アセトアルデヒドの発がん性、結論から言うと何が起きている?

結論から言うと、アセトアルデヒドはDNAに直接ダメージを与えます。二本鎖の切断や染色体の組み換えを起こすことが、幹細胞を使った実験で確かめられています。しかもこの物質だけが犯人ではなく、エタノール本体にも別の経路があるというのが、いま整理されている姿です。

自分は飲酒量をアプリで記録していて、週4日は飲まない日にしています。数字で管理すると、自分が何に対してどれだけ曝露しているのかを考えるようになります。アセトアルデヒドという名前は二日酔いの原因としてよく登場しますが、発がん性の文脈で出てくるときに、その仕組みまで説明している日本語の記事は意外と少ないと感じていました。今回は経路を分解して、どこまでがわかっていて、どこからが推測なのかを分けて書きます。

この記事で追う2つの経路

  • アセトアルデヒド経路:エタノールが分解されてできる物質が、DNAを直接傷つける経路
  • エタノール経路:アルコールそのものが、DNAのメチル化やビタミンAの代謝に干渉する経路

この2つは別々に働くので、「分解が速ければ安全」とも「体質が強ければ関係ない」とも言えません。そこを丁寧に見ていきます。

分類の上でも、両方が名指しされています

国際がん研究機関(IARC)の分類一覧では、アルコール飲料の摂取と、アルコール飲料の摂取に伴うアセトアルデヒドが、それぞれ別の項目としてヒトに対する発がん性がある区分に載っています(IARC Monographs 分類一覧)。中間物質が単独で評価されているのは、分解が追いつかない体質の人でリスクが明確に上がるという疫学の蓄積があるためです。この記事の後半では、その体質の話まで降りていきます。

要点: アセトアルデヒドはDNAを直接傷つけ、エタノール本体にも別の経路がある。犯人は1人ではありません。

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そもそもアセトアルデヒドとは何で、どこで生まれる?

まず代謝の経路を確認します。ここが土台になります。

エタノールから酢酸までの2段階

厚生労働省の飲酒ガイドラインは、肝臓でアルコールがアセトアルデヒドに分解され、さらに酢酸へと分解されると説明しています(健康に配慮した飲酒に関するガイドライン)。酢酸はその後、筋肉や心臓へ移動してさらに分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。つまりアセトアルデヒドは、入口でも出口でもなく、途中に現れる中間物質です。

中間物質が反応性を持っているという問題

厄介なのは、この中間物質が周りの分子と結びつきやすい性質を持っていることです。分解が追いつかず体内に滞留する時間が長くなるほど、細胞の中のタンパク質やDNAと接触する機会が増えます。分解酵素の働きは遺伝子によって決まるため、同じ量を飲んでも人によって滞留の仕方が変わります(e-ヘルスネット アルコールの吸収と分解)。

エタノール→アセトアルデヒド→酢酸↑ここが反応性の高い中間物質分解酵素の働きが弱い体質では、中央にとどまる時間が長くなる出典: 厚生労働省の飲酒ガイドライン(本文にリンク)

図: アルコールの代謝経路。中間にあるアセトアルデヒドが反応性を持つ

体の外から入ってくる分もあります

アセトアルデヒドは体内で作られるだけでなく、口の中の細菌によってもエタノールから作られることが知られています。また、食品や飲料にも微量に含まれます。ただし発がん性の議論で焦点になっているのは、飲酒によって生じる分です。国際的な分類でも「アルコール飲料の摂取に伴うアセトアルデヒド」という限定つきの評価が行われています。

要点: アセトアルデヒドはエタノールと酢酸のあいだに現れる中間物質で、反応性が高く、体質によって滞留時間が変わります。

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なぜアセトアルデヒドがDNAを傷つけるのか?

ここが本題です。仕組みを追いかけます。

幹細胞のゲノムを直接調べた研究

2018年にNatureに掲載された研究が、この問いに具体的な答えを出しています(Nature 2018;553(7687):171-177)。研究チームは、アセトアルデヒドによるDNA損傷の特徴と変異のパターンを調べ、この損傷がDNAの二本鎖切断を引き起こすことを示しました。切断は組み換え修復を促す一方で、染色体の再配列も生じさせます。

さらに、造血幹細胞を1個ずつ移植して全ゲノムを解析する手法によって、この損傷が幹細胞の中で起きていることが確認されました。生じたのは欠失や再配列で、修復経路の特徴が変異のパターンに残っていたと報告されています。幹細胞は体の細胞を作り続ける元になる細胞なので、そこに変異が残ることの意味は大きいと考えられます。

修復は働く、しかし常に元通りとは限らない

同じ研究では、損傷を受けた幹細胞に対してp53という仕組みが働き、変異が次の世代の細胞へ受け渡されるのを制限していることも示されています。つまり体には防御のしくみがあります。ただし、修復の過程で配列が失われたり、つなぎ間違いが起きたりすることが、変異として残る形になります。防御があるから大丈夫、という話ではなく、防御が働いた上でなお痕跡が残るという理解が近いです。

曝露が繰り返されるとどうなるか

1回の飲酒でどれだけの損傷が生じるのかを、人の体で測る方法は確立していません。ここは自分が調べていていちばんもどかしかった部分です。ただ、損傷のしくみが量に依存するのであれば、曝露の総量と回数が多いほど確率が上がると考えるのが自然です。実際、飲酒量とがんリスクの関係は量が増えるほど高くなる形で報告されています。

要点: アセトアルデヒドはDNAの二本鎖切断と染色体の再配列を起こし、幹細胞に変異として残ることが示されています。

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エタノールそのものにも発がん性があるって本当?

ここが今回いちばん伝えたい部分です。アセトアルデヒドだけの話にすると、半分を取りこぼします。

国際的な分類では両方が名指しされています

国際がん研究機関(IARC)の分類一覧では、アルコール飲料の摂取と、アルコール飲料の摂取に伴うアセトアルデヒドの両方が、ヒトに対して発がん性がある区分に分類されています(IARC Monographs 分類一覧)。中間物質だけでなく、飲むという行為そのものが別枠で評価されている点が重要です。

エタノール側の経路は、DNAの読み方に干渉する

エタノール自身がどう働くのかについては、がん研究のレビューが整理しています(Nat Rev Cancer 2007;7(8):599-612)。このレビューは、世界のがんのおよそ3.6%が慢性的な飲酒に由来すると述べたうえで、エタノールがDNAのメチル化を阻害すること、そしてレチノイド(ビタミンA関連物質)の代謝に干渉することによって発がんを促進しうると説明しています。

DNAのメチル化は、遺伝子のどこを読んでどこを読まないかを決める調節のしくみです。配列そのものを壊すアセトアルデヒドとは、傷つけ方の種類が違います。片方が設計図の紙を破るなら、もう片方は付箋を貼り替えるようなイメージで自分は理解しました。

だから体質が強い人にも関係があります

顔が赤くならない体質の人は、アセトアルデヒドの滞留時間が比較的短いと考えられます。しかしエタノール経路はそれとは別に働くため、体質が強ければ関係ないという結論にはなりません。同じレビューも、飲酒による発がんは喫煙や食事、併存疾患といった他の要因と相互に作用し、遺伝的な感受性にも左右されると述べています。

要点: IARCの分類はアルコール飲料とアセトアルデヒドの両方を挙げており、エタノール自身にも別の経路があります。

日本人に関係が深いと言われるのはなぜ?

日本語でこのテーマを読む意味が、いちばん出てくる部分です。

フラッシング反応を起こす人が日本では41%程度

厚生労働省の飲酒ガイドラインは、東アジアでは分解酵素の働きが弱くフラッシング反応を起こす人が一定数おり、日本では41%程度いるとされていると記載しています(健康に配慮した飲酒に関するガイドライン)。フラッシング反応とは、飲酒によって顔が赤くなったり、動悸や吐き気がしたりする状態のことです。同じガイドラインは、そうした人が長年飲酒して不快にならずに飲めるようになった場合でも、口の中のがんや食道がんのリスクが非常に高くなるというデータがあると注意を促しています。

弱い体質で常習的に飲むと何が起きるか

厚生労働省の別の資料は、より具体的な数字を挙げています。分解酵素の働きが遺伝的に弱く、ビールコップ1杯程度で顔が赤くなる体質の人が、純エタノール換算で46g以上を常習的に飲酒すると、発がんリスクが著しく高くなると報告されています(e-ヘルスネット アルコールの消化管への影響)。46gは度数5%のビールなら1150mL、500mL缶で2.3本にあたります。

飲めるようになった、は安全になったではありません

自分がこの調べもので考え方を変えたのはここでした。若い頃は1杯で赤くなっていたのに、今は平気で飲める。これを体が強くなったと解釈していましたが、ガイドラインの書き方はその逆で、慣れたあとも注意が必要だという立場です。飲めるようになったことと、体内での処理が速くなったことは別の話でした。飲酒と発がん部位の関係はお酒の発がん性、部位はどこか——WHO認定7か所を自分のログと照らした夜にも整理しています。

要点: 日本ではフラッシング反応を起こす人が41%程度とされ、その体質で常習的に飲む場合のリスクが公的資料で名指しされています。

量を減らすと、この経路はどう変わる?

では自分たちに何ができるのか。ここからは実行の話です。

曝露量という考え方に置き換える

発がんの経路が量に依存するなら、管理すべき変数は「飲んだ回数」ではなく「体が処理したエタノールの総量」です。自分は週単位の純アルコール量を記録していて、量(ml)×度数(%)÷100×0.8で計算しています(e-ヘルスネット 飲酒量の単位)。この式で出した数字を週合計で見ると、体感とのズレがはっきり出ます。

自分のログで効いた順番

  • 飲む日の杯数に上限を決める。自分は2杯で、これが週合計への効きがいちばん大きい変数でした
  • 度数の高いものを飲む日を限定する。同じ杯数でも総量が倍近く変わります
  • 飲まない日を固定する。自分は週4日で、曜日を固定したことで判断の回数が減りました
  • 記録は飲んだ日だけでなく、飲まなかった日も0gとして入力する。週合計が正しく出ます

数字にしないと、意思決定の材料にならない

アプリでも手書きでも構いませんが、数字にしておくと判断が早くなります。今週はもう合計が多いから今夜はやめておく、という決め方ができるようになります。記録の道具選びはスマートウォッチ派 vs ノート派、飲酒を記録するなら結局どちらが向いているかで比較しました。

自分の場合、記録を始めて最初に驚いたのは、自己申告と実測のずれでした。感覚では週に3回くらいの飲酒だと思っていたのに、入力してみると5回ありました。1回あたりの量も、家で注ぐグラスは店の一杯より多いことが多く、合計は想像の1.5倍ほどになっていました。経路の知識をいくら集めても、自分の曝露量を知らなければ判断材料になりません。逆に言えば、数字さえ出ていれば、難しい機序を暗記していなくても飲み方は調整できます。曝露量の把握の手順は飲酒とがん——自分の「曝露量」を5つのステップで把握するにも整理されています。

要点: 管理する変数は回数ではなく週合計の純アルコール量。数字にすると判断が早くなります。

ここは断定できない、という部分

最後に、この記事で踏み込まなかった線を書いておきます。

1杯あたりの損傷量は測れません

先ほどのDNA損傷の研究は、幹細胞のゲノムを直接調べた精密な実験です。ただし、日常の飲酒で何杯飲んだらどれだけ損傷が蓄積するのか、という換算はできません。実験の条件と日常の飲酒は別物なので、数字を当てはめるのは不適切です。

安全とされる量は示されていません

リスクがゼロになる量を示した研究は見当たりません。一方で、量が増えるほどリスクが上がるという関係は複数の研究で報告されています。したがって現実的な目標は、ゼロにすることではなく総量を下げることになります。厚生労働省のガイドラインも、体質や年齢、健康状態によって影響が大きく変わることを前提に、自分の状況に合わせて考えるよう促しています。

不安がある場合は自己判断で終わらせないでください

飲酒とがんの話は、調べるほど不安になる領域でもあります。気になる症状がある場合や、健診結果に指摘がある場合は、記事を読んで納得するより医療機関で相談するほうが早いです。特にフラッシング反応がある体質の方は、自分の飲み方について一度専門家に相談しておく価値があると思います。

要点: 1杯あたりの損傷量も、安全な量も示されていません。総量を下げることだけが確かな手立てです。

よくある質問

アセトアルデヒドはなぜ発がん性を持つのですか

DNAに直接ダメージを与えるためです。2018年のNature誌に掲載された研究では、アセトアルデヒドがDNAの二本鎖切断を引き起こし、染色体の再配列を生じさせること、そしてこの損傷が造血幹細胞の中で起きて欠失や再配列として残ることが示されています。防御のしくみは働きますが、修復の過程で変異が残る形になります。

二日酔いにならない人は、発がんリスクも低いのですか

低いとは言い切れません。アセトアルデヒドの滞留時間が短い体質であっても、エタノール本体による経路は別に働きます。国際的な分類でも、アルコール飲料の摂取そのものと、摂取に伴うアセトアルデヒドの両方が発がん性のある区分に挙げられています。体質は要因のひとつであって、唯一の要因ではありません。

顔が赤くなる体質は、どのくらい気をつければいいですか

厚生労働省の資料は、分解酵素の働きが弱く少量で顔が赤くなる体質の人が純エタノール換算で46g以上を常習的に飲むと、発がんリスクが著しく高くなると報告しています(e-ヘルスネット アルコールの消化管への影響)。46gは度数5%のビールで1150mLにあたります。慣れて飲めるようになった場合でも注意が必要だという立場が取られています。

アセトアルデヒドを早く分解するサプリメントは効果がありますか

飲酒による発がんリスクを下げることを示した根拠は確認できませんでした。二日酔いの自覚症状と、細胞レベルで起きる損傷は別の話です。症状が軽くなることでかえって飲む量が増えるのであれば、総量という観点では逆方向に働きます。

どのくらいまで減らせば安全ですか

リスクがゼロになる量を示した研究は見当たりません。一方で量が増えるほどリスクが上がる関係は複数報告されているため、現実的な目標は総量を下げることになります。まずは週合計の純アルコール量を出して、先週より下げる形で進めるのが取り組みやすいと思います。

まずは今週飲んだ量を、量(ml)×度数(%)÷100×0.8の式で合計してみてください(e-ヘルスネット 飲酒量の単位)。経路の話は難しくても、管理すべき数字はひとつだけです。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。