断酒にメリットしかない、とは言えません

結論から書きます。断酒には確かな利点がありますが、「メリットしかない」という言い方は事実に反します。たとえば断酒した人の睡眠について、アルコール依存の267人を6か月追った研究では、もともと不眠のあった人のうち60%以上で不眠が持続し、断酒した人でも4人に1人で不眠が残っていました(Am J Addict. 2011;20(5):435-40. PMID: 21838842)。よく眠れるようになることは断酒の代表的な利点として語られますが、全員に等しく訪れるわけではないんです。

自分は40代の男で、10年以上ほぼ毎日ビール500mlを2缶飲んでいました。健診でD判定が出たのをきっかけに酒をやめ、いま3年目です。やめてよかったと思っています。それでも「メリットしかない」という言葉には引っかかりを覚えます。実際にはやめた直後がいちばんしんどかったし、失ったものもあったからです。

この記事では、先にデメリットを4つ並べます。そのうえで利点を数値で並べます。順番を逆にしないのは、順番こそがこのテーマの本質だと考えているからです。

開始時に不眠あり47%(267人中)うち6か月後も持続60%超断酒しても残存約25%アルコール依存の患者267人を6か月追跡した縦断研究。断酒は睡眠の改善を予測したが、全員が改善したわけではない。出典: Am J Addict. 2011;20(5):435-40 (PMID: 21838842)

図: 断酒しても不眠が残る人は一定割合います。睡眠の改善は断酒の確実な見返りではありません。

「メリットしかない」という言葉が生まれる理由

検索するとこの表現がよく出てきます。書いている人に悪気はないのだと思います。やめた本人にとっては、体感として本当に良いことばかりだったのでしょう。自分もそう書きたくなる時期がありました。

ただ、この表現には副作用があります。やめてみて苦しかった人が、「自分のやり方が悪いのか」と考えてしまうからです。実際には、苦しさが出るのは想定内のことです。

要点: 断酒後も不眠が残る人は4人に1人いるという報告があります。利点は確かにありますが、全員に一律ではありません。

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デメリットその1:急にやめると危険な場合があります

いちばん先に書かなければならないのはこれです。健康の話ではなく、安全の話だからです。

離脱症状という仕組み

e-ヘルスネットは、習慣的な飲酒が耐性、精神依存、身体依存の順に進むことを説明しています。身体依存とは酒が切れると身体の症状が出ることで、酒を止めたり減らしたりしたときに離脱症状が出現するようになります。代表的な離脱症状として不眠・発汗・手のふるえ・血圧の上昇・不安・いらいら感が挙げられ、重症の場合は幻覚が見えたり、けいれん発作を起こしたりすることもあると記載されています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。

けいれん発作という言葉が出てくる以上、これは自己判断だけで進めてよい領域ではありません。

線引きは自分では分かりません

同じページには、どこからがアルコール依存症で、どこまでが普通の酒飲みかという線引きははっきり出来るものではない、と書かれています。さらに、アルコール依存症はゆっくりと進行していくため、依存が作られている途中では自分では気付かないとも述べられています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。

つまり「自分は依存症ではないから大丈夫」という判断そのものが、当てにならない可能性があるということです。毎日の飲酒量が多かった人、朝から飲むことがあった人、過去に手の震えを感じたことがある人は、やめる前に医療機関に相談してください。これは記事の体裁上の注意書きではなく、実務的に必要な手順だと思っています。

自分の場合はこうでした

自分がやめたとき、最初の数日は寝つけず、夜中に何度も目が覚めました。汗もかきました。幸い重い症状は出ませんでしたが、当時は何が起きているのか分からず不安でした。いま振り返ると、事前に相談しておけばよかったと思います。

要点: 身体依存がある状態で急にやめると、重症の場合はけいれん発作が起きることもあります。不安があれば先に受診します。

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デメリットその2:睡眠がすぐには良くならないことがあります

冒頭でも触れましたが、ここは期待と現実のずれが大きいところなので、もう少し詳しく書きます。

4人に1人で不眠が残っていました

アルコール依存と診断された267人(69%が男性、平均年齢44歳)を対象に、開始時と6か月後に面接した縦断研究があります。開始時点で47%が不眠に分類され、断酒も節酒も不眠症状の減少を予測しましたが、開始時に不眠があった人のうち60%以上で不眠が持続しました。そして断酒したにもかかわらず不眠が残った人が4分の1いました(Am J Addict. 2011;20(5):435-40. PMID: 21838842)。

この研究の結論は、大量飲酒への再発を防ぐ治療が不眠に対する良い第一選択の治療になるが、一部の人には不眠そのものに対する評価と治療が別途必要になる、というものです。やめれば眠れる、という単純な話ではないわけです。

やめた直後がいちばん眠れません

自分の体感でも、最初の1週間から2週間がいちばん眠れませんでした。寝酒を10年以上続けていたので、酒なしで眠る手順を体が忘れていたのだと思います。2か月ほどで落ち着きましたが、その間は「やめないほうが眠れたのでは」と何度も考えました。

ここで再び飲んでしまう人が多いのは、よく分かります。眠れないことは、それ自体が十分につらいからです。

要点: 断酒後も不眠が残る人がいます。眠れない時期を「失敗」と受け取らないことが、続けるうえで効きます。

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デメリットその3:人付き合いの形が変わります

数値では測りにくいところですが、実際に効いてくるのはむしろこちらかもしれません。

場が減るのではなく、場での役割が変わります

自分の場合、飲み会に呼ばれなくなったということはありませんでした。変わったのは、その場での自分の立ち位置です。一次会の途中から周りの話が同じところを回り始め、自分だけ素面で聞いている時間が生まれました。

これを「時間が浮いた」と感じるか「取り残された」と感じるかは、日によって違います。最初の半年はだいたい後者でした。3年経ったいまは、二次会に行かずに帰る判断が自然にできるようになりましたが、そこまでに時間はかかりました。

説明する手間が地味に負担です

なぜ飲まないのかを聞かれる場面は、想像より多いです。健康上の理由だと言えば大抵は納得してもらえますが、毎回説明するのは面倒です。自分は「健診に引っかかったので」という一文に固定して、それ以上は説明しないことにしました。文言を決めておくと、この負担はかなり減ります。

厄介なのは、相手に悪気がまったくないことです。勧めてくる人の多くは、場を楽しくしようとしてくれているだけです。だからこちらも角を立てずに返したいのですが、その気遣いが毎回発生します。3年経って分かったのは、こちらが淡々としていると、相手も次からは聞かなくなるということでした。最初の数回を乗り切れば、その場は落ち着きます。

家族との距離は近づく場合が多いようです

一方で、良くなる関係もあります。e-ヘルスネットは、飲酒が続くと家族との関係も悪化していき、妻・夫・子供の信用を失い、関係がギクシャクし、その結果さらにストレスをためて酒に逃げるようになると説明しています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。この流れが止まるという意味では、家庭内の関係はむしろ改善の方向に動きます。

自分の場合も、平日の夜に子どもの話をきちんと聞けるようになったのは、酒をやめてからでした。外の付き合いで減ったものと、家の中で戻ったもの。両方あるというのが実感です。

要点: 人間関係が壊れるわけではありませんが、場での役割と説明の手間は確実に増えます。

デメリットその4:期待した変化が来ないことがあります

これは利点の裏返しでもあるので、次章の前振りとして書いておきます。

体重が減らない人はいます

断酒すると痩せる、という話をよく見かけます。後述する研究でも体重は減っていますが、その減少幅は1.5%でした(BMJ Open. 2018;8(5):e020673. PMID: 29730627)。体重70kgの人なら1kg程度です。劇的な変化を期待していると肩透かしを食らいます。

さらに、酒をやめた分だけ甘いものや食事量が増える人もいます。自分も最初の半年はアイスの消費量がかなり増えました。飲まなくなったことと、摂取エネルギーが減ることは別の話です。

数値が動くまでに時間がかかります

肝臓に関しては、e-ヘルスネットが「沈黙の臓器」という表現を使い、よほどのことがない限り音を上げない臓器だと説明しています(e-ヘルスネット アルコールと肝臓病)。悪くなるときも静かですが、良くなるときも静かです。1週間やめて採血しても、期待した数字は出ないことがあります。

要点: 体重減少は数%程度、検査値の改善には時間がかかります。期待値を合わせておくと落胆が減ります。

ここから利点を数えます。まず1か月で測られた変化

デメリットを4つ置いたうえで、利点に移ります。ここは体感ではなく、測定された数字で並べます。

1か月の断酒で何が変わったか

週64g(男性)または48g(女性)を超えて飲んでいる健康な人を対象に、1か月断酒する群94人と飲み続ける群47人を比べた前向き観察研究があります。断酒群の開始時の飲酒量は週258.2gでした。1か月後、断酒群ではインスリン抵抗性の指標であるHOMAスコアが25.9%低下し、収縮期血圧が6.6%、拡張期血圧が6.3%、体重が1.5%低下しました。さらにがん関連の増殖因子であるVEGFが41.8%、EGFが73.9%低下しています。これらの変化は食事・運動・喫煙の変化とは関連していませんでした。飲み続けた群では、いずれの指標にも有意な変化は見られませんでした(BMJ Open. 2018;8(5):e020673. PMID: 29730627)。

1か月という短い期間で、これだけの指標が同時に動いたという点が重要だと思います。ただし観察研究であり、対象は肝疾患やアルコール依存のない人に限られていることも押さえておく必要があります。

肝臓に関しては年単位の話があります

より長い時間軸では、e-ヘルスネットがアルコール性肝障害は禁酒により再生へ向かい、禁酒1年につき肝臓がんのリスクは6〜7%低下すると記載しています(e-ヘルスネット アルコールと肝臓病)。同ページはまた、飲酒が原因の脂肪肝は飲酒をやめれば短期間で改善するのが特徴だとも述べています。

1年で6〜7%という数字は地味に見えるかもしれませんが、やめ続けるかぎり毎年積み上がるという意味でもあります。

依存の回路から降りられます

利点のうち最も語られにくいのがこれです。e-ヘルスネットは、飲酒をしていれば誰もが依存症になる可能性があると明言しています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。やめるということは、その進行を止めるということです。

自分にとって、3年続けて最も価値があったのはここでした。健診の数字も改善しましたが、それ以上に「飲む量を自分で決められない状態」から降りられたことのほうが大きかったんです。

要点: 1か月でインスリン抵抗性や血圧が動き、年単位では肝臓のリスクが下がります。加えて依存の進行が止まります。

両方を見たうえで、どう決めるか

デメリットと利点を並べたところで、実際の判断に落とします。

  • 毎日の飲酒量が多い、朝から飲むことがある、過去に手の震えや発汗を経験したことがある。このいずれかに当てはまるなら、やめる前に医療機関に相談します。自己判断での急な断酒は避けます。
  • 眠れない時期が来ることを先に想定に入れます。数週間で落ち着かない場合は、不眠そのものを相談する選択肢があります。
  • 変化を測る項目を先に決めておきます。体重だけを見ると数%しか動かず、やめた意味を見失います。血圧や検査値、飲酒に使っていた時間なども一緒に並べます。
  • 飲まない理由を説明する一文を用意しておきます。毎回考えるより、決め打ちのほうが負担が軽くなります。
  • 「メリットしかない」という前提で始めないことです。つらい時期が来たときに、自分のやり方を疑わずに済みます。

断酒でなくてもよい場合があります

念のため書いておくと、選択肢は断酒だけではありません。飲む量や頻度を減らすという方向もあります。前述の睡眠の研究でも、断酒だけでなく節酒も不眠症状の減少を予測していました(Am J Addict. 2011;20(5):435-40. PMID: 21838842)。どちらを選ぶかは、依存の程度や生活の事情によって変わります。

要点: 判断の前に安全の確認をします。測る項目を先に決め、つらい時期を想定に入れておきます。

よくある質問

断酒にデメリットはないのですか

あります。身体依存がある場合、断酒により不眠・発汗・手のふるえ・血圧の上昇などの離脱症状が出現し、重症の場合は幻覚やけいれん発作が起きることもあるとe-ヘルスネットは記載しています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。加えて、断酒しても不眠が残る人が4分の1いたという報告もあります(Am J Addict. 2011;20(5):435-40. PMID: 21838842)。

断酒すると必ず眠れるようになりますか

なりません。アルコール依存の267人を追った研究では、開始時に不眠があった人のうち60%以上で不眠が持続し、断酒した人でも4分の1に不眠が残りました(Am J Addict. 2011;20(5):435-40. PMID: 21838842)。断酒は睡眠の改善を予測する要因ではありますが、確約ではありません。

1か月やめたらどのくらい変わりますか

週258g程度飲んでいた人が1か月断酒した観察研究では、HOMAスコアが25.9%、収縮期血圧が6.6%、体重が1.5%低下しました(BMJ Open. 2018;8(5):e020673. PMID: 29730627)。体重で言えば数%であり、劇的な減量を期待する対象ではありません。

自分で急にやめても大丈夫ですか

飲酒量や依存の程度によります。e-ヘルスネットは、どこからがアルコール依存症かという線引きははっきり出来るものではなく、依存が作られている途中では自分では気付かないと説明しています(e-ヘルスネット アルコールと依存)。不安がある場合は、やめる前に医療機関に相談してください。

断酒と節酒はどちらがよいですか

目的と状況によります。飲酒のコントロールが難しくなっている場合は、専門の医療機関で評価を受けることが先です。e-ヘルスネットは、医師から減酒や断酒を勧められても困難な場合、アルコール問題の専門医を早めに受診することを推奨しています(e-ヘルスネット アルコールと肝臓病)。

もし今夜やめてみようと思っているなら、まず何を測るかを1つだけ決めてみてください。体重でも、寝つくまでの時間でも構いません。「メリットしかない」を信じて始めるより、自分で決めた1項目を見ていくほうが、3か月後も続いている確率は高いと自分は思っています。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。断酒の開始や離脱症状については、必ず医療機関にご相談ください。