインの平均年齢は43.0歳で、アルコール依存のスクリーニング(CAGE)に該当する人は含まれていませんでした。

結果として、週に30単位を超えて飲む人は、まったく飲まない人に比べて海馬の萎縮のオッズ比が5.8(95%信頼区間1.8〜18.6)でした。週14〜21単位でも、右側の海馬の萎縮のオッズ比は3.4(1.4〜8.1)です。軽い飲酒に、飲まない人より保護的な効果は見られませんでした。論文は、中程度の飲酒でも脳への悪い結果と関連したと結論づけています。

週14〜21単位(右側の海馬) = 3.4週30単位超 = 5.8基準は飲まない人(=1)。出典は本文中のBMJ論文

図: 飲まない人と比べた海馬萎縮のオッズ比(Topiwala ら、BMJ)

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5つのチェック項目

次の5つを、自分は順に確かめています。

  1. 誰を追ったのか。年齢、性別、依存の有無で、結果の意味が変わります。
  2. 量の単位は何か。英国の「単位」と、日本の純アルコール量(g)は同じではありません。
  3. 観察研究か、介入研究か。飲酒を「割り当てる」実験は現実的に難しく、多くは観察研究です。
  4. 「飲まない群」の中身は何か。昔飲んでいて、やめた人が混ざっていないかを見ます。
  5. 自分の飲み方に当てはめるとどうか。数字をそのまま当てはめず、医師や専門家に相談する材料にします。

チェック1・2:対象と単位を確かめる

先ほどの研究は、依存のスクリーニングに該当しない、比較的健康な勤労者の集団です。つまり、重い飲酒の人たちだけを集めた結果ではありません。それでも量が増えるほど脳の指標が悪化する方向だったのが、自分には重かったです。

単位については、英国の単位をそのまま日本の量にあてはめないよう注意しています。日本の目安は、厚生労働省の健康に配慮した飲酒に関するガイドラインが純アルコール量(g)で示しており、同じ文書には、飲酒量が一定量を超えると認知症の発症の可能性が高まると書かれています。

チェック3・4:観察研究と「飲まない群」の落とし穴

もう1つの大きな研究が、同じくWhitehall IIの参加者9,087人を平均23年追跡したSabia らの論文です。397人が認知症を発症し、中年期に飲まなかった人は、週1〜14単位の人に比べてハザード比が1.47(1.15〜1.89)でした。一方で、週14単位を超える人では、7単位増えるごとにリスクが17%高い(1.04〜1.32)という結果でした。

ここで「飲まないほうが危ない」と読むのは早計です。飲まない群には、健康上の理由でやめた人など、さまざまな人が混ざる可能性があります。観察研究の読み方では、この「飲まない群の中身」が、いちばん注意が必要な点だと自分は考えています。

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重度の飲酒は別の話:フランスの大規模データ

フランスで2008〜2013年に入院した約3,160万人の記録を分析した研究を、フランス国立保健医学研究機構(Inserm)の発表が紹介しています。原因が明らかな認知症を除いた65歳未満の発症では、57%にアルコールが関連していました。これは、重い飲酒の問題を抱える集団を対象にした話で、先ほどの勤労者の研究とは前提が違います。

自分はどう受け取ったか

自分は断酒3年になりますが、頭の状態が研究の数字どおりに変わったかは、わかりません。ただ、健診の数値に向き合い、飲まない生活を選んだことに、研究を読んだことも背中を押したのは確かです。研究は、自分の飲み方を考える材料であり、結論を決める道具ではありません。

よくある質問

少量なら脳に影響はないのでしょうか

Topiwala らの研究では、軽い飲酒に飲まない人より保護的な効果は見られませんでした。ただし、観察研究であり、個人の状態を示すものではありません。

飲まない人のほうが認知症になりやすいのですか

Sabia らの研究では、中年期に飲まない人でリスクが高い結果でしたが、飲まない群の中身(過去にやめた人など)の影響が考えられます。ここだけを切り取った解釈は避けてください。

毎日飲んでいた人は、いま何をすればいいですか

飲酒の量や頻度に不安があるときは、医師に相談してください。やめる・減らす場合も、長年飲んできた人は体に症状が出ることがあるため、自己流で進めないことが大切です。

今夜、気になる研究を1つ選んで、この5つのチェック項目に当てはめてみてください。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。飲酒や認知機能について不安がある方は、医師や専門家にご相談ください。