アルコール依存症の家族は、まず自分が休んでいいのです

結論から言うと、アルコール依存症の家族は、本人の回復より先に、自分自身の休息とケアを優先して構いません。本人が受診を拒んでいても、家族だけで先に相談できる窓口があります。「家族の対応次第で治る」わけでも、「家族のせいで悪くなる」わけでもありません。この記事は、疲れ切った家族に向けて、してはいけない対応と、先に頼れる相談先を整理したものです。

私は30代で、子どもが生まれたのをきっかけに、お酒を「選んで飲まない」スタイルになりました。自分や家族がアルコール依存症だった経験はありません。だからこそ、当事者の体験を語るのではなく、公的な資料や相談窓口の案内を読み込んで、家族の立場の人に届けたい情報をまとめました。

要点: 家族は自分の休息を優先してよいのです。本人が受診を拒んでも、家族だけで先に相談できます。

関連記事: 妊娠に気づかずお酒を飲んでいたとき、まず知ってほしいこと。分かっていること・分からないこと・相談の順番

ある夜の台所で、家族は何を抱えているのでしょうか

ここで描くのは、相談窓口の案内などを読んで私が想像した、よくある場面です。特定の誰かの話ではありません。

夜遅く、玄関の鍵が回る音がします。台所の灯りをつけたまま待っていた家族は、胸がざわつきます。酔って帰ってきた本人に「また飲んだの」と言いかけて、言葉をのみ込みます。翌朝には、本人の会社に「体調不良で休みます」と電話をかけます。散らかったものを黙って片付け、お酒を隠し、「もう飲まないで」と何度も頼みます。

どれも、家族が本人を思ってしてきたことです。けれど、その積み重ねで、家族のほうが眠れなくなり、気持ちが擦り減っていくことが少なくありません。大阪府の「こころの健康総合センター」のページにも、依存症は家族に大きな影響を与え、家族は混乱したり疲弊したりすることが多く、本人よりも家族が先に相談に来るケースが多いと書かれています(大阪府 こころの健康総合センター)。先に相談に来る家族は、決して珍しくないのです。

要点: 疲れ切るのは、家族が弱いからではありません。多くの家族が、本人より先に疲れて相談しています。

関連記事: 飲んだ翌朝の体は何を語るか。ログ好きが見る5つのサインと読み方

善意の対応が、飲酒を支えてしまうことがあります

イネイブリングと呼ばれる行動

家族がよかれと思ってしている行動が、結果的に本人が飲み続けられる環境をつくってしまうことがあり、これは「イネイブリング」と呼ばれます。栃木県の安足健康福祉センターの資料には、次のような例が挙げられています(安足健康福祉センター アルコール家族教室ミニ講座「本人と家族の心理」)。

  • お酒を捨てる、隠す、飲酒量を監視する
  • 酔っている本人を責めて、説教する
  • 飲み屋のツケなど、飲酒による借金を肩代わりする
  • 本人に代わって謝罪や弁償をする、会社に「風邪で休みます」と連絡する
  • 壊れた物を、本人が気づかないように片付ける
  • 実行しない脅し(「今度飲んだら離婚する」など)を繰り返す

同じ資料は、こうした行動が「飲める環境」をつくって病気を進行させる結果になりかねないと指摘し、嫌々お酒を与えるのはやめること、相手の責任まで背負い込むことはないと述べています。

自分を責めなくて大丈夫です

ここで大切なのは、これを「家族が悪い」と読まないことです。上の行動は、どれも家族が追い詰められた末の、自然な反応です。気づいた時点で少しずつ減らしていけば十分で、過去の対応を責める必要はありません。

要点: 尻ぬぐい・隠す・責め続けるは、善意でも飲酒を支えることがあります。責めずに、少しずつ手放します。

本人が受診を拒むとき、家族はどこに相談できますか

精神保健福祉センターと保健所

本人が「自分は依存症ではない」と受診を拒んでも、家族だけで相談できます。埼玉県のページでは、県立精神保健福祉センターが家族からの来所相談を受け付けており、依存症家族教室も開いていると案内されています。本人が問題を認めず治療を拒否すると、家族は「何をしても無駄だろう」と悲観的になりやすいが、回復のために家族ができることとして、依存症について学ぶこと、本人への適切な対応を身につけること、家族自身が元気を取り戻すことの3つが挙げられています(埼玉県 アルコール依存症の相談・治療)。お住まいの地域の精神保健福祉センターや保健所にも、同様の窓口があります。厚生労働省のアルコール健康障害対策推進基本計画の改正案でも、精神保健福祉センターと保健所が相談の拠点として挙げられ、当事者や家族を対象とした支援プログラムを実施・周知する取組が示されています(厚生労働省 アルコール健康障害対策推進基本計画の改正(新旧対照表))。

家族会・自助グループ

同じ埼玉県のページには、家族のための自助グループとして、アラノン家族グループなども紹介されています。同じ立場の人の話を聞くだけで、「自分だけではなかった」と気持ちが軽くなることがあります。

CRAFT(クラフト)という家族向けプログラム

CRAFTは、アメリカで開発された家族のためのプログラムで、正式名称は「コミュニティの強化と家族トレーニング」です。大阪府のページには、本人が相談の場に現れなくても行える家族への支援方法があると書かれています(大阪府 こころの健康総合センター)。また、榊原病院の「ご家族サポートのご案内」では、本人以外の家族のみを対象に、話し方の工夫を考えて練習し、家族の負担を減らすことをめざすと説明されています(榊原病院 ご家族サポートのご案内)。実施の有無や費用は機関ごとに違うので、まずは電話で問い合わせてみてください。

相談先

主な役割

本人の同席

精神保健福祉センター

家族の来所相談、依存症家族教室

不要(家族だけで可)

保健所

地域の相談の入口、窓口の案内

不要(家族だけで可)

家族会・自助グループ

同じ立場の人と話す、体験を聞く

不要

CRAFT(実施機関)

家族の関わり方を学び、練習する

家族のみ対象の場合あり

図: 家族だけで先に相談できる窓口の整理(出典は上記の各自治体・厚生労働省・医療機関の案内。実施の有無は機関ごとに異なります)

要点: 精神保健福祉センター・保健所・家族会・CRAFTなど、本人抜きで相談できる先があります。

家族自身の休息は、どう確保すればいいですか

家族のケアは、わがままではなく、回復を支える土台です。次のようなことから始めてみてください。

  1. 相談窓口に電話して、「家族だけで相談したい」と伝える
  2. 家族教室や家族会の日程を確認する
  3. 今日は本人のことを考えない時間を、15分だけ決める
  4. 眠れない日が続くときは、自分のための受診も考える

「離れるべきか、支え続けるべきか」という問いには、一つの正解はありません。状況によって答えが変わるので、窓口で専門家と一緒に考えてください。暴力や命の危険を感じたときは、相談より先に、警察や救急に連絡してください。

診断基準や、受診後の流れが気になる方は、こちらの記事も参考にしてください(アルコール依存症の診断基準と、ネットのチェックで分かる範囲、アルコール依存症の治療は断酒だけではない)。

要点: 家族の休息は回復の土台です。「離れる・支える」は一人で決めず、窓口で相談します。

よくある質問

本人が「病気ではない」と言って受診しません。家族だけで相談してもいいのですか

相談できます。精神保健福祉センターなどでは、家族からの相談を受け付けています。本人を連れてくることが条件ではありません。

お酒を隠したり捨てたりするのは、いけないことですか

資料では、お酒を捨てる・隠す・飲酒量を監視することが、イネイブリングの例として挙げられています。やってしまったことを責める必要はありません。今後の対応は、窓口で状況に合わせて相談してください。

家族が頑張れば、本人は治りますか

家族の対応だけで病気が治るとは言えません。家族ができることは、依存症について学ぶこと、適切な接し方を身につけること、自分自身が元気を取り戻すことです。責任を一人で背負い込まないでください。

相談するとき、何を伝えればいいですか

いつ頃から、どんな場面で困っているか、家族として何をしてきたか、いま一番つらいことを、メモにして持っていくと伝わりやすくなります。うまくまとまらなくても、そのまま話して大丈夫です。

今日できる小さな一歩として、お住まいの地域の「精神保健福祉センター」を検索して、相談の受付時間だけでも確かめてみてください。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。個別の状況は、精神保健福祉センター・保健所・医療機関などの専門家にご相談ください。