結論:少量の酒が体にいいと言い切れる根拠は、補正すると弱くなります

結論から言うと、少量の酒は体にいいという話を「完全な嘘」とまでは言えませんが、「確かな事実」とも言えません。飲む人のほうが長生きして見えるデータは確かにありますが、比べる相手である「飲まない人」の中に、病気で飲めなくなった人が混ざっていると、少量飲酒が実際より有利に見えてしまいます。この偏りを補正した大規模な分析では、少量飲酒の有利さはほとんど消えました。

リョウです。自分は40代で、10年以上ほぼ毎日ビール500mlを2缶飲んでいました。健診でD判定が出たあと断酒を始め、いまは3年になります。正直に言うと、飲んでいた頃の自分は、「少しなら体にいいらしい」という話を、飲み続ける理由にしていました。だからこそ、その話の原典に当たり直したいと思い、この記事を書いています。

この記事は、検索語そのものである「嘘なのか」に答える入口です。研究デザインの細かい話は、すでに公開している関連記事に譲り、ここでは結論に必要な部分だけを確認します。

補正の段階

少量飲酒の死亡リスク(非飲酒者を1とした相対リスク)

補正前

0.86

共変量を補正した後

0.89

年齢・性別・喫煙・研究の欠点などを補正した後

0.97(95%信頼区間0.88〜1.07)

図: 少量飲酒者の全死亡リスクが補正で変わる様子(出典: Stockwell氏らによる2016年の系統的レビューとメタ分析。87研究・3,998,626人。数値はボストン大学のAODHealthによる解説に基づく)

この図は、2016年に発表された系統的レビューの結果です。補正前は0.86と、少量飲酒者のほうが死亡リスクが低く見えます。ところが、年齢、性別、喫煙、飲酒量の測り方、研究の偏り、体調の悪い参加者の扱い、追跡期間などを補正すると0.97になり、95%信頼区間は0.88〜1.07と、1をまたぎます。つまり「差がある」とは言えない結果です。原著はPubMed Centralで公開されています。

要点: 補正前は0.86でも、偏りを補正すると0.97に。少量飲酒の有利さは、確かな事実とは言えません。

関連記事: アルコールと認知症のリスク、研究はまだ割れています。少量は予防的という説を原典で確かめました

そもそも何が「体にいい」と言われてきたのか

少量飲酒の話は「飲む人は長生きして見える」データから始まりました

少量の酒が体にいいという話は、飲酒量と死亡リスクを調べた多くの研究で、「まったく飲まない人」より「少し飲む人」のほうが死亡リスクが低く出てきたことが出発点です。グラフにすると、少量のところでリスクが下がり、多量でまた上がる形になります。

この形は、多くの人に「少しならいい」という印象を与えました。ただ、研究は「少量飲酒が原因でリスクが下がった」と示したのではなく、「少量飲酒の人は、飲まない人より死亡リスクが低く見えた」と示しただけです。この違いが、このあとの話の中心になります。

比べる相手の「飲まない人」に何が混ざっているか

では、なぜ「飲まない人」が不利に見えるのでしょうか。理由のひとつが、飲まない人の中に、もともと飲んでいたが病気や体調不良をきっかけにやめた人が含まれていることです。体調を崩したあとにやめた人は、そもそも死亡リスクが高い傾向があります。その人たちが「飲まない人」の側に入ると、飲まない人全体のリスクが上がって見え、相対的に少量飲酒者が有利に見えてしまいます。

2016年の分析は、この種の偏りを含む研究の欠点を補正した結果、少量飲酒の有利さが0.97まで近づいたことを示しました。

国立がん研究センターの資料からも、同じ構図が読み取れます

国立がん研究センターの資料には、日本人を対象にした飲酒と死亡リスクの研究が一覧にまとめられています。その表には、少量飲酒で死亡リスクが低く出る値と、過去に飲酒していた人(元飲酒者)で死亡リスクが高く出る値が、どちらも並んでいます。資料はこちらで確認できます(国立がん研究センター 飲酒と死亡の研究一覧)。

表の数値と研究の対応は崩れていて確定できないため、この記事では個別の数値は引用しません。ただ、元飲酒者のリスクが高く出ている値があるという事実は、比べる相手に誰を選ぶかで結果が変わることを示していると、自分は読みました。

要点: 「飲まない人」に元飲酒者が混ざると、少量飲酒が実際より有利に見えます。

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2023年の分析は、さらに大きな規模で確かめました

107のコホート研究、480万人超の結果

2023年には、Zhao氏らが107のコホート研究、480万人を超える参加者を対象にした分析を、JAMA Network Openに発表しています(DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2023.6185)。

飲酒量(1日あたりのエタノール)

生涯非飲酒者と比べた全死亡リスク

25g未満

有意な低下は見られない

女性で25g以上

有意に上昇

男性で45g以上

有意に上昇

図: 飲酒量別の全死亡リスク(出典: Zhao氏らの2023年のメタ分析。107コホート研究・480万人超。要約はアイルランド保健研究局の抄録ページに基づく)

この分析では、1日25g未満(カナダの標準ドリンクで約2杯分)の少量飲酒者は、生涯にわたって飲まない人と比べて、全死亡リスクの有意な低下は見られませんでした。これは、年齢中央値や性別などの研究の特徴を補正しても変わりませんでした。さらに、女性で1日25g以上、男性で45g以上になると、死亡リスクが有意に上がっていました。

2016年と2023年の結論が重なっていること

規模も年も違う二つの分析が、似た結論に行きついています。ひとつの研究だけなら「たまたま」と言えますが、複数の大規模分析が同じ方向を示していることは、軽く見られません。

とはいえ、これは「少量なら安全」でも「少量でも危険」でもありません。「少量だから体にいいとは、確かには言えない」というのが、いまのところ誠実な読み方だと自分は考えています。

要点: 2016年と2023年の二つの大規模分析は、少量飲酒に確かな有利さは見えないという点で重なります。

関連記事: 血圧とアルコールの関係を2つのメタ分析で読む。飲酒量を減らすと何mmHg下がるのか

「少量」とは何gなのか、日本のガイドラインで確認する

純アルコール量の計算式をそろえます

少量という言葉は曖昧なので、純アルコール量で確認します。厚生労働省の飲酒ガイドラインには、純アルコール量(g)=摂取量(ml)×アルコール濃度(度数/100)×0.8という式と、ビール500ml(5%)が20gという例が載っています(厚生労働省ガイドライン4ページ)。

この式で見ると、2023年の分析で「少量」とされた1日25g未満は、ビール500ml(20g)なら1本の範囲です。自分が飲んでいた2缶は40gで、少量の枠を大きく超えていました。

日本のガイドラインが示す、リスクを高める量

同じガイドラインには、生活習慣病のリスクを高める量として、1日あたりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上という目安があります(5ページ)。また、大腸がんについては、1日あたり20g程度(週150g)以上の飲酒で発症の可能性が上がるとする研究が紹介されています(4ページ)。

つまり、日本のガイドラインは、少量でも種類によっては体への影響があることを前提に、量を決めています。「少量なら体にいい」という前提には立っていません。

要点: 少量とは、純アルコール量でビール500ml1本程度以下。日本のガイドラインも「いい」とは言っていません。

ニュースや広告で「少量の酒は体にいい」を見たときの確認項目

この手の話を目にしたとき、自分は次の4つを確認するようにしています。

  1. 比べている相手は誰か(生涯の非飲酒者か、元飲酒者を含む「飲まない人」か)
  2. 研究の偏りを補正しているか(年齢、性別、喫煙、体調不良の人の扱いなど)
  3. 「少量」は何gなのか(純アルコール量に直すと、どのくらいか)
  4. 結論は「原因」か「関連」か(観察研究は、関連を示すだけで原因を証明しない)

4つを当てはめてみる

たとえば「赤ワインは体にいい」という見出しを見たとき、この4つを順に当てはめると、元の研究のどこが弱いかが見えてきます。結論が断定的であるほど、4つの確認項目に答えていないことが多いというのが、自分の実感です。

「いい面」を探すより、飲む量の決め方を考える

自分は、「いい面があるか」を探すより、「自分は何gまでなら納得できるか」を先に決めるほうが役に立つと考えています。飲むかどうかは、体への影響だけでなく、楽しみや付き合いの要素も含めた自分の選択です。その選択のために、数字を正確に知っておくことが大切です。

要点: 比べる相手、補正、量、因果と関連。この4つを確認すれば、見出しに振り回されにくくなります。

観察研究は「関連」までしか示せない、という限界

飲む人と飲まない人は、もともと別の集団です

少量飲酒の研究の多くは、人を飲酒量で分けて追跡する観察研究です。この方法では、飲酒量以外の違いが結果に混ざります。たとえば、少量を楽しめる人は、仕事や人付き合い、運動の習慣、経済的な余裕など、体にいい影響を持つほかの要素を併せ持っているかもしれません。

飲酒そのものの効果なのか、飲める生活の余裕の効果なのかを、観察研究だけで切り分けるのは簡単ではありません。研究者が年齢、性別、喫煙などを補正するのは、この混ざりを減らすためです。ただし、補正できるのは測れた項目だけです。

だから「補正後に差が消えた」ことに意味があります

2016年の分析が、研究の欠点を補正したあとに相対リスクを0.97まで近づけたことは、「少量飲酒の有利さの一部は、研究の作り方が生んだ見かけだった」可能性を示します。もちろん、補正しきれていない要素が残っている可能性も、反対方向に残っています。

自分は、この不確かさを認めたうえで、「確かな根拠がないものを、飲み続ける理由にはしない」と決めています。

要点: 観察研究は関連までしか示せません。補正で差が消えたことは、見かけの有利さだった可能性を示します。

自分の場合:「少しなら体にいい」を理由にしていた頃のこと

飲んでいた頃の自分は、会社の飲み会で「少しは体にいいらしいよ」と言われると、救われた気持ちになっていました。実際の自分は、毎日500mlを2缶ですから、「少し」ではありません。それでも、この言葉があると、自分の習慣を肯定できるように感じていたのです。

健診でD判定が出たとき、最初に思ったのは「少しは体にいいはずなのに」でした。そこで初めて、その話の根拠を調べました。調べるほど、その話は「少量」の範囲の話で、自分の量には当てはまらないと分かりました。

断酒して3年たったいまは、「少量なら体にいい」という話を、飲み続ける理由には使えないと考えています。ただし、これは自分の経験です。飲む量を決めて付き合っている人を否定する意図はありません。

要点: 「少しならいい」は、自分の量が「少し」のときだけの話です。当時の自分には当てはまっていませんでした。

例外と注意:この記事の結論が当てはまらない部分

研究は集団の平均の話です

ここまでの結論は、集団を平均した結果です。個人の体質、病気、服用中の薬によって、飲酒の影響は変わります。飲むかどうかの判断は、必要に応じて医師に相談してください。

「関連がない」は「害がない」ではありません

2023年の分析で少量飲酒の死亡リスクの有意な低下が見られなかったことは、少量なら害がないという意味ではありません。がんなど、病気ごとの影響は別に考える必要があります。

妊娠中・授乳中・運転前は別の話です

妊娠中や授乳中、運転の予定がある場合は、この記事の範囲ではなく、それぞれの場面での注意が必要です。

要点: 平均の話であり、個人には当てはまらないことがあります。迷ったら医師に相談してください。

よくある質問

結局、少量の酒は体にいいのですか、悪いのですか?

確かな有利さは示されていない、というのが現時点での答えです。2016年の分析では、補正すると少量飲酒の相対リスクが0.97(95%信頼区間0.88〜1.07)となり、差があるとは言えませんでした。2023年の分析でも、1日25g未満で有意な死亡リスクの低下は見られませんでした。

「飲まない人のほうが病気がち」という話は本当ですか?

比べる相手の「飲まない人」に、病気をきっかけにやめた元飲酒者が混ざっていると、飲まない人が不利に見える偏りが生じます。2016年の分析は、この偏りを含む研究の欠点を補正して結論を出しています。

1日1本のビールならいいですか?

ビール500ml(5%)は純アルコール量20gです。2023年の分析の少量の範囲(25g未満)には入りますが、その範囲で死亡リスクの有意な低下は見られませんでした。日本のガイドラインでは、女性は1日20g以上で生活習慣病のリスクが高まる量とされています。

赤ワインなら特別ですか?

この記事で確認した分析は、飲酒量全体を対象にしたもので、酒の種類による特別な有利さを示してはいません。特定の種類について言うなら、その研究の比較対象と補正を確認する必要があります。

飲まない人が、体のために飲み始める必要はありますか?

ありません。少量飲酒の有利さが確かでない以上、健康のために飲み始める理由は、今回確認した範囲では見当たりません。

次にこの手の話を見かけたら、見出しではなく、比べている相手と補正の有無を確かめてみてください。

※本記事は一般情報であり医療的助言ではありません。