結論から言うと、「適量」をめぐって研究の結論が割れて見えるのは、各研究が少しずつ違う問いに答えているからです。「少量なら健康に良い」と「ゼロが最も安全」は、実は両立し得ます。自分は週4日飲まない日を作り、Apple Watchで飲んだ日の数値を記録しているデータ管理派ですが、数字は読み方を間違えると判断を誤ります。ここでは3つの大型研究を並べて、読むときの4つの確認項目をまとめます。

まず、3つの研究が何を調べたのかを並べます

最初に、3つの研究の中身を表で確認します。数字そのものより、「何を比べたか」に注目してください。

研究

対象

示したこと

JAMA Netw Open 2023

107件のコホート研究(約484万人)

少量では死亡リスクの有意な低下なし

Lancet 2018(Wood)

高所得国の飲酒者約60万人

死亡リスクが最も低いのは週100g前後

Lancet 2018(GBD 2016)

195の国と地域

健康損失を最小にする量はゼロ

図: 適量に関する3つの大型研究の比較(出典: PubMed 37000449、PubMed 29676281、PubMed 30146330)

1本目は、「少量の効果」を疑い直した分析です

2023年のメタ分析は、1980年から2021年7月までの107件のコホート研究、4,838,825人を対象にしました。元飲酒者を非飲酒者に混ぜるなどのバイアスを調整すると、1日24gまでの少量飲酒では、生涯非飲酒者と比べて死亡リスクの有意な低下は見られませんでした。一方で、1日45〜64gの群で相対リスク1.19、65g以上で1.35と、はっきり高くなっています。また、女性では全体として、生涯非飲酒者との比較でリスクが有意に高かったと報告されています(PubMed 37000449)。

要点: 少量の飲酒に死亡リスクの低下が見えにくくなったのは、比較対象の取り方を補正したためです。

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2本目と3本目は、同じ年に出た「別の問い」です

次に、2018年にLancetに載った2つの研究です。同じ雑誌、同じ年でも、問いが違います。

約60万人の追跡は、「飲む人の中での線引き」を探しました

Woodらの分析は、心血管疾患の既往がない現在の飲酒者599,912人を対象にしました。全死亡リスクが最も低かったのは週に約100g前後で、100gを超えると平均寿命が縮む方向に動いたと報告されています。脳卒中など、心筋梗塞以外の心血管疾患では、これ以下なら安全という明確な閾値は見られませんでした(PubMed 29676281)。

195か国の分析は、「ゼロとの比較」を行いました

もう1本は、世界195の国と地域を対象にした分析で、23の健康アウトカムのリスクをまとめたうえで、健康損失を最小にする摂取量は週にゼロ杯だったと結論づけています(PubMed 30146330)。ここでは、がんなど、少量でもリスクが上がる病気を含めて評価しています。

要点: 「飲む人の中の最小リスク」と「ゼロとの比較」は、別の問いです。

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適量論を読むときの4つの確認項目

自分が数字を見るときは、必ず次の4つを確かめています。

  1. 比較対象は誰か。生涯非飲酒者か、元飲酒者を含む非飲酒者か。
  2. 対象は誰か。年齢、性別、地域、病気の既往はどうか。
  3. 指標は何か。全死亡か、特定の病気か。
  4. 自分の暮らしに当てはまるか。研究の平均が、自分に当てはまるとは限らない。

1と2は、論文の「方法」を見ればわかります

比較対象に元飲酒者が混ざると、非飲酒者の健康状態が実際より悪く見え、少量飲酒が有利に見えてしまいます。これが、少量が健康に良いという古い結論が揺らいだ理由の一つです。

3と4は、自分で判断する部分です

全死亡率だけを見れば、週100g前後が最も低くても、がんなど特定の病気の指標は違う動きをします。そのうえで、女性は少ない量で影響が大きく出やすいことが、厚生労働省の資料にも書かれています(厚生労働省 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン)。

要点: 数字は、比較対象、対象者、指標の3つとセットで読みます。

数字を読むときに、自分がやりがちだった失敗

最後に、自分自身の失敗も書いておきます。以前の自分は、「少量なら体に良い」という見出しだけを覚えていて、元になった研究の比較対象まで確かめていませんでした。ログを取る習慣がついてからは、記事の数字を見つけたら、元の論文の要旨まで必ず開くようにしています。要旨には対象人数、比較対象、指標が必ず書いてあり、ここだけで読み違いの大半は防げます。

ログを取ると、自分の数字と研究の数字を並べられます

Apple Watchの睡眠のログと飲酒量を並べると、飲んだ日の翌朝の数値が低めになる傾向が、自分の場合は見えました。これは自分一人の記録で、統計的な裏付けはありません。ただ、研究の平均値と自分のログの両方を持っておくと、「平均はこうだが、自分はこう」と冷静に判断できます。

自分の記録に落とし込むと、こうなります

自分は、純アルコール量を1杯ごとにアプリへ記録しています。ビール500mlなら20gです(計算式は厚生労働省のガイドラインに載っています)。約60万人の追跡で死亡リスクが最も低かった週100g前後(PubMed 29676281)を一つの目安にすると、飲む日が週2日でも、1日2杯なら80gに収まります。ただし、これは研究の数字を機械的に当てはめた目安で、体質や持病、年齢で変わります。ゼロにする選択肢も、常に残しています。

よくある質問

結局、少量なら飲んでも大丈夫ですか?

「大丈夫」とも「だめ」とも断言できません。全死亡で見ると少量の差ははっきりせず、特定の病気では少量でもリスクが上がるものがあります。自分の健康状態に合わせて、かかりつけ医に相談するのが確実です。

週100gはビール何本ですか?

ビール500ml(5%)は純アルコール量で約20gなので、週100gは5本分に相当します(換算の式は厚生労働省のガイドラインによります)。これは研究の数字から換算した目安であって、推奨量ではありません。

女性はどう読めばいいですか?

2023年のメタ分析でも、女性は男性より低い量からリスクが上がり始める傾向が報告されています(PubMed 37000449)。同じ量でも影響が大きく出やすい点を前提に、より控えめに考えるのが安全です。

次に「適量」という言葉を見かけたら、比較対象と指標のどちらが書かれているかを探してみてください。それだけで、数字の読み方が変わります。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。