アルコールは免疫の働きを弱める。ただし、わかっているのは「飲みすぎ」の話です
結論から書きます。アルコールの多量摂取は、感染から体を守る仕組みの働きを弱め、肺炎などにかかりやすくすると、医学の総説論文で説明されています(Trevejo-Nunezら 2015年、PubMed)。一方で、少量の飲酒が風邪のひきやすさにどう影響するかまでは、私が確認した資料からは言い切れませんでした。
「免疫力」という言葉は、医学用語としては厳密に定義されたものではありません。この記事では「ウイルスや細菌などから体を守る仕組みの働き」という意味で使います。断酒5年の40代女性として、冬を前にこの話を調べ直し、確認できたことだけを整理しました。
先に注意点を書きます。紹介する知見の多くは、重い飲酒習慣のある患者さんや、動物を使った実験にもとづいています。「飲むと必ず風邪をひく」「やめれば風邪をひかなくなる」といった話ではありません。体調に不安がある方は、医療機関に相談してください。
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免疫と飲酒の関係を、2つの角度から比べます
飲酒の影響は、「一度に大量に飲む」場合と「長い期間飲み続ける」場合で、起きることが違います。総説論文もこの2つを分けて説明していたので、私もこの比較で整理します。
一度の大量飲酒で起きること
論文には、健康な成人が大量に飲酒した後、1時間で血液中の細菌のDNAが増え、エンドトキシン(細菌の成分で、体に炎症を起こす物質)が飲酒の30分後から3時間にわたって高い値で続いた、という報告が紹介されています(同総説)。急に酔いつぶれるような飲み方では、腸から細菌の成分が体内に入りやすくなる、と読み取れます。
また、急性中毒状態のげっ歯類(ネズミの仲間)では、肺炎を起こす菌に感染したときに、好中球(菌と戦う白血球の一種)が肺に集まる動きが抑えられた、という実験結果も載っています。ヒトで同じことが起きると証明されたわけではありません。
長い期間の飲酒で起きること
長期の過剰な飲酒では、腸のバリア機能が落ちること(腸管透過性の亢進)や、肺の中のマクロファージ(異物を食べて処理する細胞)の働きが落ちることが報告されています(同総説)。肺の中の亜鉛が少なくなることも、ヒトで報告されたと書かれています。
別の総説でも、過度の飲酒が気道の防御バリアの働きを妨げ、口やのどの内容物を誤って吸い込みやすくし、栄養状態や肝臓の病気も絡んで、肺の感染症にかかりやすくすると説明されています(Current Drug Abuse Reviews 2008年、PubMed)。
一度の大量飲酒(急性)長い期間の飲酒(慢性)血中の細菌DNAが1時間後に増加エンドトキシンが30分後〜3時間高値動物実験で好中球の肺への集まりが低下腸のバリア機能が低下肺のマクロファージの働きが低下肺の感染症にかかりやすくなる出典: Trevejo-Nunezら 2015(PubMed 26695743)、PubMed 19630706動物実験の知見を含みます
図: 急性と慢性で報告されていること(総説論文の記述にもとづく整理。動物実験を含む)
要点: 一度の大量飲酒と長年の習慣では、影響の出方が違います。どちらも「飲みすぎ」の話です。
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総説論文で確認できた5つの事実
ここからは、2015年の総説で確認できた記述のうち、日常生活に引き寄せて理解しやすい5つを挙げます。すべて同じ論文(PubMed 26695743)の記述で、重い飲酒習慣のある人が主な対象です。
- 重い飲酒歴のある患者は、入院率、在院日数、死亡率、集中治療室に入る割合が高いとされています。
- アルコール使用障害のある患者は、肺炎や敗血症にかかるリスクが高いとされています。肺炎が肺の広い範囲に及びやすく、発熱が続き、画像所見の改善が遅れるという記述もあります。
- 飲酒をする人は、傷口の感染が多く、傷が閉じるのが遅れる傾向があるとされています。黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)などへの感染リスクが上がるとも書かれています。
- 手術を受けるとき、飲酒歴が重い人は術後の合併症が多くなると報告されています。
- 長期の飲酒で、ナチュラルキラー細胞(ウイルスに感染した細胞などを見つけて攻撃する免疫細胞)の数や分布が変わることが報告され、サイトメガロウイルスなどのウイルス感染への感受性との関連が示唆されています。
この5つをどう読むか
5つとも、「軽く飲む人」を調べた結果ではありません。論文自体も臨床医向けの総説で、機序の多くは動物モデルの知見だと断っておく必要があります。それでも、「飲みすぎが続くと、感染や傷の治りに影響しうる」という大きな方向は、複数の資料で一致していると私は受け止めています。
わかっていないこと
少量・適度な飲酒が、風邪のかかりやすさにどう影響するのか。これは今回確認した資料からは言い切れませんでした。「少し飲むなら免疫が上がる」という話も、根拠を確認できなかったので書きません。
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「どのくらいから気になるか」の目安を、厚労省の資料で見ます
免疫の面での「安全な量」は、確認できた資料にありませんでした。そこで、量の目安として厚生労働省のガイドラインを見ます。
純アルコール量(g)は「摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8」で計算でき、500ml・5%のビールが20gの例とされています。生活習慣病のリスクを高める量として、男性は1日40g以上、女性は1日20g以上が示されています(厚労省 飲酒ガイドライン(PDF))。
この数字は生活習慣病についての目安で、免疫や風邪のかかりやすさの基準ではありません。ただ、「毎日の量を数字で知る」入口としては役に立ちます。私は断酒していますが、ノートに書く習慣は、量を数えていた頃から続けています。
肺炎のかかりやすさを、4つの要因に分けて見ます
「飲むと肺炎になりやすい」と聞いても、なぜそうなるのかがわからないと、ぴんときません。2008年の総説の要旨では、アルコール乱用のある患者で肺の感染症が起きやすくなる要因として、次のような点が挙げられています(PubMed 19630706)。
気道の防御バリアの働きが落ちる
のどから肺へ続く道には、ほこりや菌を外へ押し出す仕組みがあります。過度の飲酒でこの防御がうまく働かなくなると、菌が奥まで入りやすくなる、という説明です。
口やのどの内容物を誤って吸い込みやすくなる
要旨には、口とのどの内容物の誤嚥(ごえん:食べ物や唾液を気管へ吸い込むこと)が要因に挙がっています。
栄養状態や肝臓の病気が絡む
要旨には、栄養障害や肝疾患も要因として書かれています。食べたものが体を守る材料になるので、その材料が不足しやすくなる、という意味だと私は受け止めています。
体を守る仕組みそのものが働きにくくなる
最後に、宿主防御機構(体が持つ防御の仕組み)そのものの障害です。この要旨は、飲酒がこれらを悪くする経路を整理し、飲酒している患者さんの防御力を高める免疫調節の戦略にも触れています。つまり、原因は1つではなく、複数が重なって起きる、というのが論文の見立てです。
傷の治りと手術の話も、見ておきます
2015年の総説には、感染症だけでなく、傷の治りについても整理されています(PubMed 26695743)。
培養細胞と動物の実験から
培養したヒトの線維芽細胞(傷の修復に関わる細胞)にエタノールをさらした実験では、できたばかりの傷の破断強度(引っぱったときの強さ)が下がったと紹介されています。また、マウスに4週間、慢性的に飲酒させた後で、皮膚の表皮にあるランゲルハンス細胞(皮膚の免疫を担う細胞)が30〜50%減ったという報告もあります。どちらも、人間の生活でそのまま起きると言える結果ではありません。
手術を受けるときは
ヒトを対象とした記述としては、飲酒歴が重い患者さんは、手術後の合併症が多くなると報告されている、という点が挙げられます。手術の予定がある方は、飲酒の習慣を正直に医師へ伝えることが大切です。
要点: 飲みすぎは、肺、腸、皮膚、傷の治りなど、複数の場所に影響しうると報告されています。
日常でできる飲み方の工夫を、ガイドラインで確認します
厚労省のガイドラインには、飲酒の影響を和らげるための工夫も書かれています。免疫に特化した対策ではないので、その点は割り引いて読んでください。
- 飲む前や飲んでいる間に食事をとると、血中のアルコール濃度が上がりにくくなり、酔いにくくなる。
- 飲酒の合間に水や炭酸水を飲むと、アルコールの吸収をゆっくりにできる。
- 毎日飲み続けるような継続した飲酒を避ける。
- 飲酒中や飲酒後に、運動や入浴など体に負担のかかる行動を避ける。
- 服薬後の飲酒は、薬の効果が弱まったり副作用が出たりすることがあるので、主治医に確認する。
出典はいずれも同じガイドライン(厚労省 飲酒ガイドライン(PDF))です。
冬を前に、私がやっていること
ここからは、根拠が弱い「私の習慣」です。効果を保証するものではないので、参考程度に読んでください。
- 寝る前の過ごし方を決めています。厚労省の睡眠のリーフレットには、寝酒は睡眠の質を下げると書かれています(厚労省 睡眠リーフレット)。私はお酒を飲まないので、代わりに温かい飲み物を用意します。
- 手洗いやうがい、人混みでの対策は、お酒の有無に関係なく続けます。
- 体調が悪いときは、無理せず早めに休みます。ノートに、体調と気分を3行だけ書いています。
- 熱が続く、息苦しいなど気になる症状があるときは、自己判断せず受診します。
5年やってみて気づいたのは、お酒をやめたから風邪をひかなくなった、とは言えない、ということです。ただ、夜の時間が落ち着いて、早く寝られる日が増えたのは確かです。それが体調に良い方向に働いている気はしますが、これは私ひとりの体験です。
飲んでいる人が、冬を前にできる現実的な選択肢
断酒を勧めるのが目的ではありません。飲む場合の選択肢を、比べて整理します。
量を決めて、数字で数える
ガイドラインの式で、飲む量を純アルコール量にして記録します。1日20gを一つの目安にできます。
一度に大量に飲まない
先に紹介した急性の報告は、大量に飲んだ後の話でした。飲み会で一気に飲むより、ゆっくり、食事とともに、水や炭酸水を挟みながら飲むほうが、体への負担は小さいと考えられます。
体調が悪い日は飲まない
発熱や強いだるさがある日は、飲まずに休む。これは資料から断定できる話ではありませんが、体調が悪いときに飲酒をしない判断は、多くの人にとって合理的だと思っています。
私のノートに残っている、冬の体調のこと
記録ノートを振り返ると、冬の入り口は、疲れがたまりやすい時期として何度も出てきます。仕事が忙しい週は、夜更かしが増えて、朝のだるさを書く日が続きます。そういう週は、早めに寝る、温かいものを食べる、予定を減らす、と決めて過ごしています。
飲んでいた頃の私は、疲れた日ほど「今日は飲んで寝よう」と考えていました。今は、疲れた日ほど早く寝る、に変わりました。お酒を断ったことと、風邪をひく回数の関係を数字で示すことは、私にはできません。けれど、体調が悪い日の選択肢が増えたことは、5年で得た大きなものだと感じています。
これを読んでいるあなたが、いま体調に不安があるなら、ノートでも、スマホのメモでも構いません。まず3日分、体調と飲んだ量を書いてみてください。パターンが見えると、冬の過ごし方を決めやすくなります。
よくある質問
少しの飲酒でも免疫力は下がりますか。
今回確認した資料は、主に重い飲酒習慣のある人を対象としており、少量の飲酒の影響は言い切れませんでした。
お酒をやめると、免疫力は元に戻りますか。
確認できた資料では、断酒後の回復の程度まではわかりませんでした。気になる場合は医師に相談してください。
風邪をひいたときにお酒を飲んでもいいですか。
薬を服用している場合は、飲酒してよいか主治医に確認する必要がある、とガイドラインに書かれています。体調が悪いときは休むのが基本です。
冬に気をつけることは。
寝酒を避ける、量を数える、体調が悪い日は飲まない、の3つは、取り入れやすい選択肢です。
冬が来る前に、まず今夜の飲む量を純アルコール量に直して、ノートに書いてみてください。数字にするだけで、自分の飲み方が見えてきます。
※本記事は一般情報であり、医療的助言ではありません。

