診断基準は6項目。チェックテストは診断ではありません
結論から書きます。アルコール依存症の診断には、WHOが作成したICD-10の基準が主に用いられ、6項目のうち過去1年間に3項目以上が同時に1か月以上続いたか、繰り返し出現した場合に診断されます(新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き)。一方、ネット上でよく見かけるチェックテストの多くはAUDITなどのスクリーニングで、こちらは「疑いがあるかどうか」を拾い上げるための道具です。点数が出ても、それは診断ではありません。
自分は30代で、Apple Watchとアプリで飲酒量のログをずっと取ってきました。数値で測るのが好きなので、この種のチェックテストも一通り試したことがあります。そのうえで言うと、点数を見て安心することにも、落ち込むことにも、あまり意味がないというのが率直な感想です。点数が担当している仕事と、診断が担当している仕事が違うからです。
リスクを高める飲酒約1000万人診断基準に該当経験107万人治療を受けている約5万人107万人の多くが過去1年間に何らかの理由で医療機関を受診しているにもかかわらず、その多くが見逃されていると手引きは指摘しています。出典: 日本アルコール・アディクション医学会ほか「アルコール依存症の診断治療の手引き」第1版
図: 推計人数の差。診断基準に該当した経験のある人と、治療につながっている人の間には大きな開きがあります。
数字が示しているのは「届いていない」という事実です
学会の手引きによれば、日本で生活習慣病のリスクを高める飲酒(1日平均で男性40g以上、女性20g以上)をする人は約1000万人、これまでにICD-10の診断基準に該当したことのある人は107万人と推計されています。一方、厚生労働省の患者調査でアルコール依存症の治療を受けている患者数は約5万人にとどまり、その多くが見逃されていると指摘されています(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
107万人と5万人の差は、20倍以上です。この差を埋めるために作られたのが、スクリーニングから診断へという2段階の流れなのだと自分は理解しています。
要点: 診断はICD-10の6項目で、過去1年間に3項目以上という条件があります。チェックテストは疑いを拾う道具で、診断とは別です。
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ICD-10の6項目を、1つずつ見ていきます
学会の手引きは、6項目それぞれについて具体的な症状や事象の例を挙げています。抽象的な言葉だけだと当てはめにくいので、例も併せて見ていきます。
1から3:欲求、コントロール、離脱
1つめは渇望で、飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感です。例として、隠れてでも飲んでしまう、お酒が手元にないと不安、お酒のためなら面倒くさがらずに出かける、仕事中でも酒のことばかり考えている、といった状態が挙げられています。
2つめは飲酒行動のコントロールで、飲酒の開始・終了・量の調節を制御することが困難な状態です。例として、いつも泥酔するまで飲んでしまう、飲まない日と決めても飲んでしまう、飲み始めたら止まらない、前もって決めていた量以上に飲んでしまうことがしばしばある、が挙げられています。
3つめは離脱症状で、断酒や節酒による離脱症状の出現、またはその回復や軽減のために飲酒することです。例として、頭痛、イライラ、吐き気、手のふるえ、食欲がない、寝汗、微熱、不眠、脈が速くなる、迎え酒をする、が挙げられています(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
4から6:耐性、生活の中心、それでも続ける
4つめは耐性の増大で、当初得られた酩酊効果を得るために飲酒量が増加することです。手引きはここに具体的な目安を添えており、飲酒量が純アルコール量で男性60g超、女性40g超で、かつ習慣的に飲酒するようになってから飲酒量が50%以上増加している場合を挙げています。
5つめは飲酒中心の生活で、飲酒のために本来の生活を犠牲にする、飲酒に関係した行為やアルコールの影響からの回復に費やす時間が増加する状態です。一日中飲んでいる、酔いからさめるのに多くの時間を使っている、趣味などの活動よりお酒を優先させる、といった例が並んでいます。
6つめは有害な使用に対する抑制の喪失で、心身に問題が生じているにもかかわらず飲酒を続けることです。医師から止められているのに飲んでしまう、健康診断で指摘されているのに飲んでしまう、が例として挙げられています(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
この6項目が並ぶ順番にも意味があります。e-ヘルスネットは、習慣的に飲酒しているとまず耐性が形成され、次に精神依存という「酒が欲しくなる」症状が現れ、長年続けているとしまいには身体依存が出現して、酒を止めたり減らしたりしたときに離脱症状が出るようになる、というプロセスを説明しています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。6項目は、この進行のどこかに現れる兆候を並べたものと読むと理解しやすくなります。
条件のほうが重要です
6項目を読むと、1つか2つは思い当たる人が多いと思います。自分も4つめの耐性については、20代と比べて飲める量が増えた時期がありました。
ただし診断の条件は、3項目以上が「同時に」「1か月以上続いたか、繰り返し出現した」ことであり、対象期間は過去1年間です(アルコール依存症の診断治療の手引き)。項目の数だけでなく、同時性と持続性が問われます。チェックリストを眺めて丸をつけるだけでは、この条件までは判定できません。
要点: 6項目は渇望・コントロール・離脱・耐性・飲酒中心・有害使用です。3項目以上が同時に1か月以上、過去1年以内という条件がつきます。
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チェックテストが担当しているのは別の仕事です
では、ネットで見かけるチェックテストは何をしているのか。ここを整理します。
AUDITは10項目のスクリーニングです
久里浜医療センターの解説によれば、AUDITはWHOによって開発された問題飲酒者のスクリーニングテストで、多くの国で飲酒問題の早期発見・早期介入のツールとして使われ、日本でも20年以上前に翻訳されて医療や保健指導の現場で活用されています。全部で10項目の設問から成り、各項目の合計点(最大40点)で飲酒問題の程度を評価します(久里浜医療センター AUDIT)。
同ページの判定は、0〜7点が今のまま上手に付き合う、8〜14点は飲酒問題が将来的に起きたり既に生じている可能性があるため量を減らす、15点以上はアルコール依存症の疑いがあるため精神保健福祉センターや依存症専門医療機関に相談する、となっています。
注目したいのは、15点以上でも「疑い」であり、書かれているのが「相談してみましょう」という行動であることです。点数が診断名を与えることはありません。
AUDIT-Cは3項目の簡易版です
さらに短い版もあります。学会の手引きによれば、AUDIT-Cは3つの項目からなるアルコール問題を拾い上げる簡便なテストで、企業や地域の保健指導の際にも広く使用されています。3つの質問の回答選択肢番号を合計し、男性で5点以上、女性で4点以上であればアルコール依存症を疑うとされています(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
そして同手引きは、AUDIT-Cで依存症が疑われる場合はICD-10の依存症候群の診断基準を用いて評価する、と明記しています。スクリーニングで拾い、診断基準で評価するという2段構えが、ここではっきり示されています。
ドリンクという単位が使われています
細かい点ですが、AUDITは純アルコール換算で10gを1ドリンクとする単位を使っています(久里浜医療センター AUDIT)。設問2や設問3の「6ドリンク以上」は純アルコール60g以上を指します。
自分はこの単位を知ってから、アプリの記録をグラムに統一しました。杯数で記録していた頃は、店や飲み物が変わるたびに比較できなくなっていたからです。
要点: AUDITは10項目・最大40点のスクリーニングで、15点以上でも「疑い」です。疑いが出たらICD-10で評価するという流れになっています。
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自己チェックの3つの落とし穴
ログを取り続けてきた立場から、自分が実際にはまった、あるいは危なかった点を挙げます。
- 点数が低いことを免罪符にしてしまう。 AUDITは過去1年間の飲酒行動を尋ねる設問が中心です。直近の期間だけ控えていれば点数は下がります。自分も健診前だけ飲酒量を落としていた時期があり、その状態で答えた点数には意味がありませんでした。
- 項目の数だけを数えてしまう。 前述のとおりICD-10の条件は、3項目以上が同時に1か月以上続いたか繰り返し出現したことです(アルコール依存症の診断治療の手引き)。当てはまる項目を数えるだけでは、この時間の条件は判定できません。
- 点数が高く出たときに、調べるだけで終わってしまう。 これがいちばん多いパターンだと思います。107万人と5万人という推計の差は、まさにここで生まれています。
記録が役に立つのは、点数ではなく経過です
自分がアプリで飲酒量のログを取っていていちばん役に立ったのは、点数ではなく経過でした。何月に増えたか、どの曜日に増えるか、減らそうと決めた週にどうなったかが、後から見返せます。
ICD-10の条件が「同時に1か月以上続いたか、繰り返し出現した」という時間の話である以上、受診したときに持っていける情報としても、この経過の記録のほうが有用なはずです。点数は1枚のスナップショットですが、記録は動画のようなものです。
要点: 自己チェックの点数は条件までは判定できません。役立つのは点数より、期間を通した記録です。
診断がついた先には、2つの治療目標があります
診断の話をするなら、その先に何があるのかも知っておいたほうがよいと思います。ここを知らないと、受診のハードルが不必要に高くなります。
断酒だけが選択肢ではなくなりました
学会の手引きによれば、アルコール依存症の治療目標は継続した断酒が最も安定かつ完全な目標であるとしつつ、軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースでは飲酒量低減が治療目標になりうるとされています。飲酒量低減の目安は、理想的には男性で1日平均40g以下、女性で平均20g以下です(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
同手引きは、断酒を治療目標とすることに抵抗感を持つ患者が多かったことが治療のギャップの原因のひとつと考えられる、とも述べています。つまり「受診したら必ず一生やめろと言われる」という前提そのものが、現在の指針とはずれています。
断酒を選ぶべきケースは明示されています
一方で、断酒を目標とすべき患者も具体的に挙げられています。入院による治療が必要な患者、飲酒に伴って生じる問題が重篤で社会・家庭生活が困難な患者、臓器障害が重篤で飲酒により生命に危機があるような患者、そして現在、緊急の治療を要するアルコール離脱症状(幻覚、けいれん、振戦など)のある患者です(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
離脱症状の項目に幻覚やけいれんが並んでいることからも、これが自己判断で扱う領域ではないことが分かります。
治療の主体は薬ではありません
同手引きは、アルコール依存症の治療の主体は断酒でも飲酒量低減でも心理社会的治療であり、薬物治療は補助的な役割を担うとしています。認知行動療法、動機付け面接法、集団精神療法、家族療法などが挙げられています(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
要点: 治療目標は断酒と飲酒量低減の2つがあります。軽症で合併症がない場合は後者も選択肢になります。
相談先と、受診の前に用意しておくとよいもの
最後に、実務的な話をまとめます。
相談先は医療機関だけではありません
久里浜医療センターの判定文は、15点以上の場合に精神保健福祉センターや依存症専門医療機関に相談することを挙げています(久里浜医療センター AUDIT)。精神保健福祉センターは各都道府県に設置されている公的な相談窓口で、本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。
また、学会の手引きは専門医療機関のリストについて、依存症対策全国センターのサイトに掲載されていると案内しています(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
持っていくとよいもの
自分が用意するならこうする、という順番で挙げます。
- 直近3か月から1年の飲酒の記録。日付と、できれば純アルコールのグラム数。アプリでも手帳でも構いません。
- 健診の結果。γ-GTPやASTなどの推移が分かると、経過の裏づけになります。
- 気になっている出来事のメモ。前夜の記憶が飛んだ、決めた量を超えた、手が震えた、といった具体的な事実です。
- 家族や周囲から言われたことがあれば、その内容。ICD-10の6項目にも有害な結果に関する項目があります。
点数が低くても気になるなら相談してよいはずです
最後にこれだけは書いておきたいのですが、チェックテストの点数が低かったとしても、自分の飲み方が気になっているなら相談してよいと思います。前述のとおり、AUDITは期間の切り取り方で点数が変わりますし、そもそも15点以上という区分点は「疑い」を拾うための線であって、それ未満なら問題がないという意味ではありません。
e-ヘルスネットも、どこからがアルコール依存症で、どこまでが普通の酒飲みかという線引きははっきり出来るものではないとしたうえで、アルコールに依存性がある以上、飲酒をしている人は誰でも依存症の回路がゆっくりと脳の中で作られていくと述べています。さらに、依存が作られている途中では自分では気付かないとも書かれています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。自分で気づけないことが前提なら、外から見てもらう価値は十分にあります。
自分はいま週に4日は飲まない日を置いて、飲む日も記録を取るようにしています。ここに落ち着くまでに数年かかりましたが、きっかけは点数ではなく、ログを見返して「この月だけ明らかに多い」と気づいたことでした。
要点: 相談先には精神保健福祉センターも含まれます。点数より、記録と具体的な出来事を持っていくほうが役に立ちます。
よくある質問
アルコール依存症の診断基準は何項目ありますか
主に用いられるICD-10では6項目です。渇望、飲酒行動のコントロール困難、離脱症状、耐性の増大、飲酒中心の生活、有害な使用に対する抑制の喪失の6つで、過去1年間に3項目以上が同時に1か月以上続いたか、繰り返し出現した場合に診断されます(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
ネットのチェックテストで診断はできますか
できません。AUDITなどはスクリーニングテストで、問題飲酒者を拾い上げるための道具です。久里浜医療センターの判定でも、15点以上は「アルコール依存症の疑いがあります」という表現にとどまり、相談をすすめる形になっています(久里浜医療センター AUDIT)。診断は医師が行います。
AUDITは何点から注意が必要ですか
久里浜医療センターの判定では、8〜14点で飲酒問題が将来的に起きたり既に生じている可能性があるとして量を減らすことをすすめ、15点以上で依存症の疑いがあるとして相談をすすめています(久里浜医療センター AUDIT)。なお同ページは、区分点は集団の特性や目的に応じて決めることができるとも述べています。
診断されたら必ずお酒をやめることになりますか
必ずしもそうではありません。学会の手引きは、軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースでは飲酒量低減が治療目標になりうるとしています。ただし入院治療が必要な場合や、緊急の治療を要する離脱症状がある場合などは断酒を目標とすべき患者として挙げられています(アルコール依存症の診断治療の手引き)。
どこに相談すればよいですか
精神保健福祉センターや依存症専門医療機関が相談先として挙げられています(久里浜医療センター AUDIT)。専門医療機関のリストは依存症対策全国センターのサイトに掲載されていると学会の手引きが案内しています。家族からの相談を受け付けている窓口もあります。
もし自分の飲み方が気になってこの記事にたどり着いたのなら、点数を出す前に、直近1か月の飲んだ日と量をカレンダーに書き出してみてください。診断基準が見ているのは一点の数字ではなく、続いた時間のほうです。書き出したもの自体が、相談するときの材料になります。
※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。診断および治療に関する判断は、必ず医療機関にご相談ください。

